コーヒーを飲みながら
「コーヒー淹れるわね」
おばさんは、そう言うと、コーヒー豆を取り出し、コーヒーミルで引き始めた。部屋に、コーヒーのいい香りが漂った。
ガステーブルにかけたポットのお湯が『ヒューヒュー』と音を立てて、湯気を放っていた。
「はい、どうぞ」おばさんの入れてくれたコーヒーは、とてもいい香りで、家で飲む、インスタントコーヒーとは、格段の違いがあった。
『フレッシュ』と『コーヒーシュガー』も、家の『クリープ』と『上白糖』とは違って、喫茶店で飲んでいるような気分になった。
おばさんは、自分のコーヒーもいれ、僕の前に腰かけた。
「ケンジ君、おばさんと、こんな関係になって、どう思う……?」今さらの質問だった。
「どうって?」僕は、おばさんの質問の主旨が分からず、そう訊ねた。
「後悔は、してないの?」
「後悔……?」さらに理解ができず、僕はおばさんに続けざまに訊ねた。
「だって、こんな年増のおばさんと、こんな風になって……もしかすると、可愛い好きな彼女ができても、『まどかちゃんと付き合っちゃダメ!』っていうように、邪魔されて、彼女もできないかもしれないんだよ……」とおばさんは笑いながら答えた。
「……」僕は、答えなかった。
「私ね……『愛とか恋とか信じない!』って、言ったでしょ? でもね、この前、ケンジ君が『私との関係終わらせたい』って来た時、本当は……」
おばさんは、一旦、話をやめた。
そうして、「笑わないで聞いてね」と前置きをすると、話を続けた。
「本当は、私、あの時、とっても、悲しかったの。『男なんか信じない!』『絶対に好きになんかなんない!』って決めてたのに、『ケンジ君と会えなくなるのはイヤだ』って……こんなおばさんなのに、ケンジ君みたいな若い男にそんな気持ち持つなんて、ずうずうしいよね?……おかしいよね?」
おばさんは、コーヒーカップを額につけ、顔を隠すようにして、そう言って笑った。
僕は、そのおばさんの話を、黙って聞いていた。
「まどかには、『幸せになって欲しい』って、母親だから当然思ってるの。私みたいに、好きでもない人が、初めての男なんてことになって欲しくないから……だから、まどかの最初は、本当にまどかが愛した人であって欲しいと願ってるのよ……でも、それが、ケンジ君だったら、イヤ! 絶対にイヤなの……それって、私と関係を持ってるからでもあるし、そんな母親として娘を思う気持ちとは別の……女の……なんだろ……?」
………… しばらく、沈黙の時間が続いた。
「だから、ケンジ君……まどかも、あなたのことが好きで、もし、ケンジ君も嫌でなくって清い交際を始めるんなら、私は、それを祝福したいと思うのよ……でも、それ以上は絶対に無理!……私と関係した男性が、まどかにも同じようなことするなんて……絶対に……」
「それは……」僕が、正直に今のまどかとの関係を言おうとした時、「ただいま」と言って、玄関のドアが開いた。




