地獄の始まり
僕が、大学であった面白い出来事をおばさんに話し、おばさんが、それを笑いながら聞いている時、外に単車の音がした。
その時は、『アパートの誰かが帰って来たのだろう』と、たいして気にもとめなかった。
しかし、『カン!カン!カン!』と金属製の階段を駆け上がって来る、聞きなれたリズムの足音を聞いた時、一気に嫌な予感がした。
そして、僕は急いで布団を出て、服を着ようとした。
おばさんは、そんな僕の突然の行動に「どうしたの?」と不思議がって訊ねた。
「いいから……おばさんも、早く服を着て!」
僕の、ただならぬ様子に、おばさんも布団を出た。
案の定、僕の部屋のドアを『コン!コン!コン!』とノックする音が聞こえた。
それに続いて、ドアノブを『ガチャガチャ』と動かし、鍵がかかっていることを確かめる音もした。
それは、ウチに来た時に、まどかがいつもすることだった。
『次は、彼女が持ってるスペアのキーでドアのカギを開ける』そう、思った僕は、急いで裸の身体にセーターを直接着て、パンツもはかずGパンを穿いた。
慌てていたため、Gパンのチャックがうまく上がらなかった。
僕の狼狽を見たおばさんも、ただ事ではないことに気付き、「どうしたの?彼女?」と聞いて、慌てて、自分の服を着始めた。
「とにかく、早く自分の服を着て……」
僕は、それだけ言うと、まどかを、何とか入り口で食い止めようと、急いで玄関に向かった。
外から、『ガチャ!』と鍵が開けられた。
玄関まで走った僕は、そこに、おばさんの靴があるのに気付いた。
またしても、同じ失敗をしてしまった。
僕はそのハイヒールを『まどかに見られるとまずい!』と思い、開こうとしているドアを押さえるよりも先に、そのハイヒールを手に取った。
どこかに隠すにも、もう時間がなかった。
僕は、そのハイヒールを後ろ手に持ったまま、自分の身体で隠した。
「メリークリスマース!!!」まどかは、陽気に玄関ドアを開けた。
そして、ドアのところに立って、慌てふためく僕を見つけると「どしたの……?」と訊ねた。
僕は、慌てて作り笑いをし「ハハハ……何でもない……メリークリスマス」そう小さく答えた。
「お前、今日はホテルに泊まるからここには来れないって……」僕は、話が違う理由をまどかに訊ねた。
まどかは、僕の様子のおかしさに先ほどの明るさは消え
「うん、ホテルでの食事が終わったら、『お酒飲まない人は、家に帰ってもいい』って言われて……だから、私帰って来たの。寮に寄って、お風呂入ったりしてたから、遅くなっちゃったけど……門限過ぎてたけど、友達に私が出た後、鍵かけてもらって……」
と、とりあえず理由の説明をした。
そして「どうしたの……?そんな顔して……?」と、今度は、尋常でない僕の様子について訊ねた。
「何持ってるの?」
まどかは、僕が後ろ手で隠す物を身体を伸ばせて、覗こうとした。
僕が「まあ、まあ、いいから……」と、ハイヒールが見えないよう、身体を横に振った瞬間、逆にそれが、まどかの目に入った。
「女の人のクツ……!」
まどかは、現状が理解できない風で「誰か来てるの?」と僕に聞いた。
「うん……まあ……」
まどかは、初めてここで、おおよその状況を理解したようで「『うん、まあ』だけじゃ分からないじゃない!はっきり言いなさいよ!誰が来てるの!?」そう、怒りの口調で、僕に迫った。
僕は小さく「……お母さん……」と答えた。
「おかあさん……?それなら、私、久しぶりだし、ご挨拶するわ……ちょっと、そこをどいて」
そう言って、僕をどかそうとした。
「いや、待って……もう、寝てるから……」僕は、なんとかまどかが部屋に入るのを阻止しようとした。
しかし、まどかは「寝てるって、電気ついてるじゃないの!?」部屋の扉の隙間から、光が漏れていた。
「いいから、どいて……」まどかは、そう言うと、前をふさぐ僕を押しのけ、その部屋の扉を開けた。




