目覚め
次の日の朝、俺はいつもより早く起きた。
普段ならあと3時間くらい寝ているはずなのに、今日は目覚めが良かった。
俺は目覚めのホットティーを淹れながらTVのニュースを見る。
いつもはこんな余裕がある日々は暮らしていない。
多分体の調子が良くてとか、トイレに行きたくてとかではなく、虫の知らせと言うものなんだろう。
俺は湧いたお湯に茶葉を入れて、5分待つ。
『次のニュースです。』
淡々と読まれる原稿。
けれど、流れる映像はとても酷いものだった。
「…あの男。」
昨日雨に降られても傘を使わず、愛の居場所を聞いてきた不審な男がTVに映っていた。
男は昨日着ていた同じスーツを着ていたが、布の下から少し見える袖元から赤い物が見えてる。
『容疑者は、一家心中を図ろうと…』
その言葉が流れ、映像が切り替わる。
パッと映ったのが、とあるマンションの一室の玄関先と、殺された家族の写真が映し出される。
そこには3人の子供を腕いっぱいに抱いている笑顔の愛。
愛の名前と子供の名前の横に『死亡』と言う文字が書かれている。
『口論時、そばにあった食事を容疑者が投げ、それに激怒した妻は家を出ようとしたところ、容疑者が妻の背中を殺傷。すぐさま容疑者は…』
永遠と続く単調な言葉が冷たく感じる。
俺は信じれられなくて、愛の携帯に電話をする。
が、出てくれない。
いつも必ず出てくれるのに。
[…ルルルル]
下の店の電話が聞こえる。
こんな朝早くから予約の電話かと思い、俺はすぐに電話を取りいく。
コン「は…」
『あ!出た!コン助大丈夫?』
この声は常連のおじさんの声だ。
コン「俺は…。」
『愛ちゃん…の事、ニュースで見たよ。』
コン「…。」
『今日はお店、休むよね?わたしの予約をキャンセルしといてくれ。』
コン「…はい。ご連絡ありがとうございます。」
『気持ちが落ち着いたら、また店開いてね。待ってるよ。』
そう言って、お客様は電話を切った。
その後も店の電話が鳴り止んでくれなかった。
俺を思っての数日間の予約キャンセルと悔やみの言葉。
それが俺を何度も愛がいなくなった事を伝える。
ようやく電話が鳴り止んだ頃は外は暗くなっていた。
俺は1人部屋に戻り、冷えてしまったホットティーをカップに入れてすする。
茶葉を取り外さずに電話に出てしまったので渋くなってさらに美味しさが失われていた。
俺は愛と師匠の温かみを知った上でまた独りになってしまった。
俺はこの孤独に耐えられるのか、独りで考えながら消えかかった太陽の匂いがする布団に沈んだ。