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第二十五話~生徒を助けに~

「よーし!! チセ! 待っててください!! 今、助けに行きますから!!」

「張り切るのは良いけど、ちゃんと僕の言うことを聞くんだよ? 四人とも」


 王都で前から起こっていた誘拐事件に、とうとう【マギアラ魔法機師学園】の生徒であるチセが対象となってしまった。

 クロードが、コルダの情報提供により犯人と思わしき人物が【耀紅の森】の前に来ていた。

 まだ兵達は来ていないようだ。

 その内来るはずだが、それまでに救助を済ませなければ計画は台無しだ。


「それはいいですけど、どうするんですか? 助けた後」

「そうですよね。この【耀紅の森】は、一度入ったら二度と出ることができない迷いの森でもありますからね」

「それに、行方不明の人達には口裏を合わせてもらえればいいですけど」


 森へ入って戻ってきた者はいない。

 もし、行方不明者達を助けたとしても、出られなければ意味がない。救助に行った自分達も、出られなくなりさまようはめになるんじゃないかと四人は思っているのだろう。


「心配はいらないよ。もし、誘拐犯がこの森を住処にしているんだったら……」

「出る方法を知っているということですね」


 さすがは師匠と目を輝かせるシィ。が、そこにレイカが冷静に問いかけてきた。


「でも、犯人がそれを素直に教えてくれるでしょうか?」

「そ、そうだよね……道連れにしてやる! って、教えてくれないかもだよね」


 犯人はこの森から出る方法を知っているかもしれないが、それを教えてくれる保障はない。もしかすれば、自殺する可能性も高い。

 そうなれば、出れなくなってしまうだろう。


「だから、ここで決めるんだ。この森に入ったら、どうなるかわからない。戻るなら今だぞ? もしかしたら、二度と出て来れなくなるかもだし」


 四人の前に立ち、クロードは大人の風格を出して、脅すように問いかける。四人は、顔を見合わせてしばらく考えるが、すぐに決意したような目で真っ直ぐ見詰めてくる。

 その顔を見て、クロードは小さく笑った。


「決意は固いようだね」

「もちろんです! チセは私の幼馴染! 助けに行かない理由なんてありません!!」

「私もです! チセちゃんとは、まだ付き合いは短いですけど。大事なお友達ですから!」


 四人の中でもっともチセと仲がいい二人は、より強い決意が見受けられる。

 そして、残りの二人は。


「私は、そこまで仲が良いってわけじゃないけど……見逃せないわ。同じ学園で学ぶ生徒同士だし。今後も、こんなことがあるかもしれないから」

「私も同意見です。それに、師匠が行くなら弟子である私が行くのは当然です」


 四人の決意を聞いたところで、クロードは懐からとある【魔機】を取り出し、森の入り口付近に魔石を土の中へと埋め込んでいる。


「なんですか? それ」


 パルノは、見た事のない【魔機】を見て興味津々の様子。


「これは僕が作った探知機だ。こっち魔石とセットになっていて、画面に今埋め込んだ探知用の術式が刻まれた魔石が表示されるんだ。ほら」


 もうひとつのアンテナが立っている【魔機】を見せ付けると、画面には青い光が点滅している。

 

「おお! これがあれば迷子にならずに済みますね! それに、これがあれば行方不明になった時にすぐ見つかりますね!!」

「まあ、これは気休めだ。この森には、魔力探知を障害する特殊な結界が張られている可能性があるからね」

 

 もし、そんな結界が無ければ魔力探知で、迷うことなく森から出てこられるはずだ。


「ちょっと待ってね、四人とも」


 もし、そんな結界が張られていたら、この【魔機】も使い物にならない。

 そこで、クロードは一人で【耀紅の森】へと入っていく。

 そして、画面を確認すると……。


「よし。大丈夫みたいだ」


 ちゃんと青い光が点滅している。【魔機】はしっかりと稼動しているようだ。これで中に入っても、迷うことはない。

 だが、そうなると森に入った者達が帰ってこないのは、何者かに襲われて帰って来れなくなった、という可能性が高くなった。クロードが作った【魔機】は魔力探知を利用したもの。魔力探知ができるのならば、森から出られるはずだ。


「……皆。離れないように密集して進もう」


 念のために密集して進むことにした。クロードが真ん中で、それを取り囲むように。

 謎多き森の中。何が襲ってくるかわからない。

 この森の中に居るはずの誘拐犯が。


「クロード先生。それはなんですか?」


 進んでいる中で、キュレはクロードが何かを木の傍に落としているのに気づく。

 落としているのは、何かの粒だ。


「さっきの魔石と同じものだ。こうやって道しるべになるように置いていけば、もし魔力探知ができなくてもこれを辿っていけば入り口まで戻ってこれるだろ?」


 画面を見せると、さっきの大きな青い光から、小さな青い光が淡々と続いているのが見える。

 

「念入りですね、先生」

「まあね。これでも足りないぐらいだと思ってるけど」


 この方法は、誰だって思いつく方法だ。

 これも気休めにしかならない。

 だが、ないよりはマシだ。


「うぅ……」

「キュレ。大丈夫ですよ」

「う、うん。頑張る。チセちゃんを助けないとだもんね……!」

「あの、張り切るのはいいですけど。胸をそんなに強く掴まれると」


 森の外で硬い決意をしたキュレだったが、やはり不安なのだろう。パルノにしがみ付いていたが、完全に胸を鷲掴みにしていたようだ。


「ご、ごめんなさい!」


 慌てて離れるキュレだったがパルノは全然気にしていないと、離れるキュレを抱き寄せ頭を撫でる。


「……ふむ」


 そんな二人のやり取りを見詰めていたシィは、自分の胸を両手で触れる。すると、レイカがシィの肩に手を置き、とんとんっと自分の胸を指差し、パルノとキュレを見る。

 その意図がわかったようで、シィはぐっと親指を立てる。

 なにやら二人の間に、友情が芽生えたようだが、クロードはどういうことなのかさっぱりわからず、仲がいいなぁっと微笑ましそうに笑った。


「……師匠」

「どうした?」


 しばらく進むと、シィとレイカが立ち止まり匂いを嗅いでいた。

 

「これは」


 近くの茂みからレイカが見覚えのあるリボンを見つけ出した。


「ち、チセのリボンじゃないですか! それ!?」

「そうみたいだね。チセの匂いがする。それに」

「これは、血か?」


 見つけたリボンはチセのものだ。しかも、それに血が付着しており、こんな場所にあるということは……チセが誘拐犯に怪我を負わされた時にリボンが落ちた。

 が、こうも考えられる。

 なんとか誘拐犯から逃れ、その途中でリボンを落とした。


「シィ、レイカ。チセの匂い、もしくは血の匂いはどっちへ続いているかわかるか?」


 すでに匂いを嗅いでいるようで、左の方向を示す。どうやらチセは西へと向かっているようだ。ならば、早く向かわねばと足を動かす。

 

「師匠。チセの匂いだけじゃない。他にも」

「おそらく誘拐犯の匂いだと思いますが……なんだか異様な匂いがしますね。なんだか獣臭い」


 誘拐犯の匂いだろうが、獣臭いとなると【耀紅の森】に住み着いている獣かもしれない。

 どちらにしろ、チセを、誘拐された女性達を早々に助けなければならない。

 

(チセ。無事でいてくれ……!)

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