夕日の中の割れた鏡
自分の呼吸は酷く乱れていた。
全身に失敗を感じた時の、細かい針が肌一面を刺したような感覚が走っている。この感覚は一番嫌いだ。誰かに見限られた時、誰かを裏切った時、些細な言葉が躓いたときの、自分自身を殺すような感覚だ。
「待って。お願いだ、待ってくれ! 本当に、本当にたどり着きたくて、色々やったんだ!!」
自分は地に着いた自分の手から、目の前に顔をあげ叫ぶ。
目の前には、とても静かに、赤黒い夕日を背にした長髪の女性が立っていた。
赤い色だけを斑に残して、乾いた雰囲気を残した砂浜の上に立つ彼女の姿は美しく。そして、全てが完璧な上で、それができないこっちを、心から軽蔑しているようだった。
その目を見るだけで、呼吸が荒くなる。どうして、どうして? 自分はどこで間違えたんだ。後で冷静になって、全てが時間を掛けて理解できてからじゃ遅い。今、相手に見限られるこの瞬間に、自分が何を間違えたのかが理解できないと意味がない。
そんな恐怖心が自分の頭を高速で書き込み、書き込んだがゆえに頭を真っ黒で読み取れなくして、思考を停止させる。
「届くために、本当に色々やったんだ。貴女みたいな力を、貴女みたいな才能を、貴女みたいな憧れられるだけの理由を。なのに……なんで!! 何が学べてないの、私は!!」
自分は手を地面から離し、彼女に駆け寄ろうとした。
だが、その瞬間に激痛が走る。
痛みで目を下に向けて見れば、一線の斬撃が、自分の手を、手首から切断していた。
自分はそのまま情けなく地面に倒れる。砂浜に倒れ、自分の手首から血が噴き出して砂浜に消えていくのに。自分は立つことも、血を止めることも出来なかった。
悪い子の手は切り取られる。なんて言葉があった気がするが、まるでそんな感じだ。
「……たしかに、貴女は頑張ったわ」
自分が痛くて、居たくて。説得力もなんもない言葉を叫び続けている中、彼女は今しがた出した剣を降ろしながら、口を開く。
「でも、私が学べてないと言ったのは、人の気持ちを理解する事だけよ」
そう言いながら、彼女は私に近づいてくる。
それは、慰めるわけでもない。無視するわけでもない。
ただ、何もできないくせに、一丁前に人の人生を壊すことしかできない私を、今後邪魔にならないように、殺す為に。
「同じ実力を得た? 同じ地位を得た? 同じことができるようになった? 後は、認めてもらえるだけ?」
泣き叫ぶ自分の視界が暗くなる。おそらく、夕日から影になるように、彼女が剣を振り上げたんだ。
「私は、最初っから最後まで。人の気持ちを学んでほしかっただけ。一番学ぶはずの事ができないから、それ以外の事を学んで、学んだ気になっただけの。本当に、屑の愚か者」
その瞬間、彼女の剣が私に振り下ろされた。
自分の首が飛び。本当に何もできなくなったことを、自分自身、死んでいく中で実感する。
『おまえは何も学ばなかった』
最後に、そう呟かれた言葉だけが聞こえた。
悔しい。悲しい。なんで、なんでどうにかしようと生き続けたのに。軽蔑されたうえで、お別れを言われるまでになってしまったんだろう。
やり直したい。今度は、裏切り者じゃなくて、褒められたい。
後悔の言葉ばかりを呟きながら、私の気持ちは暗転した。
前回書いてから色々あって、また書きたくなりました。
書いてる途中の作品の中、書くものですが、書きたいと思うタイミングで書いていこうと思います。
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