深紅の実
「おや、何を食べているんだ」
「ああこれか、一つどうだ」
そう言って、男は干した木の実をひとつ、友人に差し出しました。
「何だかシワが人の顔のようで、ぞっとしないなあ。ぜいたくは言えないが」
「そりゃあそうだろう。コクの実だぞ。しかも昨日仕上がったばかりなんだ」
聞けば固苦というのは墓場やら刑場やらに生い茂る樹木であり、無念のうちに死んだ魂を吸って育つとか。実に凝り固まった恨みの念は、口にした者へ力を与えてくれるのだそうです。
確かに男は、その鬼神のような戦いぶりを畏れられておりました。
「しかしそんなもの食べて大丈夫かい」
「なに、皆戦いたいと言っている。そうだろう」
そう言って男は続けざまに五つ、実を口にしました。友人はやれやれと息をつき、もらった果実をためつすがめつ眺めます。
どうにもそれは三日前、凶弾に倒れた同僚の顔に見えて仕方がありませんでした。
そんな出来事があってから十日ほどたったころ、さしもの男も絨毯爆撃をくらってはひとたまりもなく、片手片足を失って病院へ担ぎ込まれました。これまでの功績もあり手厚い治療を受けられたものの、意識が戻ったのはそのまた十日もたってからでした。
身じろぎした男に気づき、友人が呼びかけます。
「ああ目を覚ましたんだな、故郷へ帰ろう」
「いや俺はもうだめだ。どうか無念を晴らしてくれ…」
男は息も絶え絶えにそう呟いて、目を見開きました。
すると虚空へ伸ばした腕がたちまち大ぶりの枝へと変わり、ベッドの上で縮こまっていた身体はグングン伸び、いつの間にかそこには一本の木が植わっていました。小さな実が鈴なりになっています。
けれども友人は木へ油をかけてやると、火のついたマッチを放りました。
「すまない。戦いはもう終わったんだ」
そうして燃え盛る炎に向かい、両手を合わせました。