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第二十二話~底が知れない~

「さあ、まだまだこっちには余裕があるよ! 威力は落としているとはいえ、直撃したらものすごく痛いから、気をつけるように!」

「うひぃ!? 徐々に数は増えてきて、避けるので精一杯ですよぉ!」

「ぱ、パルノちゃん。次が来るよ!」


 ロミエーヌ宅前では、激しい戦闘が繰り広げられていた。徐々に、クロードは魔力弾の数を増えやしていき、特生組を攻撃。

 近づいてきた者達を、魔力剣で防御しつつ、反撃。


「これ、もしかしたらお姉ちゃんよりも激しいんじゃないかしら……」

「え? レイカのお姉ちゃんって言ったら、あの【嵐撃の魔女】ですよね? さすがに、それは」

「もしかしたらの話よ。それに、まだクロード先生には余裕が見えるわ。たぶん、これはあくまで特訓。本気出せば、一瞬で私達なんて気絶させられちゃうわよ」


 なんとか、攻撃を回避し、クロードが様子を窺っている中、レイカは冷静に思考する。最初よりも、攻撃は激しくなっているが、いまだに余裕の色が見える。

 クロードは、戦争を止めた異世界の英雄だ。

 今でも十分強過ぎるが、本気ではないことは明白。その証拠には、クロードはまだ魔力だけしか使っていない。魔法も【魔機】も使っていないのだ。


「まったく……普段は女の子に囲まれて、困った感じになる人なのに。今じゃ、別人ね」

「ですね。【魔機】を作っている時や、教えている時の雰囲気とはまた別の意味で、風格があるといいますか……わわっ!?」

「お喋りをしている暇はないよ」


 普段のクロードからは、考えられないほど好戦的な攻撃だ。

 パルノもなんとか回避したが、その回避を読んでいたかのように、次の魔力弾が襲ってくる。


「なんのぉ!!」

「お?」


 体を捻り、そこから【魔縮弓】から圧縮された魔力矢を放ち、魔力弾を打ち砕いた。


「とと……」

「やるじゃないか、パルノ」

「【魔法機師】を目指す者として、これぐらいの戦闘はできなくては!」

「横から失礼します」

「シィ。そうやって律儀に言わなくてもいいんじゃないかしら? それじゃあ、奇襲の意味がないわ」


 パルノに気を取られている隙に、左右同時からシィとレイカが攻めてくる。が、クロードも予想していなかったわけではない。

 二人の攻撃を防ごうと、魔力剣を動かす。

 が、ぴたりと止まってしまった。


「これは」

「止め、ました……!」


 キュレだ。両手の指全てに【魔機】を装備している。キュレが装備しているのは【魔糸手甲】と呼ばれる魔力を糸にして操るための【魔機】だ。

 魔力が高いほど糸の強度も、長さも増す。【魔機】を使わなくとも、魔力の糸は生成できるが【魔糸手甲】のサポートにより生成された糸は、通常のものよりも段違い。


「魔力の糸で、止めたのか……」


 魔力剣が突然止まったのは、魔力の糸に絡められているせいだった。それだけではない。クロードの手足も魔力の糸により拘束されていた。

 どうやら気づかれないように、地面を通ってきたようだ。


「覚悟」

「一撃と言わず二撃!」

「いいえ! 三撃です!!」


 そこへ、体勢を立て直したパルノを加えた三人で一斉攻撃。

 見事な連携だ。

 攻撃とサポート役をうまくわけた彼女達の作戦勝ち。このまま攻撃を素直に受けたい……ところだが。


「まだまだ!!」

「なっ!?」

「くっ!?」


 魔力を弾けさせ、拘束を解き、近づいてきた二人を弾き飛ばす。そして、飛んできた魔力矢を片手で受け止めて見せた。


「よし。今日はここまでにしよう。そろそろいい時間だからね」

「まったく、大人気ないですよクロード先生」

「ごめん。本当は、攻撃を受けてあげたかったんだけど。教える身として、そう簡単には負けてられないとも思ったから。立てる? レイカ」


 豪快に尻餅をついてしまったレイカに、手を差し出す。

 だが、大丈夫ですと一人で立ち上がった。


「はあ……もうちょっとだったんですが」

「さすがに、疲れちゃった……」

「二人もいい動きをしてたよ。これからもっと鍛えれば、きっといい【魔法機師】になれる」

「おぉ! クロード先生にそう言ってもらえるとは!」


 二人を褒めていると、シィが静かに服を引っ張ってくる。

 まるで、私は? と聞いているかのように。


「もちろん。シィもだ。ルイカ先生と戦った時より、断然動きがよくなってる。師匠として鼻が高いよ」

「一番弟子ですから」


 嬉しそうに渾身のどや顔を決めたシィだった。




・・・・・




「とまあ、こういうことがありました。それからは、休憩を入れて、魔力操作や僕が趣味で作っているものを見せたり。特にそこで時間を使ってしまって、遅れてしまったのが理由のひとつでしょうか……ははは」

「なるほどねぇ……確かに、レイカの言う通り大人気ないが、あんたの気持ちはわからなくもないね」


 ぐいっと酒を飲み、ルイカは言う。

 

「やっぱり、教える身としては、教え子に簡単には負けられないよねぇ。アイリナもそう思うだろ?」

「うん。でも、もし負けたら負けたで、自分もまだまだだって思えて、逆にやる気が出る」


 アイリナの予想外の返答に、ルイカはもちろんクロードもおぉっと声を漏らす。


「そういう考えもあるかぁ……でも、あたしは負けたくはないねぇ。できれば卒業するまで……いや! 卒業しても負けたくないかなぁ」

「でも、ルイカちゃんはシィちゃんも負けちゃってるよー」

「学園長ー! それは言わない約束ですよ? それに、あの時は第一世代の【魔装機】を装着していたうえに、本気を出していませんでしたから」


 さすがのルイカでも、あの時のことはまだ気にしているようだ。確かに、本気を出せていなかったとはいえ、年下の女の子に負けてしまったのは、痛手だっただろう。


「あれぇ? ルイカちゃんってば、自分が言ったこと忘れてるの? これはあくまで試験だから、負けても悔しくならないーって言ってなかったけー?」

「い、言いましたけど……」


 実際に負けてしまうと、やはり思った以上に悔しかったのだろう。試験が終わった後、笑顔で肩を組んできたが、心の中では悔しいという気持ちが徐々に溢れてきていたに違いない。

 

「その話はやめ! やめ!! 今は、クロード先生の話だ!」

「おー、無理矢理戻したねー」

「レイカから聞いたけど、今日は四人とも学園長の家に泊まるんだって?」

「ええ。今頃は、皆疲れた体を風呂にでも浸かって癒している頃ですかね」

「もしくは、クロード先生の部屋に潜入しているとか?」


 時々、アイリナはこちらがどきっとしてしまうことを言ってくる。酒を飲んでいるためか? だが、酔っている様子はなく、酒はほどほどに料理を只管に食べているだけだ。

 クロードが来た時に、テーブルいっぱいにあった料理は、いつの間にか半分も減っている。

 まるで、クロードが来たことで、枷が外れたかのようにアイリナの大食いは止まらない。おいしそうに食べるキュレとは違い、アイリナはただ無心で食べるタイプのようだ。


「さすがにそれは……ないと思いたい」

「ありえるかもしれませんね。確かに、学園長の家にある部屋全てには合鍵がありましたよね?」

「あるわよー、ひっく」


 コルダの発言に、クロードはあっと思い出す。

 そういえば、合鍵は放置したままだったと。そもそも自分の部屋に潜入するなど考えもしなかった。男の部屋などに潜入して、何が面白いのかと。

 

「シィやパルノ辺りは、潜入しているんじゃないか? クロード先生のことよほど慕ってるし」

「もしかすれば、ベッドで眠ってしまっていたりも」

「こ、コルダさん。さすがにそれは」

「ないとは言い切れないわねー。特にシィとかだったらー」


 確かに、シィは何度も一緒に寝たがっていた。が、お利口なシィだ。そんなことはしない……と信じたいクロードだったが、最近は特生組の影響で、シィも変わってきている。

 もしかしたら、ありえるかもしれない。


「まあ、帰ってからのお楽しみってことだ! ほら、あたしが奢ってやるから、飲もうや!」

「いや、僕は酒はちょっと」

「おいおい。ここは酒場だぞ? 酒場に来て、酒を飲まないなんて店に失礼だろ? ウェイトレスさーん!! この店で一番強い酒をお願いねー!!」

「ちょっ!? だから、僕は酒はそこまで強くないんですよ! 一番強い酒なんて飲めるはずが―――むぐっ!?」

「そう言わないのー。これからは、こういう付き合いも多くなるよー?」

「そうだ! そうだ! 楽しく行こうや!」


 いつの間にか、両脇に移動してきた酔っ払い二人。まだ最初に注文したミルクだった半分も飲んでいないというのに、どが! と目の前にはこの酒場で一番アルコールが高い酒が置かれる。

 ぶどう酒の比ではないことは、匂いでわかる。

 飲んでいないのに、匂いだけで酔ってきそうだ。透明なのがまたクロードを戸惑わせる。


「さあ、飲もうよぉ。クロードくぅん?」


 と、もう目がとろんとしているロミエーヌが左からくっ付いてくる。


「先輩命令だ! ほら、ぐいっといけって。ぐいっと!」

 

 と、酒が入ったコップを近づけてくるルイカ。

 その隣では、頑張れとばかりにただただじっと見詰めているアイリナ。唯一助けてくれそうなコルダは……なぜかカウンターで店員と楽しそうに会話をしている。

 もう逃げ場がない。


「……」

  

 せめてもうちょっとアルコールに強い体質だったらよかったのに……と、思いながらクロードは覚悟を決めて、酒を胃の中へと。

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