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第二十一話~教師陣の集まり~

「すみません。遅れました」

「おっそいぞー!! もう飲んじゃってるぞー!」

「……できあがってますね、学園長」


 特生組の特訓を終え、数時間後。

 すっかり日が暮れた頃、クロードはとある酒場へと訪れていた。そこでは、すでにロミエーヌ、コルダ、ルイカ、アイリナの四人がテーブルに座っていた。

 テーブルの上には、テーブルを埋め尽くす料理とガラスの大きなコップが四つ並べられていた。


「まだまだぜんぜんだぞー!」


 などというが、顔が赤くいつも以上にテンションが高いことから、相当酒が入っていることは明白だ。


「そうは見えませんよ……」

「お待ちしておりました、クロード先生」


 クロードが近づくと、コルダが執事のように椅子を少し後ろへとずらす。クロードはどうもと一礼して、席に座ったところで、ウェイトレスが近寄ってきた。


「ご注文は?」

「ミルクをお願いします」

「はい、ミルクですね。ほかのご注文はありますか?」

「いえ、今はそれだけで」


 テーブルの上には、まだまだ手が付けられていない料理がたくさんある。無理に料理を注文しなくとも、飲み物だけで事足りるだろう。

 

「わー、クロードくんってばぁ、ウェイトレスさんのおっぱいを吸いたいだなんて、だいたーん」

「え!?」

「ちょっ! なにを言ってるんですか、ロミエーヌさん!?」


 完全にセクハラ発言である。普段のロミエーヌも相当人をからかうのが好きな性格をしているが、今は酒が入っていることでひどい方向へと変化してしまっているようだ。

 まだ入ったばかりだと思われるウェイトレスも、顔を赤くして硬直してしまった。しかも、ロミエーヌの声は大きく、近くに居たほかの客達にも聞こえていた。

 視線は、ウェイトレスの服の上からでもわかるほど張りのある大きな胸へと集中する。


「それだけ大きいと、相当で―――むぐっ!?」

「ごめんな、ウェイトレスさん。この人、相当酒が回ってるらしいんだよ。おい! 周りの男どももじろじろ見るな!」


 これ以上何も言わせないように、ルイカが口を塞ぎ、アイリナと共に男の客達を睨みつける。


「し、失礼します!」


 ウェイトレスは、一礼して一度テーブルから離れていく。自分の胸を隠しながら。


「はあ……ロミエーヌさん。さっきのはセクハラですよ?」


 クロードは、疲れたようにロミエーヌへと言うが、本人は別に悪いことは言っていないとばかりに、とろんとした表情で酒を飲む。


「でも、あの子は将来赤ちゃんにいっぱいミルクを与えられるわよぉ。あれだけ張りのあるおっぱおっぱいだったらねぇ」

「この人って、酒が回るといつもこんな感じなんですか?」


 隣に居るコルダに問うと、大体はと笑顔で答える。

 見た目がまだ十代の少女ということもあり、それだけで酒場には不釣合いなのに、可愛らしい容姿からは考えられないセクハラ発言。

 まだ飲み会が始まって、十五分ほどしか経っていないはずなのに、一時間は飲んでいるような酔い方だ。


「お、お待たせしました。ミルクです」


 まだ先ほどのことが気にしているようで、コップに入ったミルクを持って来たウェイトレスは、顔が赤い。


「搾りた―――むぐっ!?」

「はい、そこまで」


 また何かを言おうとしたのを、ルイカが太いソーセージを捻じ込み封じた。


「あ、ありがとうございます」


 礼を言うクロードだったが、ウェイトレスは逃げるようにまた去って行く。


「まったく。相変わらずですね、学園長さんは」


 まだそこまで酔っていない様子のルイカは、子供の頭を撫でるようにソーセージをおいしそうに食べているロミエーヌを撫でながら、酒を飲む。


「いつから飲んでいたんですか? 完全に泥酔寸前じゃないですか」

「まだまだー! 十分しか飲んでないぞー!!」

「嘘を言わないでください、学園長。もう三十分以上は飲んでいるじゃないですか」

「三十分?」


 飲み会が始まってからまだ十五分しか経っていないはずだ。だからこそ、ロミエーヌに連れて行ってもらう手筈だったのだが……まさかとクロードは、他の三人に視線を配る。

 

「学園長は、君が来る相当前からここで飲んでた」

「最初は食事だけだったのですが」

「あたしとアイリナが到着した途端に飲み始めたんだよ。あたしらも、ここに来る前は相当動いたからなぁ。クロード先生には悪いと思ったが、先に注文したんだよ」

「すみませーん!! もういっぱいぶどう酒のおかわりー!!」

「これで、何杯目なんですか?」


 ロミエーヌのできあがり具合や、三十分前から飲んでいたことから、相当飲んでいるのだろう。クロードの予想では、今飲み干した分で、四杯目。

 

「八杯目だけど?」


 しかしながら、予想を超えていた。予想の倍の数を飲んでいたようだ。つまり、今注文したので九杯目となる。

 いったいどれだけ飲むつもりなのか。

 本人からは、相当酒に強いとは聞いていた。が、酒が回るとあんなセクハラ発言を平気で言うとは聞いていなかった。このまま飲ませ続けていいものか……。


「学園長。明日もお仕事があります」


 ここで、補佐役のコルダが動き出す。そう、クロードもそうだが、ロミエーヌも明日は仕事がある。このまま飲み続ければ、明日は酒が抜けずに、仕事どころではなくなってしまう恐れがある。

 そろそろ酒を飲むのを止めるべきだ。


「なので、後二杯で終わりにしてください」

「いやいや! 後二杯って! そこは止めましょうよ!?」


 そういえば、コルダはロミエーヌに甘いということを忘れていた。


「大丈夫だよぉ。私ってば、いくらお酒を飲んでもぐっすり眠ればすーっと全部抜けちゃうからぁ」

「いや、さすがにそれはありえないんじゃ」

「《天族》の体質みたいなものなんだってさ。体に入った不純物を寝ている間に取り除くんだってさ」

「そ、そんな体質が……」

 

 数が少ないということもあって《天族》に関しての詳しい情報は少ない。そんな体質があることを、クロードは初めて聞いた。


「まあ、ぶっちゃけ私自身もあんまりわかってないんだけどぉ」

「なんですか、それ……」


 ただでさえ、謎が多い種族だというのに《天族》本人も知らないとは。それとも、酒が回っているために記憶が曖昧になっているのか。

 

「まあまあ。ともかくだよ。学園長の心配はいらないってことだよ。それよりも、クロード先生。あんたが、学園に来て本当によかったよ」


 ロミエーヌの話題もほどほどに、矛先がクロードへと向けられる。


「ですね。私も、自分の目で見てきましたが、いい刺激になっているようです。特に、特生組には」

「この前のデザインコースの授業もよかった。あの授業で、生徒達のやる気も上がってる」

「レイカも、徐々にあんたのことを認め始めてきてるよ。とはいえ、まだまだ先っぽかったけどねぇ」

「今日は、特生組に特訓をしてあげたんだよね?」


 ずっと、料理を食べ続けていたアイリナの問いかけに視線が集中する。


「まあ、はい」

「どうだったのかしら、異世界の英雄さん。まさか、四人同時に相手にしたって言ったり?」


 さっきまでセクハラ発言をしていたとは思えないほどに、いきなり真剣な表情になるロミエーヌに、クロードは頭を掻きながら、首を縦に振った。


「おー、で? どうだったんだい?」

「そうですね……」

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