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1 それはよくある絶体絶命の中にある奇跡的な邂逅

「くそ!く、くるな!!くるなよぉ!!!こないでくれ!!」


 無駄と分かっていても手にした松明を振りながら目の前に迫るモンスターに叫ぶ。


 こんなつもりじゃなかった、なのにどうして……





 始まりは至って平凡な出発だった。 


 僕の名前はグレン。


 獣人の国の普通の村に生まれた見た目は至って普通の人間だ。


 それは人間としては普通なのだが、この国では異常。


 通常生まれるのは獣人であるのだから。


 母は狐人なので獣人の血を引いているのは間違いないけど見た目は普通の人間。


 当然の如く気味悪がられ、常に浮いている存在だった俺。


 一つ下の一緒に育った幼馴染が一人だけいたが、その村は居心地なんていいはずも無く、成人すると同時に村を出た。


 そうして街に出た俺だがここは獣人の国。


 村よりは普通の人間はいるがやはり珍しい。


 そして少数派は常に不条理に苛まれるもので、村から出てきたところの僕にまともな仕事なんていうものはなく、残る選択肢は玉石混合の山師の仕事である冒険者だけだった。


 冒険者ギルドで登録した僕だけど、獣人と人間の間には身体能力の差が大きい壁として立ちはだかる。


 僕に出来るのは()()の仕事のみ。


 それでも冒険者として、パーティーに入り、必死に生きる為にサポーターとしてやってきて二年。


 今日は一つランクの高いダンジョンに潜ることになっていた。


 それはそれまでも何度かあったステップアップの一つのはずだった。


 冒険の始まりは順調で、何体かのモンスターを倒し、階層を一つ潜り、暫く進んだ所でそれは起こる。


 見通しの良い一本道で不意にカツンという音がした直後、響き渡る雄たけびのような音。


 その直後に地響きが起き、途惑っている間に目の前に土煙と共に紅い光が無数に近付いてくる。


 中級ダンジョンに多いモンスター召喚のトラップだ。


 それを先頭を歩いていたゲースが踏んだことがこの事態の切っ掛けで、その後は入ってきた道を逆戻りに走って逃げるのみ。


 大体の冒険者が持っている救難を求める道具を発動させるが、それは大抵周りの冒険者を遠のかせるだけで、追われながら息が上がってきた所でそれは起こる。


「あ、あしが!?」


 サポーターとして着いてきている僕は他の三人ゲース、ミーゴ、ズークの三人分の予備の武装と食料、その他諸々を背負って走っていた。


 逃げ続ける今のようなときには他の三人よりも消耗が大きい。


 その為足がもつれた時に傷めてしまう。


「おい!荷物をよこせ!」


「早くしろ!」


 その言葉に応じて荷物を渡して軽くなった身体で走り出そうとするのだが……


「え……?」


 立ち上がろうとした足に力が入らずに視線を向けてみるとそこには見覚えのある小刀が生えていた。


「なんで……?」


 呆然とする僕の視界ににやけた三人の顔が映る。


「ああ、かわいそうなグレン、魔物に抵抗したのに自分の武器で足をやられてしまって」


「もう逃げられないと悟った君は」


「『ここは俺に任せて先に行け!』と言って残ってしまう」


 何を、言ってるんだ……?


「そして『なぁに、すぐに追いつくさ』といった君は」


「魔物の群れに飲み込まれ」


「二度と姿を現すことはなかった」


 三つの弧が更に大きくなる。


「此処でお別れだ」


「安らかに眠れグレン」


「君の犠牲は忘れない」


 そう言って走り去る三人を呆然と眺める事しか出来なかった僕が我に返ったのは。


「がっ!?」


 先頭を突出していた魔物が左腕に噛み付いた衝撃に目を白黒させる。


「この!放せ!!」


 幸いにも速度が速いだけの小さい鼠形の固体だったので右手に持った松明で振り払う事が出来た僕は動かない足を必死に引き摺りモンスターの群れから離れようともがく。


「くそっ!死んで、たまるかっ!」


 そうしてもがきながら必死に群れから逃れようと少しだけ高くなった窪みに逃げ込むのだが。


「くそ!くるな!くるなああああ!!」


 血の匂い、他のモンスターの進行方向、それらが僕を逃す事はなく、追い詰められてしまう。


 必死に松明を振り、遠ざけようとするが、1匹2匹は怯む事はあっても他はまだまだ一杯いて、そいつらは自らの餌食となる獲物へと手を伸ばす。


 そして、それらが一斉に獲物に喰らいつこうとしたところで、予想していない事が起こった。


 『ボッ』という音と共に地面に薄紫の火が灯り、ボボボボボッとそれは瞬く間に数を増やしていく。


 その異様さに視線の全てがそこに集まった所で、それらは次の動きを見せる。


 円を描くようにその炎の群れが回り始め、その速度を高めていき、それらは一つの炎の輪を作り上げる。


 その動きに視線を奪われたモンスター達は不幸であった。


 その炎の輪は回転を早めたと思った時にはモンスターの群れに突っ込んでいた。


 それは蹂躙する炎環、瞬く間に数を減らしていく魔物。


 そしてそれを呆然と見つめる俺。


 その中間に柔らかな動きで飛び降りてきた人影がいた。


 それは柔らかな動きで着地をし、そこに追従するふわりとした尻尾の動き。


 蹂躙する炎環の光で逆行になっていて容姿は見えないが、その姿は華奢で、それでいて柔らかさのあるフォルムの、多分、女の子。


「大丈夫?」


 声と共に振り返ったその子と、目が合った気がした。

お読み頂きありがとうございます。


本文では出せなかったので主人公グレン君の容姿についてここで少し。

身長は百七十センチ程で少しやせ気味。

黒髪黒目で目元は穏やかな印象を与えるものの垂れているわけではない。

笑顔の似合う黒髪黒目の少年という感じになります。

服装は長袖長ズボンに帽子をかぶっていましたが逃げる最中に失い、現在は身一つで傷だらけといった状態です。


 以上補足でした。

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