カフェオレ
私の他の連載ものを読んでくださった方へ
連載ものを進めず、中途半端にしてすみません。
4月ごろにはまた書き始めます。
当たり付き自動販売機。久しぶりに見た。
ピピピピピピピピ、ピ、ピ、ピ、ピ。
最後の4音は数字が一つずつ並んだ。
それが見事に揃い、少し騒がしくも控えめな機械音が鳴った。
前方には少し足早に歩いているスーツ姿の男性。
辺りはまばらな人の姿。秋の休日、夕方の駅前。
普段なら私は絶対にこんなことはしない。でもその時はなぜか、
「あの、当たってますよ」
という中途半端に難解な言葉を放っていた。
案の定その男性は半身だけ振り返り、怪訝な顔をした。私は仕方なくもう一度声を張った。
「自動販売機の当たりが出たから、もう一本もらえるみたいです。」
彼はこちらに戻ってきて、
「そうだったんですね」
と驚きつつも納得顔で言った。その顔に私は警戒を緩めた。
「知らなかったな、この自販機が当たり付きなんて。しかも自分の時に当たるなんてな…」
となんだかしみじみと独り言をこぼしながら彼は自販機を見つめた。
そして
「カフェオレって飲めます?」
と唐突に言った。
その問いに対し、私はただただ聞かれるままに
「飲めます」
とだけ答えた。そして男性は"あたたかい"カフェオレ缶のボタンを押した。
出てきた缶を私の方に差し出して
「どうぞ」
と言った。
私は何かまだ言いたそうに少し開いている口を見て、黙って缶を受け取った。
そして男性は
「こういう時にもっとスマートにできたらいいんです けどね。勝手にやって、飲めないものだったらどうし ようとか考えると、やっぱりもう真っ直ぐに、なって しまうんですよね…。いや、すみません、言い訳で す。あの、親切に教えてくださってありがとうございました。」
と言って、照れ臭そうに頭をかいた。
一方の私はというと
「いえ。こちらこそありがとうございます。」
と当たり障り無くしか答えられなかった。
そんな私をよそに、男性は駅に向かって去って行った。
その姿を眺めるともなしに、私は自分の行動は親切心からくるものだっただろうか、と手の中のカフェオレを見つめながら考えた。
考えた。
依然として不確かではあった。だが、
"無視されること"が嫌だったからだろう
存在を主張しているのに、ないがしろにされ、背を向けられるのが、堪らなかったからだろう
と結論付けた。
また、確かに彼の行動にはいわゆるスマートさはないのかもしれない。ただ身勝手で独りよがりな優しさではない。賢いという意味でのsmartなのではないかと、先程彼に言えなかった言葉をひとり心の中で呟いた。
私はあの男性の照れ臭そうな顔を思い出して、缶の蓋を開け、駅とは反対方向に歩き出した。
暑くも寒くもない秋の夕暮れ時に、
"あたたかい"カフェオレは、しみた。
私は季節の中で秋が一番好きです。
なんとなく夏や冬は暑さ寒さのピークに向かって行き、ピークに達すると収束して、次の季節に向かうといった目安のようなものがある気がしていまして、対して春、秋はいつのまにか来て、あっという間に去って行く。
では春でもいいのでは?となりますが、やはり秋がいいのです。
春のエネルギッシュさに比べて、秋の侘しさや夏の終わりに対する追想が、なんだか、切なくて悲しくも、愛おしいのです。
そんな想いと毎日街へ繰り出し、人に揉まれるたびに思っていることを合わせまして、このお話ができました。
秋も真っ盛りではないかと思いますので、皆さんにも秋を感じて読んで頂ければ幸いです。
ご精読ありがとうございました。