決闘 2
「それでは始め!!!」
セルジさんの言葉と共に先ず動いたのは相手の三人。
明らかに後衛装備をしているリオンと戦闘力のない僕を先に沈めてからゾフィーを三人で相手にしようというつもりなのだろう。
一番強いゲスがゾフィーの足止めに向かい、残りの二人がリオンに向かう。
僕のことは攻撃力がないと無視して放って置いたら拙そうな後衛のリオンを狙うという正攻法。
それに対してゾフィーは三人を止めようと動き、リオンは大きめの魔術を使うときに発生する魔法陣を足元に出しながら詠唱を始めている。
それは発動すればほぼ確実に勝負を決める一撃であるという事が明確であり、放っておいてはいけない相手を明確に表している。
そしてゾフィーが最初に接敵する。
盾を構えながらステップワークで三人の足を止めようとするがそこにゲスが踊りかかる。
「ここは俺に任せてあの狐女をやっちまえ!」
そう言ってゾフィーの盾に掴みかかりながら逆の手で切りかかる。
対するゾフィーはというと切りかかって来たナイフを逆の手に持った短刀で受けながらゲスごと盾を振り回し足止めを行おうとする。
しかしゲスもここで手を離せば大きいのをもらって一網打尽にされると必死で食い下がる。
その頑張りに応えようとゴミとクズは両サイドからリオンに向かう。
僕はその片方、クズに向かってタックルを試みる。
本来それは体格に勝る者が相手以上の反射神経と機敏さを以って奇襲として行う事であり、そのいずれもを満たさない今の僕がそれを行うのは愚策中の愚策。
ただの自殺行為としかいいようがないのだが。
「いい!?うひゃぁ!!」
それを見ていた者は何故グレンのタックルがクリーンヒットしたかが分からなかったと後に語る。
そのタックルのクリーンヒットを受けたクズは自分の勢いとタックルの衝撃でくの字に成りながら背中を打ち付けた後に反動で後頭部を打ちつけることにより失神する。
先ず一人脱落、それも一番弱いと目されていた僕がそれを成した事に会場はどよめきに包まれる。
それに影響を受けた者が一人。
ゴミである。
走りながらクズの脱落を目にして一瞬意識を向けて目を剥く。
その姿に僕はニヤリと笑って見せると奴はにらみ返してくるがそれと同時に勝ち誇った顔をする。
後衛職のリオンへの壁はもうない。
自分は前衛で相手の女は後衛だから自分が勝つ。
そしてその後生意気な僕を始末してゾフィーを二人で相手すれば勝てると思ったのだろう。
その考えは正しく見える。
僕は正面切ってゴミと戦って勝てるほどの戦闘力は有していない。
クズがこうやって倒れているのはクズが性格的に猪突猛進の脳筋であり、攻撃する対象以外は目に入らず、それ以外は無視して突っ込むと言う性格をしっていたからだ。
ゴミはそういう性格ではない。
しっかりと前を見て動くのでこのような奇襲は通用しないのだ。
故にこのままリオンを倒されて僕もやられるのが規定ルート、そう思っておかしくはない、おかしくはないのだが。
『バチン、ザーーーーー』
と言う音が響く。
「嘗められたものね、敵を前にして意識を逸らすなんて、前衛失格よ。まぁその程度なのは分かってたけど」
リオンの呆れた声が響く。
ゴミは何があったか理解出来なかっただろう。
その顔は与えられた苦痛よりも驚愕が張り付いている。
その表情を見る限り恐らく苦痛は感じていない。感じてはいないが。
「……??!?」
ピクピクと身体は痙攣しているだけで動く事ができない。
その理由はリオンの一撃。
彼女はゴミが僕に意識を取られた瞬間を見計らって近寄って顎を魔術発動体の扇で弾いたのだ。
それだけで何故?と言えばそれが脳震盪を引き起こす為の攻撃だからというのが答えである。
顎先を掠めるだけでも脳は揺れる。
ましてやクリーンヒットしているのである。
その一撃で脳震盪を起こしたゴミは身体がいう事を聞かずに転倒、そして動けずに戦闘不能になるが、それが理解できない。
それが事の顛末である。
何故リオンがそれが出来たのかと言えば。
「術師だと思って近付けば何も出来ないと思った?ばっかみたい。私は前線で戦いながら術を使えるのよ、このくらい出来なきゃ冒険者なんてやってられないわよ」
と言って止めの一撃で意識を刈り取る。
その言葉にダメージを受けた人が何人もいたとかいないとか。
昔から活発に動いていながら物覚えも術への適正も高いリオンにとっては当たり前の事なんだけど、それって普通じゃないからね?
僕の心の中の突っ込みは届く事はないけれど、戦局の大勢は決したといえ……る前に勝負自体決まっていたね。
ドサッという音と共に投げつけられたゲスの身体。
「やっぱこいつら、よえーな」
あくび混じりに歩いてくるゾフィーの一言が、勝負の決着を報せるのだった。