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第二十四話~犯人を追って~

「学園長には今後、本当に自重してほしいよ……」


 ロミエーヌとの騒動から一週間とちょっと。特生組との仲は良好のままだ。最初、レイカはそれをネタにからかうようになり、キュレは顔を見合わせる度に顔を赤くして顔を逸らしたりと。

 シィやキュレは、まったく気にせず接してくれていたが……本当に大変だったとクロードは、頭を抱える。


「ん? なんだろう、あの野次馬」


 今日は、学園での仕事で思った以上に長引いてしまった。原因は、ルイカだ。ルイカ自身の仕事は終わったというのに、帰ることなくクロードへと楽しそうに話しかけてきていた。

 クロードが仕事を終えてもそうだ。

 本来は、そのままどこかへ飲みに行こうと誘われたのだが、遠慮したのだ。ちなみに、ルイカはアイリナと一緒にどこかの飲食店へと向かってしまった。

 そして、クロードは真っ直ぐ帰っている途中で、野次馬を発見したのだ。


「おい! しっかりしろ! 大丈夫か!?」

「あ、ああ。ちょっと頭を打っただけだ。それよりも」

「ああ。すぐに警備兵達に知らせないと」


 どうやら、一人の男が頭を怪我をしているようだ。


「すみません。なにがあったんですか?」


 気になったクロードは、野次馬の一人に問いかけた。


「人攫いだよ。最近多いんだよ。若い女ばかりを攫っていくんだ。犯人はずっと不明だったけど、そこの頭を打った男が、偶然人を攫う途中だった犯人を見つけて、止めようと跳びかかったら」

「返り討ちにあったってことか……」


 クロードもその話は聞いたことがある。

 二週間ぐらい前から発生している事件だ。

 最初は、誰もが寝静まるような深夜。夜の巡回をしていた警備兵が、女性の悲鳴を聞き、駆けつけるとすでに誰もおらず、女性が持っていたであろう鞄だけが落ちていた。


 それから数日。

 次は、飲食店で働く女性だ。いつまで経っても女性が来ないことを心配した店長が家に連絡したところ、すでに出かけたと母親が証言するも、結局は行方不明という形で処理された。

 それからも、二人ほど行方不明となり、今回ので五人目だ。

 今までとは違い、誘拐する犯人を目撃したということだ。


「それで、犯人の容姿は?」

「それが、山賊風の格好だったらしい。それも二人」

「山賊、か」


 とはいえ、ここは王都だ。

 他のところと比べて警備レベルは高く、上空からの侵入だって結界により護られている。山賊が簡単に侵入できるはずがない。


 クロードも、人として五人もの人攫いをどうにかしたいところだが、クロードが動かなくともここには多くの冒険者や警備兵。

 更には王直属の騎士達も居る。

 

「おい! 警備兵が来たぞ!!」

「……」


 協力したいところだが、今はただの教師。英雄と祭り上げられても、それはもう十年も前の話だ。

 人としては見逃せないところだが、今は。


 しかし、その選択は間違いだったと気づいた。

 それは、次の日の朝。

 丁度学園に出勤した時だった。なにやら生徒達の様子がおかしいことに気づいた。なんだろう? と思っていたところに、パルノが慌てた様子で近寄ってきて、こう告げたのだ。


「ち、チセが……チセが行く不明に!!」

「え?」




・・・・・




「お待ちしておりました」


 チセが行方不明となってすぐにクロードは学園長室へと慌てた様子で入る。コルダは、クロードが来た理由を知っているかのように、落ち着いた様子で待っていた。

 ロミエーヌは、先日の朝から学園のトップ達が集まる会談へと出かけており、帰るのは明後日となっている。


「チセが行く不明になったっていうのは本当ですか?」

「ええ。昨日の夕方頃です。家族から、なかなか帰ってこないと連絡が入りました。そこで、調べたところ昨日の夕方に攫われたのが……」

「チセ、だったってことですか」


 昨日の夕方。

 となると、クロードが丁度通り掛った時に現場。あそこで攫われたのが、チセだったということになる。

 完全に選択ミスだった。あそこで、すぐにでも犯人を追っていれば……。


(いや、今は後悔している場合じゃない。それにまだチセが死んだと決めるつけるのは早計だ)

「クロードさん」

「は、はい」

「すでに犯人が逃げた場所に検討はついています」

「本当ですか!?」


 今にも飛び出しそうな勢いで問いかけるクロードだが、すぐに冷静になる。その様子を見たコルダは、静かに語り出した。


「この情報はすでに王直属の騎士達や警備兵達に伝わっています」

「じゃあ、そこへ向かっているんですね」

「ええ。ですが、場所が場所なだけに彼らも相当慎重になっているようです」

「その場所というのは?」


 王都の戦力が慎重になるほどの場所だ。いったいそれがどこかなのかは、大体予想ができる。

 

「【耀紅の森】です」

「やっぱり……」


 あそこは、謎が多く、入ったものは必ず行方不明となってしまう。そのため慎重になっているのだろう。


「その情報は確か、なんですよね」

「はい。私は、何かを探すのが得意でして。やり方は極秘ですが」

「じゃあ、情報提供者はコルダさんってことなんですね」

「ええ。昔から色々と情報収集と提供を担当しておりまして。……それで、どうなさるおつもりですか?」


 どうするもこうするも。情報を提供しているということは、クロードがその後、どんな行動を取るのか。コルダならば理解しているはずだ。

 おそらく、あえて聞いているのだろう。

 クロード本人からの口から聞きたくて。


「……チセとは、まだそこまで仲がいいわけじゃないし、担当の生徒でもありません。ですが、関係ありません。僕は、助けに行きます。それに」


 パルノを安心させたい。チセが行方不明になって家族と同じぐらい動揺しているのは幼馴染のパルノだ。なによりも、王都の厳重な警備を掻い潜り、五人もの若い女を誘拐。

 尚且つ、謎多き【耀紅の森】へと向かったともなれば……尚更だ。

 早急に助けないと、チセの命が危ない。


「わかっていましたが、素晴らしい回答です」

「とはいえ、今の僕は一教師。警備兵さん達とかにはバレないようにやりますけど」

「おや? 教師と言えど、あなたは英雄。別に堂々としていてもいいのでは?」

「あははは。英雄なんて、ただの称号ですよ。僕は、この学園の教師として、攫われた生徒を……助けに行くんです」


 過ぎたことだが、あの時、選択を誤っていなければチセは今頃……。

 

「では、本日の授業は」

「ええ。申し訳ありませんが、遅れるとお伝えください」

「特生組の四人にですか?」


 いいえ、と息を漏らし、後ろにあるドアを勢いよく開く。

 すると、四つの影が倒れこむように現れる。


「四人以外でお願いします」


 それは、ドアの前で聞き耳を立てていた特生組の四人だった。

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