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第七話~大食らいの脱がせ魔~

 マギアラは、あの【大魔法使い】マーティス・ウェラトーンの生まれ故郷である国として有名だ。

 国の中央には魔力の根源たるマナを無限に生み出す大樹がある。

 膨大なマナが満ちているということもあり、マギアラで生まれた子供達は誰もが普通の子供より魔力量が多く持っている。

 世界で活躍している魔法使いや【魔法機師】は、マギアラの出身者が多い。


「師匠。とても賑やかなところですね。誰もが、魔法を使っています」

「ここは魔法の国の王都だからね。小さい子供でも、大人以上の魔力と魔法の才能を持っていることが多いんだ。有名な話だと、赤ちゃんの頃から魔法を使えた子も居たとか」

「赤ちゃんからですか……それはすごいですね」


 早くても魔法は五歳から習うのが世界の常識だ。だが、才能あるものは赤ちゃんの頃から魔法を扱え、五歳になった時には、周りの子よりも何年も先へと成長している。

 マギアラの子供は魔法を遊ぶ感覚で使うのだ。

 

「シィは、いつ頃から魔法を使えたんだ?」

「最初の魔法を覚えたのは、六歳頃です。私には、水と氷、風、闇の適正がありました」

「四属性か。すごいじゃないか。それも闇属性の適正があるなんて」


 数ある属性の中で、もっとも少ないのが光と闇だ。確定で光の適正があるのは《天族》や《天使族》で、闇の適正があるのは《魔族》と《悪魔族》だ。

 その他の種族には、なかなか出てこない。


「とはいえ、闇属性はそこまで扱えるほど適正力がないんです。もう十三になりますけど、未だに闇属性だけひとつしか魔法を取得できていませんから」


 ちなみに、光と闇以外にも、珍しい属性がある。

 時と空。

 この二属性は、光と闇以上に適正が出る者が少ない。今、世界で知られている適性者は マギアラのシンボルとも言われるマーティスが時属性を持ち、【マギアラ魔法機師学園】の学園長ロミエーヌが空属性の適正を持っている。


 時とは、その名の通り時間に関する属性だ。時間の停止、時間の巻き戻しに早送りと、聞いているだけで使われれば恐ろしく、使えればどんなに嬉しい属性なのかが理解できる。

 空属性は、空間に関する属性で、空間を捻じ曲げたり、空間を切り離したり、とんでもない距離を一瞬で移動したりと、時属性同様に使われれば恐ろしく、使えればどんなに嬉しい属性か。

 本当に使える人物が少ないため、まだまだ解明されていない部分が多いため、未だに【魔機】に取り入れられていない二属性でもあるのだ。

 

「まあ、焦ることはないよ。まだ十三だ。これから多くを学んで、覚えていけばいいさ」

「はい。師匠」

「じゃあ、さっそくだけど……あれ?」

「どうしました? 師匠」


 今回、クロードが教師として【マギアラ魔法機師学園】に世話になると同時に、弟子であるシィも生徒として世話になることになった。

 そのため編入試験を受けるので、学園に到着するために説明しておこうと思ったところ、なにやら苦しそうに息を漏らし、ふらふらと歩いている少女を発見した。


 首下から足の先まで、まったく肌を露出していない服装。

 足はともかくとして、手まで肌に張り付く布のようなもので覆っている。おまけに顔もフードを深々と被っていたようだが、今はかなりずれて落ちており、素顔がばっちり見えている。

 桃色の髪の毛は、目が隠れるほど長く、明確に見える肌は鼻から顎の部分だけだ。


「大丈夫か? 君」


 なにやらいそいそと人気のない裏路地へと入っていくので、心配になり追いかけると、糸が切れた人形のようにぱたりと倒れる。

 

「っと」


 地面に激突する前に受け止め、ゆっくりと仰向けにする。

 

「どうしたんでしょうか。すごい汗です」

「うん。かなり体が熱い。もしかすると風邪……いや、それよりも重い症状かもしれないね」


 呼吸する度に、漏れる息は生暖かく、肌から流れる汗の量は尋常じゃない。もしかすると、彼女の肌を全然露出しない服装のせいで、ただ汗を掻いているだけかもしれないが、一応医者に見せたほうがいいだろうと、彼女を背負おうとした刹那。


「あ、う」


 がしっと、クロードの胸倉を掴んでくる少女。

 服の上からでもはっきりとわかる大きく張りのある胸を押し付けたうえ、顔まで急接近。


「ちょ!?」

「はあ……はあ……」


 顔が赤く、とろんとした艶のある表情だ。

 意識が朦朧としている? そう思っていると、いつのまにかネクタイとシャツのボタンを外されていた。


「君! いったい何を」

「―――やく」

「え?」

「はやく……なにか、食べ、ものを!」


 どこか溢れる何かを抑えているという様子で、口にしたのは食べ物の要求。どういうわけかは理解できていないが、持っていたハムサンドを渡すと、それを無理矢理奪い飢えた獣のように豪快に食べていく。

 一個、二個、三個と六個あったハムサンドは一瞬にして全てなくなってしまったが、少女は先ほどの苦しみが嘘のように消え、落ち着きを取り戻した。


「えーっと、大丈夫?」

「は、はい。大分、落ち着きました。本当にもうすみません! 本当に助かりました!!」


 落ち着きを取り戻したかと思ったが、落ち着きも無くぺこぺこと頭を下げ続ける少女。

 

「もしかして、大分お腹が減ってたとか?」

「……はい」

「ダイエット?」

「はうっ!?」


 どうやら正解だったようだ。シィの言葉に、少女はフードを深々と被り俯いてしまった。


「ま、まあ事情はどうあれ。無事でよかったよ。女の子にこういうのはあれだけど。体調を崩すほど無理してダイエットをしないほうがいいと思うよ? やるにしてもほどほどにしないと」

「はい……」

「ダイエットするほど、太ってはいないと思うんだけど」


 シィの言うように、彼女はダイエットをするほど太っているようには見えない。肌に張り付くような布を着用しているため、かなり肌の線がくっきりしているので余計にわかりやすい。

 シィと比べれば大分むちむちとしているが、細いよりはむちっと肉がついているほうが健康的だとクロードは考えている。が、それは今口にしないほうがいいだろう。

 この状況で、そんなことを言えば、気にしている目の前の少女がどう思うか。


「で、でも私……人よりすごく、本当にすごく食べるので、お腹周りとか」


 大分声が小さくなってしまった少女に、シィが近づいていく。

 気にしているという腹回りを、容赦なく摘んだのだ。


「あっ、本当だ」

「はうぅ……! は、恥ずかしいので摘まないでくださいぃ……!」

「でも、これぐらいなら普通だと思う。世の中には、これよりも明らかに太っている人が居るし。あなたのはいい具合の太り方。確か……ぽっちゃり?」

「シィ。どこで、そんな言葉を」


 言葉はともかくとして、そこまで気にするほど太り方ではない。

 が、女の子はそういうものを気にする。

 男のクロードがどうこう言おうと、気にするなというほうが無理というものだろう。なので、話題を変えることにした。


「ところでさ」

「は、はい?」

「なんで、僕脱がされたの?」


 と、完全に解かれたネクタイと胸元が見えるほどボタンを外された姿を見せて、問いかけたところ。一瞬にして顔が真っ赤になってしまう。

 

(あっ、これ聞いちゃいけないやつだ)


 しかし、時すでに遅し。


「ごめんなさい! ごめんなさい!! 私、適度に食べ物を摂取しないで居ると、急に誰かの服を脱がせようとしちゃうんです!! しかも無意識に!! でもですね!? 対象は女の子ばかりなんです! 男の人のなんて恥ずかしくて!! 無意識でも無理なんですよぉ!!」

「あ、ああ。そうなんだ」


 じゃあなんで自分は脱がされたんだろう? と、思いつつシャツのボタンとネクタイを直したのであった。

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