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鏡の先に届きたくて  作者: 斉木 明天
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妄信する運命と強撃

 坂道広場の中央に突如出没したミラー達は、それぞれが一斉に無数の銀色の手を伸ばした。

 回転するタービンの遠心力から放たれる銀の腕は、周囲一帯の民家を襲う。


「防衛! 各自民家を守れ!」


 クラスの指揮担当者の号令に合わせ、私達は動き出す。

 坂道広場の初手には、ミラーの開幕の先制攻撃を想定して、各々の防衛民家が最初から割り振られている。私とアネモネは担当された民家に急ぎ駆け寄り、広間の中央に向き直った。


「行くぞ、アネモネ!」

「うん!」


 迫りくる銀の腕群を前に、私とアネモネは、各々の構えをとった。

 私はグローブとブーツを身に着けたまま、武術の構えを取る。

 アネモネは少し後ろで、アーチの際立つ、真っ白な弓を構えた。

 アネモネが、ロープのついた矢を限界まで引く。攻撃のタイミングを合わせようと、振り向いてみたその顔は、臆病なアネモネでなく、まるで冷静な狩人のようであった。

 今だ。そんな声でもするかのように、アネモネの目がさらに険しくなる。それと同時にロープが結ばれた弓が、私の真横を飛び、銀の腕の一つに飛んだ。

 いつもながら、なんという精度だろうか。遠心力で飛んだことで、いびつな軌道を見せていた銀色の腕の手の甲を、アネモネの放った矢は確かに貫いた。

 やることはやってくれた。今度は私の番だ。

 アネモネが放ったばかりのロープをしっかりと握り、敵との間にピンと線を引く。

 敵はこっちに向かってきているのだから、すぐにロープが緩む。そんなことはさせない。

 私は、走りこんで跳び上がる。そして、アネモネのロープの上に立つと、そのままロープを駆けだした。

 目の前には、無数の銀の腕。無数の獲物。

 大量の点数を、逃がさない。


「うおぉおおおぉぉお!!」


 普段とは違う、殺気を含んだ雄たけびを上げる。

 そして、両手の爪を開き、ロープから跳び上がった。

 近くの銀の腕を掴む。そして、木から木へ飛び移るように、その腕を軸に端へと飛ぶ。その傍ら、全身を回転させ、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 端にたどり着いたら。残しておいた銀の腕に着地する。

 こいつは、民家内部に命中しない。

 飛んでいく先が壁なのを一瞥すると、反対の端へ向かって跳んだ。

 全身を限界まで捻り、回転を乗せて斬っていく。そして、反対側の銀の腕も、切り刻んだ。


「一瞬……。さすが、()()のゲッケイ……」


 魔獣。円状の広場にて、向かってくる銀の腕に対し、防御の構えを取っている誰かが、震えた声でそう口にした。

 空中を舞いながら、自分の周りを見てみれば。自分の防衛区へ飛んできていた銀の腕群は、空中に飛び散る水銀のように、ただの水しぶきになり果てていた。

 出だしは上々。自分自身の武器は、いつも通りの快調だ。

 鏡引(かがみひき)は、ミラーとの戦いに向けて、様々な武器が開発されていた。

 最低限の適正を想定した、周辺の大半の訓練兵が使う代物として、剣、盾、銃といった、汎用性の高い代物が量産品として作られている。

 しかし、武器によって生まれつきの素質から来る、適正というものがあった。

 そういった適性の高い人間だけが使用できる、特別な武器というものが、いくつかあった。


「やったね、ゲッケイ!」


 喜びの声をあげながら、伸びているロープを掴むアネモネ。

 アネモネは、弓の適性が優れていた。

 その時、広間全体から爆音が響く。

 ミラー達が放った手は、広間全体の民家に直撃した。荒々しい惨劇のような光景であったが、住民達の悲鳴に比べれば、訓練兵達の恐怖の声は聞こえない。

 盾を得意とする訓練兵達が、無事一般人への直撃を防いだようだ。


「まだだ、アネモネ。次の攻撃が来るぞ」


 あたり一帯に舞う砂煙の中から、大量の銀の腕が戻っていく。

 その手には、掴み引きはがしたであろう、民家の白い壁の残骸が握られていた。

 それらは、元のタービン上のミラー本体へと入っていく。

 圧縮されるように吸い込まれたそれは、回転するタービンの中で、削るような音と共に、細かく分解されていく。

 不意に、その光景を見たところで。あの青年が同級生の片足だけを回収し、傍らに置いていた姿が脳裏に過った。


「……あんなのに巻き込まれれば、そりゃ足しか残らないだろうな…」


 ()()に人が飲み込まれる様を一瞬考え、それを振り払う。

 すぐに、細かく分解された石が、散弾銃のように広間一帯に撃ち込まれる。何もしなければ、銀の腕の比では無い、この場にいる人間、みんなハチの巣だ。

 だが、こんな時にこそ、鏡引(かがみひき)の業だ。

 アネモネは、最初にロープを刺した、すでに千切れ宙を舞っている銀の腕を()()()()()

 広間に点在する訓練兵達も、防ぎ、切り落としたことで地面に散らばっている銀の腕を急ぎ回収している。

 自分もまた、それに合わせ、自分の周囲の宙を舞っている銀の腕の残骸を、つかみ取った。


鏡引(きょういん)。開始!」


 組織名でありながら、作業工程でもあるその名前を言い。私は、つかみ取った腕の残骸を()()()()()()

 口一杯に、綺麗なきらめきを放つその見た目とは正反対な、金属製の廃液のような味が広がる。慣れで吐きそうになるその味を堪えると、全身に、ミラー由来の鏡力(きょうりょく)が流れるのを感じた。

 全身に鏡力が行き渡ったのを感じて、私は、グローブとブーツの側面を、それぞれの手足で打つ。すると、グローブとブーツ内に細い注射針が刺された。

 血が抜けるように、体から汚染された鏡力が吸い上げられる。私の体から吸い取っていくと、グローブとブーツのそれぞれが、回転し続け揺らめき続ける鏡のように、虹色に輝きだした。


「鏡引、完了……!」


 アネモネの方に目を向ける。

 最初のロープで回収した銀の腕は、アネモネの武器である弓にぶつかった瞬間、粒子のように分解され、アネモネの弓が虹色に輝きだした。

 どうやら、アネモネも鏡引が成功したようだ。

 ミラーは、その常在性ゆえに、いつどこでも戦闘が発生しかねない。そんな状況に、戦場で補給の事を案じることは、難しいというのが、人とミラーの戦いの中で出た、ひとまずの結論であった。

 なら、ミラーと戦えるだけの補給をどこですればいいのか?

 そう考えた末に編み出されたのが。鏡引である自分らの、鏡引行為であった。

 襲い掛かってくるミラーそのものをエネルギーとして、戦いの中で補給し、反撃に出る。それが、鏡引(かがみひき)の在り方だった。


「ゲッケイ! 援護は任せて!」


 アネモネは、片膝を地に付き、弓を横に構え大きく引く。その弦には、アーチには、一本の矢だけじゃない。数本の虹色に輝く矢が、放射状に構えられていた。


「ああ、頼んだぞ!」


 自分は地に着地すると、アネモネに背を預け、今、大量の石を散弾状に撃ちだしたミラーへ向かって駆け出した。

 大丈夫。私は敵を討つだけでいいと信じている。


「てやあぁぁあ!!」


 背後で、アネモネの声と共に、弓から矢が放たれる音がした。

 自分の真上を矢が飛び、ミラーへと飛んでいく。それに対し、数百といえる細かい石つぶてがミラーから飛んできた。


(さん)!!」


 アネモネの掛け声に合わせ、放たれた矢は、より一層光を放つ。

 まるで、鏡による反射がモザイクのように矢を包むと。()()()()()()()()()姿()()()()()

 矢はまた鏡に包まれ、二本は四本へ。

 四本は八本へ、八本は十六本へ。

 アネモネから放たれた矢は、鏡力によって無尽蔵に増幅され、石つぶてを上回る数と化した。

 矢は、細かい石つぶての一つ一つに、まるで生き物のように飛んでいく。ありえない軌道を見せ、一つ一つに命中しては爆散し、霧散する。

 私の体を貫くはずだった石つぶては、みんな消え失せた。それどころか、真横にまでも飛んで行ったアネモネの矢は、他の訓練兵の担当区の前にもも躍り出て、そこの石つぶてを破壊していった。


「! すげぇ……」


 感嘆の声が聞こえる。アネモネは決して成績の低い劣った訓練兵なんかじゃない。支援に並べば、横に出るものの居ない、天才の性を持った弓兵だった。

 そして、そんなアネモネに劣る自分でも、無かった。

 懐に入り込んだ。

 広間中央、今しがた攻撃してきたミラーのうちの一体の足元へ、私は入り込んだ。


「うおおおらああぁぁああ!!!」


 次の瞬間。私は広間の地面を砕き、弾丸のような速度でミラーへと飛び込んだ。

 虹色に輝く手と足は、形状を変化させ、()()()()()()()()()()()

 そして、ミラーに何をさせるまでもなく、回転するタービンの隙間に爪が刺さり、そこを中心として、ミラー全体にひびが入った。

 自分自身が、()()()()()()()()()()()()()()()()。鋼鉄をも圧倒するミラーの体は、無残にもバラバラへと霧散した。


「まずは、一体……!」

「や、やりやがった…! こんなに速攻で、ミラーを討つなんて…!」


 これが、魔獣のゲッケイと、孤軍大隊のアネモネか。深夜班の兵士が、驚きの声で、そう言った。

 その声を聴き。自分は、ああ、素晴らしい。そう思った。

 自分とアネモネのコンビネーションなら、どこまでも無敵だ。

 そして、何よりも。自分の適性として選ばれたこの武器だ。

 自分が夢見ている、憧れの人の背中を思い出す。その両手と両足には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 これは、運命だ。

 遅れてやってきた、歓声の声と、アネモネの嬉しそうな声の中で、自分は改めてそう確信した。

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