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第二十三話~やり過ぎ注意~

「うっ! 頭が……」


 ふと、目が覚めると、クロードは激しい頭痛に襲われる。一杯しか飲んでいないというのに、何杯も飲んだ後のような痛み。

 アルコール濃度が高い酒だったとはいえ、改めて自分のアルコール耐性が低いことに頭を抱える。

 激しい頭痛に襲われながら、部屋に設置してある時計を確認すると、まだ出勤まで一時間はある。その間に、少しでも頭痛を和らげ、出勤の準備を済ませなければならない。


「ん?」


 ベッドから離れようとした刹那。

 何かが自分にくっ付いていることに気づく。まるで時が止まったかのような感覚だ。ゆっくりと視線を隣へと向けると。

 そこには……なぜかロミエーヌの可愛らしい寝顔があった。


「……夢、か」


 クロードは、こんなことはありえないだろうとすぐに現実から逃げるように目を閉じる。そして、再び目を開ければ夢から覚めるだろうと。

 しかし。


「……」

「……」


 これが現実とばかりに、目を覚ましたロミエーヌの可愛らしい顔がまた視界に入った。しばらく見詰めあった後、クロードはゆっくりと身を起こし、天井を見上げる。

 それに釣られるようにロミエーヌも身を起こすと、なぜか二人とも上半身が裸だった。

 

「ロミエーヌさん」

「なぁに?」

「正直に答えてください」

「いいわよ」

「……俺達、何も……なかったですよね?」


 はっきり言って、クロードにはそんなことをした覚えはない。ただ相当アルコールに酔っていたため、記憶が曖昧なところがある。

 覚えていることと言えば、ちゃんと酔いながらも二人仲良く自宅まで帰ってきたということ。

 そこははっきりと覚えている。

 そもそも自宅まで、コルダが付き添ってくれていた。そこから、記憶が曖昧だが、確かに自分の部屋に到着したはずだ。

 泊まっていた特生組は、もう夜遅いため寝ていたはずなので、聞いてもわからないだろう。


(そう。確かに、僕は一人で自室に戻ったはずだ……はず、だけど)


 隣で、うーんっと小首を傾げながら考えている裸のロミエーヌを見てしまうと自信がなくなってしまう。ちなみに、クロードは上半身だけが裸で、下のほうはちゃんと下着もズボンも着用している。

 このことから、ただ一緒に寝ていただけ、というレベルまで落ちる。

 が、やはり自信がない。


「クロードくん」

「は、はい」


 一分半ほど思考していたロミエーヌがようやく口を開いた。

 運命の瞬間。

 二人の間には、何もなかった。そう答えてくれると信じて、クロードはロミエーヌを見詰め、ごくりと喉を鳴らす。


「初めてが君でよかったわ」

「……」


 演技、嘘、だと思いたい。だが、ロミエーヌの女になったような雰囲気、そしてどこか荷がなくなったかのような清々しい顔。

 これが演技ならば、彼女は役者になれるだろう。

 じゃあ、まさか、そんな。


(僕は……本当に……やってしまったのかぁ!?)


 頭を抱えていると、ロミエーヌがくっ付いてくる。酒場の時とは違い、若干恥ずかしそうな感じで。

 どうすればいい? 一線を越えてしまった。

 しかも、相手は恩人だ。勤めている学園のトップだ。世界でも数少ない種族の《天族》だ。色々と今後のことを考えると、頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。


「なーんてね! 冗談よ、冗談。君ってば、期待通りの反応してくれるからからかいがいが本当にあるねぇ」

「ほ、本当ですか? 本当に、僕達なにもなかったんですか?」


 これも冗談じゃないかと疑ってしまうクロードに、ロミエーヌは頬に手を当て落ち着かせるように呟く。


「なにもないよ。私は、ただ君の寝顔を見ていただけ。でも、急に眠くなっちゃって。気づいたら、寝ちゃってたの。まあでも、どっきりを考えていなくもなかったんだけど。さすがにやり……あっ」

「え?」


 どうやら冗談だったようだ。しかしながら、こんな状況を誰かに見られたら、などと考えていると、タイミング悪く部屋の前に現れる四人の影。

 

「あっ」


 色々と考え過ぎて、近づいてくる気配に気づくのが遅くなった。


「クロード先生と……学園長?」


 どういうことだと首を傾げるシィ。


「え? え? なんで裸……え?」


 二人が裸だということに困惑しているキュレ。


「はっ!? まさか、二人は!?」


 なにか察したように顔を赤らめるパルノ。

 その後ろでは、にやりとレイカが笑みを浮かべていた。

 家に泊まっていた特生組の四人が偶然通り掛り、クロードとロミエーヌが上半身裸でくっ付いている現場を目撃してしまった。


(そもそもなんでドアが開いたままなんだ!? 僕はちゃんと閉めたはずなのに……! いや、今はそんなことはどうでもいい。早くしないと)


 これはロミエーヌが考えた体を張った悪戯だと伝えなければ!

 しかしながら、そんなクロードよりも早くレイカがそっとドアを閉めようとしていた。

 含みのある笑みを浮かべて。

 

「ごゆっくり」

「ちょっ!?」


 ドアが閉まってからは、廊下でなにやら騒いでいたようだが、すぐに声は遠ざかっていった。




・・・・・




「というわけで、今朝のは学園長のおふざけだったというわけだよ」

「本当ですか?」

「嘘は言っていないんですよね?」


 クロードは、休日出勤を追え、自宅に戻ってくると、今朝のことを特生組の四人に質問攻めされていた。今朝の件を、計画したロミエーヌを交えて。


「じゃあ、そんな計画を実行した学園長どうぞ」

 

 視線はロミエーヌに集中する。

 

「ええ、間違いないわ」

「なんで、そんなことを?」


 キュレの問いに、ロミエーヌは。


「実はね。今朝、彼より早く起きた私は、お風呂に入ってすっきりしたところだったの。それで、下着一枚で廊下を歩いていたら、クロードくんの部屋のドアが開いているのが見えてね」


 そう。ロミエーヌは最初から一緒に寝ていたわけではない。夜はちゃんと自室で眠っていたのだ。


「閉めたはずだったんだけど……」

「相当アルコールが回っていたから、閉めたような気がしていただけだったようね。それで、話の続きだけど。中を覗くと、暑かったんでしょうね。上半身裸で寝ていたクロードくんを発見したの」


 それについては、なんとか思い出した。その日は、夜だというのに相当暑かった。アルコールも大分回っていることから、体が異様に熱かったため上の服を脱いだところで力尽きたのだ。


「なるほど。そこで、学園長は丁度自分も裸当然だったから、クロード先生をからかおうと思ったわけですね?」

「そのとーり!!」

「勘弁してくださいよ……」


 見た目は幼いとはいえ、五百年以上生きている《天族》だ。そして、悪戯好きな人だということはわかっていたはずだ。


(まさか、あんな体を張った悪戯をするとは……)

「けど、私だって恥ずかしかったのよ……男の人に裸を見られるなんて初めてだから」


 などともじもじするロミエーヌ。


「で? 本音は?」

「え? 本音だけど? 前から言ってるよね? 君は私のお気に入り! 裸を見られたら恥ずかしくもなるわよ。女の子だもん!」

「だもんって……」


 見た目が見た目なだけに、普通に聞こえてしまう不思議。やはり、長寿の種族は色々と卑怯だ。彼女の見た目で五百歳を超えているだなんて誰が思うか。


「女の子だって言うなら、もうちょっと自分の体を大事にしてください。そういうのはよくないと僕は思います」

「クロードくんだったら、いいかなって」


 その言葉に、四人の視線はまたクロードに集中する。


「勘弁してくださいよ……」


 クロードもロミエーヌのことは嫌いではないが、そういう関係ではないので自重してほしいと釘を刺し、なんとか話はまとまった。

 が、それから数日間。

 四人からの妙な視線を感じたのは、言うまでもない。

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