ゴミ袋
ある日またゴミ袋に体を突っ込んで食べ物を探していると、首根っこを掴まれゴミ袋から引きずり出された。
「汚いだろ!病気になったらどうする!」
白い服の白い長い帽子を被った中年の男に怒られる。
「お腹減ってたんで…。」
「だったら普通に店に入って食えばいいものを…。親は?」
体が地面おろさせるが服は掴まれたままだ。
「いません。」
「家は?」
「ありません。」
「…。よし来い。」
と言われ外にあった階段を登りながらオレを引っ張っていく男。
これで施設行きか…と思っていたが、風呂に入れられ男がきれなくなったダボダボの服を私に着させた。
「これでよし、一緒に飯食うぞ。」
「え?」
男に手を引っ張られるまままた階段を降りて行き、少し小さめの扉をくぐるとそこは調理場だった。
「シェフ!どこ行ってたんですか!?」
「あぁ?タバコ休憩だ。」
「あれ?タバコやめたんじゃ…ってその子どうしたんですか?」
「客だ。」
「お孫さんですか!男前ですね!」
男と同じような服を着た若い女がベラベラと喋りながら鍋で何か煮込んでいる。
「お前逃げるなよ。ちゃんとした飯食わしてやるからな。」
と言ってさっきの調理場に男は行ってしまった。
オレは店をぐるっと見回す。
50人近く入れる店でとても広く、シックな深い赤とくすみがかった白が何種類もの花の絵が壁一面に描かれている。
椅子はソファと背もたれが大きく円を描いた椅子。
私は今ソファに座っている。
触ってみると光沢があるのにふわふわしている。
「このソファはベロアという生地で作られている。」
男が大皿を持ってオレに話しかけてきた。
コトっと皿を置いてまた調理場に戻ったと思えばまた皿を持ってくる。
「俺もあいつもまだ飯がまだなんだ。一緒に食べよう。」
水もこの熱々の野菜炒めもふわふわな白飯もオレが食べていいのか?
「お待たせしました!」
と言ってさっきの若い女がオレの隣に座る。
中年の男はオレの目の前の椅子に座った。
「「いただきます。」」
2人は手を合わせてそう言った。
「いただきます…。」
オレも合わせる。
男がオレと女の皿に野菜炒めを盛り付けてくれる。
「足りなかったらまだたくさんあるから、たくさん食べろよ。」
「ありがとうございます。」
オレは記憶の中で始めて温かいご飯を食べた。
しかも味が美味しくて硬くない。
これが本当の食事なんだと初めて知った。
オレはこんなに美味しいものがなぜあんなゴミ袋に入れられてしまうのか、訳がわからなかった。
オレががっつくさまに2人は驚いていたが、どんどん食べろと言ってくれた中年の男は私の師匠。
白米のおかわりを持ってきてくれた女は、愛と呼ぶようになった。