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鏡の先に届きたくて  作者: 斉木 明天
2/6

いつもの目覚め時

「おーはっよ!」


 窓から差す光の中。そんな明るく陽気な声が聞こえてきた。


「ん……」


 ゆっくりと目を擦り、ぼんやりと前を見る。

 そこには、左肩からお下げの髪を垂らし、頭部右とお下げ髪のそれぞれに、真っ赤なリボンを結んだ陽気そうな女の子が居た。

 よく知っている顔だ。


「……おはよう、アネモネ」


 目の前のリボンの子の名前を呼ぶ。


「おーっす! どーしたのゲッケイ、いつも早いのに。 町にはミラーが出放題だよ!!」


 本当に、その通りだ。いつも朝の自警訓練には、寝坊してばっかのアネモネより、自分の方が早く起きる。

 それでいつも私の方が彼女を起こすのに。どうしてかな…。


「ああ、そうだな……」

「んもー。そんなんじゃ、アネモネが先に上のランク行っちゃうよー? いつものゲッケイみたいに、前をいってくれないと……はれ?」


 一回の早起きで、調子の良い事を言っているアネモネだったが、私の顔をもう一度見ると、きょとんとした顔をした。


「どうしたの、なんで泣いてるの?」

「…え?」


 アネモネにそう言われて、自分の目元が熱くなっているのを感じた。

 そして、自分の頬を熱い水が流れているのにも気が付いた。


「? ゲッケイ?」


 どうしてだろう。もう、耐えられない。


「わっ!?」


 次の瞬間、自分はベッドから身体を乗り出し、アネモネに抱き着いていた。

 アネモネの背中を優しくさすり、その暖かさを感じる。

 自分が何をしているのか分からない。なんで悲しくて、それでいて嬉しいのかが理解できない。


「ど、どうしたのゲッケイ! 怖い夢でも見た!?」

「違う。分からないんだ、アネモネ……! ごめん……!」


 ただただ、アネモネが生きているという事が、砂のように乾いてた心に、突然流れ込んできた水のように、嬉しくて仕方がなかった。


「おぉぉ、おぉ……よしよし、大丈夫、大丈夫だからね。ゲッケイ」


 アネモネは、ただ泣き続ける自分を、戸惑いながらも撫で続けてくれた。




 しばらくして落ち着きを取り戻し、私とアネモネは朝の自警訓練に向かいだした。


「びっくりしたよほんと。いっつもクールなゲッケイが、私に抱き着くなんてさ。これってあれ? ママみを感じた?」

「変な事を言うな。私でも、よく分からん…」


 実際、なんで泣いてしまったのかよく分からなかった。

 アネモネの顔を見た途端。どうしてもこみ上げてきてしまったんだ。入学当時から見ている顔なんだが、それが故に、なんでか分からない。

 考えていても仕方が無い。自分は、自警団として、日々の務めに集中するのみだ。


「お前たち。アネモネはまあ、いつも通りとして。どうしたんだ、ゲッケイ?」

「んっ…」


 考え事をしているうちに、前から声を掛けられた。

 そこには、片方の腰部分に巻き取り式の歯車のような装備を身に着けた、鈍い青の目立つ女性が立っていた。


「む……ダスティー」

「おはよう。もしくはおそよう。同じタイの成績だというのに、随分とまあ、余裕を見せるものだな」


 静かなままこちらを睨みつけてくる。こいつは、本当に苦手だ。いつもこっちが上がれば、向こうも上がる。向こうが上がればこっちも上がる。同じ成績を誇るがゆえに、いつも憎んでくる。

 口が悪いだけに。仲良くするのも難儀だった。


「ちょっとちょっと! アネモネはいつも通りって、どういうことー!!」


 甲高くも可愛らしい声で、うっとおし気な気持ちが剥がれる。

 ふと横を見て見れば、アネモネが拳をぶんぶん振って、ぷりぷりと怒っていた。

 アネモネの成績は並みクラスなのだが、だいぶ寝坊しやすい性質(たち)なので、愛嬌的にからかわれることも増えてしまっていた。


「おお、どうどうアネモネ。ステイ」

「なにがステイじゃー!!」

「ぷっ……あっはっはっは!」


 こちらがアネモネを羽交い絞めにして抑えていると、ダスティーは噴き出して笑い出した。

 お前の言葉で私もアネモネも怒ってるから、なんかアネモネを解放して襲わせようかって一瞬思った。


「全く、本当に余裕ばかりだな。今日は日曜日、ミラーが一番小うるさい日だ。そんなに気を抜いて、いざってときに挟み殺されないようにな」


 そう言って、ダスティーは踵を返して、廊下の先へと向かった。


「全く……。それはお互い様だな」

「むぅ…! ゲッケイ! 絶対に二人の力で、ダスティーの成績に勝とうね!!」

「いや、ミラーの討伐数は個人ごとだが」

「ゲッケイの点数貰えれば、いける!」


 あほか。軽く頭を小突き、歩き出す。

 その後をアネモネがついてきつつ、私は廊下の先の外へと出た。

 一瞬、辺りが眩しく真っ白になる。

 光が収まるにつれ、感じてきたのは、私の真っ白な髪と、その先を結んだ一対の星飾りを揺らす。涼しい潮風。

 そして、私達の住まう学園を丘の中心として、穏やかな丘の続く真っ白な街が広がり、その向こうには、少し丸さを感じるほどの、真っ青な水平線が広がっていた。

 ここは、学園都市スガタミ。私たちの今の故郷であり、私達の守るべき街だ。

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