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鏡の先に届きたくて  作者: 斉木 明天
4/6

市街の交戦区域

 クラス2つ分の生徒の駆ける音が、真っ白な坂に響いている。

 急げ、間に合え。そんなことを呟く生徒の声も聞こえる。


「日昼班、来たぞ!」


 メガホンを持った青年が、前方に見えてきた市街の入り口で声をあげた。

 教官の話していた、深夜担当だった班の隊員だろう。坂から大勢の生徒が、各々の武器を携えて駆けてくる様を見て、その顔は、安堵しているようだった。


「深夜班、日中班の合流サインが出るまで、戦闘続行! 各担当区域のサイン確認次第、学園に撤収!!」


 街一帯から歓声に近い返事が響き渡る。

 そして、それと同時に私やアネモネも含んだ、鏡引達は市街へと突入した。

 一部の生徒は、各々の武器に向いた地理を考えてか、建物の壁を蹴って、屋根に上がって駆けて行ったりもする。

 朝と昼、夜の役割交代のタイミングの活性は、この学園都市の一般人区域の風物詩だ。各役割の交代直前の時間が、一番ミラーとの戦いでの負傷が多いこともあり、こうして大勢の増援が来るのは、町の人々にとっても救いの一つだろう。

 最も。どこにいようと変わらない分、何十歩も引いたうえでの救いだと思うが。


「ひっ」


 市街に入る瞬間、アネモネが傍らを見てひきつった声を上げた。

 なんだと思い、そちらを見る。ちょうど、今しがた声を上げた深夜班の青年が、壁際に退いたところだった。

 だが、退いた所の地面に落ちていたものが、縁起でもなかった。

 足だ。左右どちらの足かは分からないが、側部に機械式のサポーターらしいものを付けた、人間の足だけが、青年の足元に転がっていた。


「~っ…!」


 アネモネは口をへの字に曲げて、堪えるように前を見なおす。

 今の足は、なんだったんだろう。

 ミラーが深夜班の一人を喰った残骸なのは想像できる。しかし、それをなんで、今退いた青年は、戦闘地から持ってきたのだろうか。

 鏡引の武器は、生産コストも掛かるため、貴重だから回収されることは推奨されている。だが、足につける武器なのを考えると、左右それぞれに武器は付いていたのだろう。そのうちの片方しか回収できなかったとなれば、()()()()()()()()()()()()()


「わざわざ回収しないで、置いておけばいいのにな…」

「えっ?」


 隣で、アネモネがえっ、といった顔でこちらを見た。

 なんでそんな顔をする? ただ、そうなんだろうなと思ったから言ったのだが。何か変だっただろうか?

 アネモネの心中が少しわからないところだが、ちょっと首をかしげる。

 ひとまず、今はミラーに集中しよう。そう思いなおし、集団とともにミラーのもとへ向かった。


 入口時点から聞こえていた争いの音が、より一層強くなってきた。

 目的地だ。私はアネモネと共に広場へと出た。

 そこは、坂の途中に作られた、円状の広間だった。

 円状の広間は、頂上であるがゆえに平坦な地に建てられた学園内に、大きいものがあるが。基本、そういった広間は、平らな土地に作られている。

 だが、この広間は無理に坂の途中に作られている。その縁を囲むようにして、真っ白な民家が並んでいた。

 なんとも見るからに、いびつなその広間だったが。そこは大勢の人が休日を寛ぐためにあるような場では無い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ミラーを出現し易くするための、罠だった。


「深夜班発見!」


 同じく来ていた隊員の一人が、広間の中央を見て叫ぶ。

 そこには、肩で息をして、広間の中心の()を恨めし気に見つめる深夜班の姿があった。

 坂状にできた円状広間の中央にあるその塔は、先端に、眩しいほど、乱雑に重なり合った鏡の集まりがあった。

 清々しい程の光を浴びて、ゆっくりと光を見せつけるように回転するその鏡は。あたり一帯の景色をところかまわずに映している。

 そして、何よりもその鏡は、広間で立っている深夜班から、今駆けつけてきた私達日中班、それから、広間周辺の民家で、逃げ出すこともできず、おびえた様子で外の様子を見ている一般人たち。大勢の人間が、まるで、()()()()()()()()()()()()()()、反射し映し出していた。


「本当に、悪趣味だ…!」


 一瞬の静寂の中、腰のギアに手を掛けたダスティーが、苦虫を潰したような顔で、吐き捨てた。

 その次の瞬間だった。

 広間中央の塔、吸暗塔(きゅうあんとう)を中心に、銀色の歪みが無数に表れた。

 ぎゅおんと、電気かなにかを機械に置き換えたかのような音と共に、その歪みはそれぞれがタービン上に連なる板へと変貌していく。

 そして、タービンとしての形を整え終えると、その板の表面からは、人間の腕に思われる、長さが様々の銀色の腕が伸びた。

 それは、人類にとってはもう長く。私達訓練兵には生まれつきの痣。

 人のいる場に現れ続ける怪物、ミラーだった。

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