帰って来たまどか
その声を聞いたおばさんは、「まどかちゃん、帰って来たわ……今日は、大丈夫ね?」と言って、玄関にまどかを迎えに行った。
玄関に入って来たまどかは、前と同じように、僕の靴を見つけ「ケンジ君、来てるの?……どうして?」と、おばさんに訊ねていた。
「あなた、朝作ったお寿司、ケンジ君のところに持って行ったんでしょ? その時のお弁当箱を持って来て下さったのよ」と、おばさんは答えた。
「嫌だ……」
「何が嫌なの?」
「会うの」
「なぜ……?」
そんなやり取りを、まどかとおばさんはしていた。
僕は、まどかが、今日あった僕の愚劣な行為をおばさんに言うのではないかと、内心『ヒヤヒヤ』しながら、その二人の会話を聞いていた。
「そんなこと言ってないで、早く上がって、ご挨拶なさい」おばさんは、玄関から中に入るのを躊躇しているまどかに、そう言って早く家の中に入るよう促した。
意を決したまどかが、今度は『スタスタ』と、おばさんよりも先に、僕のいる台所に入って来た。
「やあ……」バツの悪い僕は、それだけの挨拶をした。
しかし、まどかは、その僕の挨拶には答えなかった。
そのまま、黙って、自分の部屋に入ろうとした。
そんな、まどかの後ろ姿に向かって「今日は、ゴメン!」と、僕は頭を下げた。
その言葉に、まどかは一瞬立ち止まると「こちらこそ……」という、そっけない返答を後ろを向いたままで、僕に返し、そのまま自分の部屋に入った。
後から、台所に来たおばさんは、そんな険悪な雰囲気の二人の様子が理解できず、「どうしたの? まどかちゃん……ケンジ君に失礼でしょう?」と、まどかの態度をたしなめた。
そんな、おばさんの言葉に、まどかは部屋の中から「早く、帰るように言って!」と、僕を追い返すように言った。
その言葉を聞いて、飲みかけのコーヒーを一気に飲み干すと「ごちそう様、俺帰ります」と言って、僕は席を立った。
おばさんは、『訳が分からない』といった顔で、「何があったの?」と僕に訊ねた。
僕が、答えに躊躇していると、部屋の中から、まどかが「まどかの作ったお寿司、おいしくなかったんだって」と、嘘の理由を言った。
それを聞いたおばさんは、「あら?お口に召さなかった……? あれは、私がまどかちゃんに教えたから、私が悪かったのね?」と、その場の最悪な雰囲気を取り繕おうとした。
しかし、僕が「そんなこと、ないです。お寿司、すごくおいしかったです」と答えたから、おばさんは、ますます、訳が分からないといった表情をして困っていた。
僕が、台所を出ようとした時、「明日から、まどか、一人で、学校行くから……放課後も一人で帰るから……もう、待たなくていいからね」と言うと、「もう、ケンジ君のことなんて大嫌い!!!」と言って、泣き崩れるまどかの声が聞こえた。
僕を見送ろうとしていたおばさんは、その声を聞いて、僕とまどかの部屋の間でおろおろし、最終的に「ケンジ君、また遊びに来てね」とだけ言って、まどかの部屋に走って行った。




