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001: 恋の始まり


「付き合って」


 放課後の教室。夕日に照らされている空間はいつもとは少し違って見える。窓が空いて夏風が涼しく吹いているのに、体が火照る。そんな青春の一幕。


俺はとても……とても焦っていた。


 え、ええなにこ何これナニコレー。ていうかこの女の子だれ?見たことないんだけど。確かに高校二年生ともなれば彼女の一つや二つ欲しいと思ってたけど。けど……。


 名前も知らないその子は距離を縮める。反射で数ミリ後ろにのけ反る。あれーなんでこんなことになったんだっけ?


 これってあれだよな。告白ってやつだよな。たしか世の中にはそんな言葉があったはずだ。


俺とは無縁だと思っていたその言葉が。でも知らない人には付いていくなって母ちゃんに言われてんだよなー。


「え、えっとー君名前は?」


 彼女はハッとした様子でこちらを見てくる。頬を少し赤らめて、少し不貞腐れているようにも見えた。


「わ、私は渋谷莉亜。あなたにちょっと付き合ってもらいたいことがあるのよ。」


 最初とは打って変わって強気になった彼女は凛々しくてとても美しく見えた。


ていうか今の言い方告白とは違う雰囲気だよな。


 はあぁ。いや、うん。わかってたんだよそんなこと。顔がちっちゃくて、艶のあるセミロングの髪型に胸が大きい可愛い子だったから、期待したとかそんなじゃないから。そんなじゃないんだからね。ほんとだからね。


「ねぇ、ちょっと聞いてる?」


「あ、あぁツンデレがどうかしたか?」


「はぁ?何言ってんの?」


 まずい。思ったことを口走ってしまった。


「あ、いやぁなんでもない。んで、何を付き合えって?」 


「これよ!」


 彼女は何やらカバンをまさぐり、写真を一枚突き出してきた。


「な!?」


 それは俺の人生の中の汚点。黒歴史に黒歴史を重ねた中学時代の写真だ。


 彼女ゼロ。友達ゼロ。ある日本屋で見つけたラノベの主人公に憧れて中二病までこじらせていた正真正銘の黒歴史。


「お、おま……なんでそんなもの……」


「な、何よ別にそんな驚かなくっ……!?」


 彼女は写真を自らの方へ向き返して驚く。見るからに(やっべー)みたいな顔をしながらまた鞄を漁る。耳まで真っ赤にしてあたふたしている。


 鞄の中からやっとこさ見つけたであろうもう一枚の写真を見せてきた。


「さ、さっきのはわすれなさい。それよりこっちよこっち」


 差し出されているのは、鳴上高校部活作成要項なるものだった。


「私と一緒に部活を作るわよ。異論とか反論とか知らないから。これは命令だから。拒否とかしたら殴っちゃうから拳で」


 プンプンと効果音が出そうな素振りで、両の手のひらのこうを合わせる。


えぇ、なんなのこの子。二十一歳なの?いや、どう見ても高校生だろ 。


ていうかそんなことよりあの写真だ。あんなコスプレして、アニメイトでラノベ読んでる姿なんて今のクラスメイトに見られたら……


 最悪だ。今まで積み上げできたものが総崩れになってしまう。


 彼女が詰め寄ってくる。近い近い顔近いよこの子。それになんかめっちゃいい匂いする。


くそ。態度でかいくせに何でこんな可愛い顔してるんだ。


「わかったわかったよ。ええと、部活を一緒に作ればいいんだろ?」


「そう。話が早くて助かるわ。」


 くそう。このアマ。何だこの上から目線は。


「とりあえず、明日の放課後B棟2階の空き教室に来なさい。」


「わかったよ。来ればいんだろ来れば。」


 彼女は満足そうに微笑むと颯爽と帰って行った。


 莉亜って言っていたかあの子。あの写真がクラスに広まることだけは阻止せねば。


 くそ、あの拳で女め。何が目的なんだ?あの写真は交渉材料かなんかか?逆らったら晒すだとかいう。


とりあえず今は従順な振りをして、どうにかあの写真をこの世から抹消せねば。



 坂田零は深いため息をつき、この場をあとにした。

 

 

 






 

「もうなんなんだ一体」


 部屋についてからも今日の一件に頭を悩ませている。ムシャクシャしてクッションを蹴っ飛ばしていると、ちょうどクローゼットの中にゴールイン。oh超エキサイティング。クッションはちょうどダンボール箱の上に乗っていた。負のオーラをビンビンに張り巡らせているその箱に。


「はぁせっかく封印したってのに」


 このダンボールには思い出がたくさん詰まっている。そう、負の思い出が。お小遣いを貯めに貯めて買ったアニメグッズやら、フィギアやら。


「もう、絶対に戻らない。あの頃には。もうあんな思いは……」


 この世は残酷で、見下される人間がいないと始まらない。人を見下すことで自分の優位性が測れるなら、きっとそれが1番楽なのだろう。


それが手っ取り早くて最短。最適。人の感情なんて他人にはどうでもいい事で、それで歯車が上手く回るのならそれに越したことはない。だからきっと……




 僕は悪くなくて、社会が、世間が、環境が悪いのだ。

 

 

 

 

 

 

 翌日放課後。今日もあの忌々しい女に呼び出されていた。


「よく来たわね。零」


「よく来ましたわよ。えーと、莉亜さん。なんのご要件で?」


「リアでいいわよ。私も呼び捨てなんだから」


「はぁ」


 なんでも上からだなこの女。あの写真取り返したら嫌味のひとつでも言ってやろう。そうしよう。俺はため息混じり応じつう、そう心に誓った。


「ほら、ここにペンあるでしょう。んで、ここに紙があるじゃない。だからここにあなたの名前を書いて……」


「ほいほいほいって……っておおおい、これ入部届けじゃん。何させてんだよ。詐欺師か」


「違うわよ。部活作るって言ったでしょ。だからあなたを部員にする為に書いてもらってんの」


 ああ、そういや言ってたなあそんなこと。写真に頭が行き過ぎて完全に忘れてたわ。


「書かないって言ったら」


「殺すわ」


 怖ぇー。それって社会的にか社会的になのか。彼女は満面の笑みで拳を合わせている。うわーまたこの人二十一歳してるよ。高校生しろよ。


「わか、わかった。書くから書きますから。許してください」


「そう。分かればいいのよ」


 涙を目尻に浮かばせながら泣く泣く入部届けに自分の名前を書いていく。


「えーと、これって何の部活なんだ?」


 ふと、疑問に思っていたことを口にする。

「人は困った時、壁にぶち当たった時、どうすると思う?」


「え、えーと努力する……とか?」


「まぁ当然よね。でもそれでも悩みが解決しない時あるじゃない。そういう人を助ける部活よ」


「お、おうなんだか凄そうだな。ハハ」


 何だか気迫に押されてしまった。


「コミュニケーション部。それが私が作った部活の名前よ。略してコミケ部」


「えぇ、その略し方は不味くないか?」


 堂々と言ってのける彼女に言うのは腰が引けたが、さすがにその名前はまずい。


「別にいいじゃない、呼びやすいし」


 まぁ、オタク文化から遠い存在からしたら、そんな認識なのだろう。コミケと聞いたらオタクの聖地だ、と答えれるのは案外オタク達だけの共通認識なのかもしれん。ていうかそれより……


「それより、あの写真。入ったら消してくれるのか?さすがに晒されたりしたら俺はもう生きていけない」


「晒す?なにを。ていうか写真って……」


「昨日見せてきた俺の写真だよ。あんな黒歴史の写真なんて持ち出しやがって。」


「あ、あーそ、その話ね。ていうか私、晒すなんて一言も言ってないし」


 あれ?そういや、脅し文句のひとつも言われてないっけ?


「え、もしかして俺の早とちり?晒しあげて俺をスクールカーストの最底辺まで落として、いじめて、泣かすわけじゃないの?」


「あなたどんだけ悲観的なのよ。そんなつもり全くないし。ただ、その間違って見せただけで……」


「な、なんだー脅しじゃないのかーはぁー」


 深い安堵の息を吐く。そうかただの勘違いか。良かった良かった。


「じゃあなんで俺の昔の写真なんか持ってんだよ」


「そ、それはそう裏ルートからよ。裏ルート。社会の闇的組織から貰ったのよ」


「えぇ、どんな嘘だよ」


 こんなあからさま嘘通せると思ってるのか。何だか急に極悪人に見えてた女がポンコツに見えてきた。


「それはどうでもいいの。あなたは私と一緒に部活を一緒にするのいい?」


「えぇ、俺は脅されてるって思ってしぶしぶ承諾しただけで、晒さないのならめんどうなんだけ……っ」


 断ろうと言いかけた時、何だかショックを受けたように、リアが涙目になっている。


「やってくれないの?」


 なんで急に塩らしくなってんの。さっきまで超強気だったじゃん。急に乙女じゃん。


「ま、まあ部活なんも入ってないし。暇潰し程度にはやってもいいかなーなんて」


「やってくれるの?」


「あ、ああもちろん1回受けてしまったからな」


「本当。やったー。やっぱりそうよね。ほんともう、やっぱり優しいなぁ」


 後半の方なんて言っているか分からないくらい小さくて聞き取れなかったけど、何とか納得してくれたみたいだ。


いやもう女の子涙怖い。なんでも出来るよもう。世界とか救っちゃえる。


「じゃ、行くわよ」


「行くってどこに?」


「部員よ。部員。部活作るには四人必要なの」


「なるほど」


 え、なんか急に戻った。さっきの、可愛かったのにな。


「でもこんなにヘンテコ……じゃない、知られてない部活に入るヤツなんているのか?」


「確かにそうね。あと2人だし、それぞれ一人ずつ勧誘するのはどう?ゲーム性も兼ねて先に勧誘した方がなんでも相手に命令出来るの」


「え、なんでも」


 ごくり。なんでも言ったらあのなんでもだよな。そのあの、健全で健康で善良な高校生が命じるなんでもだよな。


「ち、ちょっと胸見すぎ……だから。」


「あ、いや、べべばべびつにそんなに見てないから。」


 っべー。目が吸い寄せられる。なんだこれ。万乳引力か。


「男の子ってやっばりこういうことが好きなのかな」


「え、なんて?」


「何でもない!とりあえず部活勧誘するの。絶対よ」


「わかったよ」


 俺の息子が暴れ馬になっていることを悟られないべく、早速部活勧誘なのか教室を出ていく彼女に付いていく。


 部員勧誘か……昔の俺だったら絶対出来んだろうが……



だーガァ、今は違う!そう!何を隠そう、俺は厨二病ボッチから抜け出すべく、進学する奴が少ないであろう県内トップの高校に死物狂いで合格したのだ。


それに、会話の練習や、姿勢、髪型。日本人好みのスラッとした細身になるための運動に筋トレ。脱キモヲタのために毎日毎日努力を積ねできたのだ。


自分で言うのもなんだが、友達は多いし、女子からの人気もある……はず。そんな俺が一声かければ部員の1人や2人すぐに集められるさ。


待ってろよおっぱい。間違った間違った。待ってろよ莉亜。吠えずらかかせてやる。




色々なご意見、ご感想お待ちしてます。


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