まどかの家の危機
家でみんなで朝食を食べていると、ウチの姉が朝刊を持って来た。
「ちょっと、マルアイ銀行の大川支店で横領があったんだって。『黒田素子』っていう行員が3億円横領したんだって。これって、まどかちゃんとこのお父さんが勤めてる銀行でしょ?」そう言って、僕たちにその記事を見せた。
その記事は、大きく一面に載っていた。
僕は、その時『まどかのお父さんの銀行』と聞いても、特になんとも感じなかった。
単なる、世間一般によくある事件の一つだと思っていた。
唯一、母だけが、その姉の持って来た記事に関心を示し「伊藤さんところも大変ね」と言っていた。
その日、まどかが、新しい僕の家に、『数学を教えて欲しい』と、教科書を持って現れた。
母は、朝の記事のことには触れず、まどかを家にあげた。
まどかを部屋に入れた僕は「お前のお父さんの銀行で横領事件があったんだって?」と、世間話程度で訊ねた。
するとまどかは、急に沈んだ顔になり「そうなの、そのことで、今、ウチは大変。昨日からパパがウチに帰って来てるんだけど、ずーっとママとパパの言い争いで……時折、パパが怒鳴り散らしたり、ママが叫んで涙流したり……私、そんな家にいると落ち着いて勉強できないから、それで逃げて来たの……決して、君とエッチするためじゃないのよ……」そう言って、暗い話を、冗談を交えて話した。
「ママとパパ、今回のことで、もしかすると離婚するかもしれない……」今度は、深刻な顔でそう僕に言った。
「離婚……? いったいどうして?」
僕が訊ねると、まどかは少し言いにくそうにこう説明した。
「あの、横領した黒田って人、どうも、パパの愛人だったみたいなの……パパがこっちの銀行にいた時には、しょっちゅういろんなとこ、二人で出張に行ってたみたいで……そのことが、今回のことで、銀行にもママにもバレて……その当時は、パパがその女の上司だったんで、今、警察と銀行で調べられてるみたい。そのことを、ママは『恥ずかしい』と言って怒って……パパは、『自分はまったく横領には関与していない』って言ってるみたいなんだけど……横領した女が、元愛人じゃーねー ママが怒るのも無理ないのよ……」
「私だったら、絶対に許さない! 今回のことで、パパのこと大嫌いになった」
「男の人って、そんなに浮気したいものなの?」
その最後の、まどかの言葉で、僕は『ドキッ!』として、まどかの顔を、まともに見れなくなった。
そんな僕の様子に気付いたまどかは「どうしたの?ケンジ君」と言って、僕の顔を覗き込んだ。
「あっ……いや……まー……まどか、タイヘンだなーと思って……」
「そうなんだよ、分かってくれる?」とまどかが言ったところに、母がノックをしてお菓子とジュースを持って来てくれた。
「おばさん、どうもすみません」まどかが、恐縮していた。




