決闘 1
冒険者という職業がある。
指名手配にされていたりして表を歩けない人間以外は誰でもなれる職業。
いわゆる何でも屋である。
その特性上冒険者同士での揉め事は尽きる事がない。
それはもう毎日揉め事ばかりと言っても過言ではないだろう。
今日はあいつが、昨日はあいつがといったように……
それは時として冒険者ギルド内でも起こる。
依頼の取り合い、肩がぶつかった、ナンパがしつこい等々。
そう言った時には大抵ギルドの従業員の誰かが入って取り成したりして事なきを得るのだが、そうはならない事もある。
そんな時でも上級冒険者上がりの誰かが解決する事が多いのだが、どちらが悪いと明らかに断じれない事もある。
そしてそれは話し合いでは解決しない。
そんな時どうするか?
荒くれ者同士なので力での決着になる。
しかしギルド内で暴れられれば被害は大きくなる。
そこで生み出されたシステムがある。
それが決闘である。
お互いの主張を正当化するために模擬戦を行い、勝敗によって揉め事を解決するのだ。
今回リオンが使ったのはこの決闘というシステムの裏技的な使い方だ。
本当の所を言うと僕がこの三人に殺されかけたという証拠は残念ながらない。
状況を見れば明らかなのだけれど、僕の足についた刺し傷も何故か完治してしまっていて証明する事が出来ないのだ。
ただしそれは内情としてである。
奴等はそれの事を知らずに僕が死んだモノとして報告を上げてしまった。
そこで死んだ僕が出てきて、その僕を保護したリオンが「お前達が殺そうとした!お前達を許さない!決闘だ!」と主張したのだ。
証拠がある中で感情的になって決闘をふっかけられたと思った奴等はそれをギルドの内規的に合法的に覆せるとそれを受けた。
本当は状況証拠と証言しかないというのにも関わらず。
そんなわけで僕達は今ギルドの訓練場に来ている。
「グレン、本当に貴方も戦うの?」
そうリオンに聞かれて僕は首を縦に振る。
「僕の問題だからね、パーティーの問題でもあるけど、中心にいるのは僕だから、僕も戦う」
「怪我するわよ?」
「覚悟の上だよ」
そう微笑みかける僕にリオンは仕方ないかと言わんばかりに溜息をつく。
「心配すんな、お前の彼氏は私が守ってやるから心配すんな」
「だ、誰が彼氏よ!」
「へ?違ったのか?一緒にくっついて寝てたんだからお前らデキてんだろ?」
「そんなことしてないわよ!馬鹿ゾフィー!」
「へー、ほー……まぁそういうことにしておくか」
そう言ってリオンをからかうゾフィーに顔を真っ赤にして反論しているリオン。
いや、そんな反応しちゃうとね。
案の定バウルも苦笑いしてるし、リオンは僕達の方を睨みつけて「勘違いしないでよね!」って念押しするから頷く以外に選択肢がないんだよね。
「それではこれから決闘を始める!」
そんなやり取りをして和んだ所でギルドの職員の元A級冒険者の男の人――確か名前はセルジさんだっけ――が決闘の立会人として説明を始める。
要約すると、戦闘は三対三のチーム戦で行い、殺しは無しで後に引く怪我も負わせない事。
負けた方は勝った方の主張を全面的に認める事というのがルールである。
対戦するのは僕とリオンとゾフィーの三人対ズーク、ゲース、ミーゴの三人。
説明が終わった所で互いに十メートル程の距離を置いて向かい合う。
下卑た顔の奴等三人と向かい合う。
「へ、戦闘力のない手負いの奴含めた三人で」
「この俺達に勝てる?しかも女が?」
「馬鹿な奴等には分からせてやらねえとなぁ」
そんな事を言っている奴等にリオンは一歩前に出て口を開く。
「あんた達がやってきた事、その重さを分からせてあげるわ、死ぬほど後悔する形でね」
その言葉を放った所でセルジさんが合図を下す。
「それでは始め!!!」
さあ、決闘の始まりだ。