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第四話~自分が歩む道~

「……だめだ。全然手が動かない」


 工具をその場に置き、クロードは深いため息を漏らす。その理由は、先日の兵士達の話。

 その内容が頭から離れない。

 シュドラー王は、クロードのことを道具としてみていた。尚且つクロードのことをシュドラー王国の民としては認めていなかった。

 

 確かに、クロードは違う世界から呼ばれた。

 だが、それでもこの国ために、世界のためにクロードは幼いながらも、その才能を開花させて戦争を止めた。その後は、シュドラー王の好意もあり、王城近くに開発室を建てて、十年間働き続けてきた。


 十年の間に、様々な人達と仲良くなれた。

 当然シュドラー王国でも。

 だが、肝心のシュドラー王はクロードを国民だとは認めていなかった。


(僕は……僕はただ利用されていただけ? 十年間も……気づかずにただただ【魔機】を作るためだけに……)


 そう思ってしまうと、作業が止まってしまう。

 このまま【飛行型運搬魔機】を作っても、その後にまた新しい【魔機】を作れと言われる。道具として。壊れるまで利用される。

 だったら作るのをやめればいいじゃないか。

 そう思うが、やめることはできない。なぜなら【飛行型運搬魔機】は本当に実装されれば、世界の物流事情を大きく発展させられるからだ。


 これはシュドラー王国だけじゃない。

 世界に影響するものだ。

 だからこそ、クロードは寝る間も惜しんでずっと作業を続けてきた。それがどうだ? 親友の裏切り、シュドラー王の真実。

 信用していた人達が、自分を本当はどう思っているのかを知ってしまったせいで、頭ではわかっているが体が動かない。


「……いや、もしかしたら全部嘘なのかもしれない。確実な証拠だって」


 現実逃避をしようとした刹那。

 静かな空間に鳴り響くのは【通信型魔機】の音。まさかあの《銀狼族》の少女が? そうだとしたらすぐに出なければと受話器を手にとって耳に当てる。


『やあ、クロードくん。お久しぶり』

「……また、あなたですか」


 聞き覚えのある声だがあの少女じゃない。声の主は、もっと昔に知り合って、最近ではずっと同じ誘いをしてくる人物だ。


『そうよ、また私よ。ロミエーヌ・ゼリン。皆からは、ロミっちって言われてるわー』

「それももう何度も聞きましたよ」

『まあまあ。挨拶と自己紹介は大事よ?』


 ロミエーヌ・ゼリン。

 中央大陸にある【魔法機師】を育成する学園の学園長を務めている女性で、五百歳を超える《天族》だ。《天族》とは《天使族》の祖先と呼ばれている種族で、現在世界を探しても《天族》は彼女を合わせても五人だけだという。


 寿命は永遠に近いほどあり、ロミエーヌの歳はまだまだ若く、人間で例えるなら十代だというのだ。

 実際、見た目も十代と言えるほど若々しく、精神年齢も若干だが子供っぽいところがある。

 とはいえ、人間からすればかなりの長寿。

 数百年もの年月を生きてきた彼女は《天族》としての才能に加え、魔法と対を成す天法という術に長けている。魔法と根源的なところは同じだが、術式やマナの変換質など違うところも多い。


 そんなロミエーヌと出会ったのは、クロードがこの世界に召喚され、各地で起こっている戦争を止めている時。

 彼女もこの世界を愛する者の一人として、戦っていたのだ。

 それからはなぜか気に入られてしまい、交流しているうちにとある誘いを受けた。


「まあそうですけど……」

『おやおや? なんだか元気がないわね。お姉さんが相談に乗っちゃうわよ? ほれほれー、言ってみなさい。教師の件はその後でいいから』


 ロミエーヌからの誘い。それは、ロミエーヌが学園長を務めている特生組と呼ばれる特別な素質を持った生徒が集まるクラスの教師をしてくれないかという誘いだ。

 同年代と比べ、目に見えて素質が高く、一緒の授業ではかなり浮いた存在。これまで何人もの教師達が特生組へと教えてきたが、誰もが理由をつけて辞めていってしまうらしく、そこでクロードに声がかかったのだ。


 当時は、教師なんて自分のがらじゃない。自分は【魔機】を作っていたほうが性に合うと、誘いを受けては断り続けてきた。

 しかし、今のクロードにとってはかなり揺らいでしまう誘いだ。

 なによりも、ロミエーヌは中々の包容力があり、昔からついつい悩みを打ち上げてしまう。だから、今度も……。


「……実は」


 悩みを打ち上げてしまった。【飛行型運搬魔機】の製作はロミエーヌも知っていた。応援もしてくれていた。現在九割はできており、後は最終調整だけだということを知らせた時は、素直に自分のことのように喜んでくれた。

 が、その次に起こったことを打ち上げていくと、真剣に聞いてくれているのだろう。絶えず聞こえていた明るい声も、まったく聞こえなくなってしまっていた。


「―――と、いうわけなんだけど」

『親友の裏切り、シュドラー王の真実、そして《銀狼族》の女の子……なるほどね。私が楽しく過ごしている中で、君はそんなハードなイベントに遭遇していたのね』

「ええ。自分でも、今こうして普通に話せているのが不思議なぐらいです」


 信じていた二人からこの短い期間で裏切られた。普通なら、精神がやられてしまいどうにかなっていてもおかしくはない。

 なのに、クロードはまだ平常心を保っている。それは、まだ心の支えがあるからだ。


『まあ、そっちの国のことをただの学園の長がどうこう言ってどうにかなるわけじゃないけど……もし、君が新たな道を歩みたくなったら、いつでも私のところに来ていいからね。君は、私のお気に入りだから、いつでも大歓迎よ。これで無職にはならいないわ!』

「……ありがとう、ございます」

『うん。それじゃ、私はこれで。また何か悩み事があったら遠慮なくお姉さんを頼ってね。ばいばーい』


 こうして、通話は切れた。

 再び静かな空間に一人になってしまったクロードは、受話器を置き、椅子にどっかりと腰掛ける。


「新たな道、か……」


 


・・・・・




「シュドラー王! お聞きしたいことがあります!!」

「なんだ、クロード。もう【飛行型運搬魔機】は完成したのか?」


 ロミエーヌに悩みを打ち上げた日から二日が経ち、クロードはある行動を起こしていた。

 

「いえ、それはまだ。ですが、これだけはお聞きしたいと思い、無礼を承知で参上した次第です」

「ほう? それはいったいどういった用件だ? 申してみよ」

「……シュドラー王よ。僕は」


 ぐっと、拳を握り締め、クロードは深く息を吸い込んでから、叫んだ。


「僕は、あなたにとってただの道具なのでしょうか!! ただ【魔機】を作るためだけの道具に過ぎないのでしょうか!?」


 しーんっと王の間は、一瞬にして静寂に包まれた。それもそのはずだ。この事実は、シュドラー王と一部の者にしか知られていない事実のようだから。

 王の警護のために参列している兵士達は、呆気に取られたように固まっている。対して、王座にどっかりと座っているシュドラー王と側近は、表情が一切変わっていない。

 それが意味することは……。


「それは、いったい誰から聞いた?」

「……否定、してくれないんですか」

「誰から聞いたと聞いている。答えよ、クロード・クロイツァ」

「風の噂ですよ。親友に裏切られてから、なんだか人間不信になってしまったようで、どうしても気になってしまったんです。このままだと作業が一向に進みません。お答えください、シュドラー王よ!! これは事実なのですか!?」


 どうか嘘であってほしい。そんな願いの元、シュドラー王の言葉をじっと待つクロード。

 すると、にやっと笑い。


「嘘に決まっているではないか。我は、そなたのことをシュドラーの民として大事に想っている」

「……」


 いつものクロードだったらここでシュドラー王の言葉を信じて、この場から去っていただろう。だが、今回のクロードは違う。

 そっと懐に忍び込ませていたとある【魔機】を取り出す。

 

「なっ!? それは!?」


 その【魔機】を見た瞬間、側近が驚愕した声を上げる。クロードの手にあったのは嘘を見抜くための【魔機】だ。対象が放った言葉が真実であれば、宝玉は光ることはない。しかし、嘘であった場合は……眩しく輝く。

 そして、今のシュドラー王の言葉に嘘を見抜く【魔機】は反応して強い輝きを放っている。


「信じたくなかった。こんなことをしたくはなかった……けど」

「クロード、貴様」

「シュドラー王よ。僕は」

「構えよ!!」


 ばれてしまったからにはしょうがないとばかりに、側近が命を下し、兵士達はクロードに武器を向ける。


「僕は争う気はありません。それに、あなた方は僕の強さをご存知のはずです」


 武器を向けられ囲まれているのにも関わらず、クロードは冷静だ。相手は丸腰。無抵抗だ。しかし、体中に伝わる威圧に、兵士達はもちろんだが側近も萎縮してしまう。


「だが、我が真実を知ったそなたをこのままにしておくと思うか?」

「その場合は、僕も僕なりに抵抗しまう。けど、僕はここで争いたくありません。あなたが僕を国民だと認めていなくとも、僕はこの国も国に住んでいる人達も好きですから」


 できれば、自分のせいで国を荒らしたくない。だからこそ、話し合いでどうにかできないかと訴えるクロードに対し、シュドラー王はしばらく思考した後。

 

「よかろう。ならば、シュドラー王が宣言す。クロード・クロイツァ。そなたを国家反逆罪という名目で、国外追放する。これより、シュドラー王国へ一切の干渉を禁ずる。これを破りし時は、国の全勢力をもって、そなたへ矛を向けると知れ」

「……はい。わかりました」


 そして、側近が指示を出し、兵士達を下げる。


「今まで、お世話になりました」

 

 道具として利用されていたとはいえ、ここで十年世話になったのことには変わりない。深々と頭を下げ、クロードは静かに王の間から立ち止まることも無く去って行った。

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