いない
生きいることが辛い。
物のように扱われるだけで、用済みになったら捨てられたあの時。
もう人に頼らず生きていこうと決めたのに、師匠と愛の温もりが俺の心を救ってくれた。
なのに、もう2人はいない。
いい人間ほど早く死んでいくのは、きっとこの世はその人たちを食い物にしているからだろう。
どんなに人のため、世のためを思って作った師匠の料理も、クズの口にはただの栄養補給。
料理そのものの旨みや有り難みなんて理解しない。
というより、そう言う脳がないんだろう。
愛している者のために身を削っていた愛は、相手の思う通りに動かなかっただけで殺された。
旦那は俺を不倫相手だと思っていたらしい。
自分の人生思い通りいかないなんて当たり前だ。
みんな妥協して今の人生を手に入れてる。
なのに、あいつは自分の価値観だけで物事を考えて行動に移し、大切だった家族を殺した。
心中しようといしていたらしいが、自分を殺す事は出来なかったらしい。
お前も愛の家族だろ。なんで一緒に逝かないんだ。
自分の思う通り、家族みんなで墓に入って一緒に暮らせばいいものを。
最後の最後は自分の命を取ったわがまま男。
俺の住む世界は腐った奴が多すぎる。
…もう、別世界で暮らした方がマシなのかもしれない。
俺は台風が近づく夜、久しぶりに外に出た。
店に入り、腐ってしまった食材を麻袋に入れて畑に向かう。
俺が食い物を腐らせてしまう日が来るなんて思わなかった。
あれだけ大切に扱ってきたのに。
袋の中の食材に謝りながら歩いていると、風が強く大雨の中ビニール袋を下げて歩いている男がいた。
その男は雨を気にする様子なく、どこかに歩いていく。
俺みたいな変わり者もいるもんだなと思い、その男を横目に畑に向かおうとすると何か落ちる音が聞こえ、そちらを見る。
すると、コンビニ弁当が転がっていた。
さっき男が持っていたビニール袋の中身だった。
コン「あの、落としましたよ。」
「あ?」
とても機嫌が悪そうにこちらを振り向いた男。
俺は弁当の中身を拾い上げて、袋に入れて渡す。
コン「はい、あなたの落し物ですよね。」
「食えねぇもん渡すんじゃねぇ。」
と言って、俺が持っていた袋を男は叩き飛ばした。
また、弁当の中身が散らばる。
男はそのままその場から立ち去った。
俺は弁当の中身を拾い、食べる。
この砂利が混じっている感じが懐かしく感じる。
しかも腹が減っていたから全てを平らげてしまった。
俺は弁当箱の空きをビニール袋にしまい、畑に行き食材を土に還す。
これからどうしようか。
俺はあの店を1人で回そうと思えば回せるが、
やっていく理由が見つからない。
俺は師匠と愛がいたからこそ、あの店に立てていた。
2人の手伝いをしたかったから、あの店で働いていたのに。
俺はその場に腰を落とし、雨に打たれながらその後を考える。
俺は何をして、今を生きるのかを。