強情
店が閉まり、後片付けをする。
師匠「ゴミはこれで全部か?」
コン「いや…」
俺の手には残り物の食材。
師匠「…生ゴミは土に還して、また食材を作ってくれる栄養になる。だから入れろ。」
コン「…はい。」
毎日このやり取りをする。
自分自身食べられるのかさえ分からない部分も、食材だからと言って残してしまう。
子供の時に食べていたものが残り物だったからこそ、腐ってないものは勿体無く感じてしまう。
俺は師匠の持っている麻袋に生ゴミを入れて、ごめんと謝る。
師匠「…食材を大事にする事はいい事だ。でも食べられないものは食べられない。そういう時こそ肥料にするんだ。分かったな?」
コン「はい。」
師匠「じゃあ、これ持て。」
師匠に麻袋を渡され、そのまま外に持って師匠と一緒に畑に向かう。
その畑は俺が来てから師匠が作ってくれた。
さっきのようなやり取りを子供の時にして、ゴミとして出すなら俺が食うと言って全て食べようとした結果病院送りになってしまったからだ。
また病院にかかるのも金がかかるのならいっそのこと畑を作って生ゴミは肥料にしようとなった。
俺はシャベルで土を掘って深めの穴を作り、そこに生ゴミを入れて土を被せる。
コンポストというらしい。
ここの畑で作られた野菜は甘くて味がうまいので、畑を作ってからはさらに予約が来るようになった。
師匠「これで仕事は終わりだ。」
コン「お疲れ様です。」
師匠「…コン助。」
コン「はい?」
師匠「しばらくは予約のみにしようと思うんだがコン助はどう思う?」
コン「師匠がそうしたいなら。」
師匠「お前の店だったらどうする?」
コン「…。」
店を持ったことなんてないので、全く答えがわからず黙ってしまった。
師匠「…もう俺は老いぼれだ。膝も腰も悪い。だからお前に店を譲ろうと思ってる。」
コン「…。」
師匠「まあ、お前の人生お前の自由だ。やりたく無かったらやらないでいい。」
コン「俺は師匠と一緒にレストランをやりたいです。」
師匠「…人はいつかガタがきて崩れ壊れる日が来るんだ。その前に大切なものは譲っときたいんだ。」
コン「そんな事考えないでください。俺はずっと師匠と一緒に美味しいご飯を作るんです。」
師匠「コン助。本当に強情な奴だな。俺はそういうお前が好きだ。」
師匠は笑って俺の肩をポンポンと叩き、空になった麻袋を持って畑から出る。
俺はそのまま師匠についていく。
師匠と愛がいない店なんか居てもつまらない。
けれど、師匠が20代の頃から守ってきた店を無くしてしまうのも嫌だった。
俺は師匠と一緒に店に帰りながらずっとぐるぐる考え続けた。