第二十話~気になって~
教師生活にも大分慣れてきた休みの日。
特生組との約束前に、クロードは【耀紅の森】近くまでやってきていた。気になったのは、授業中に感じた謎の視線だ。
いったいあの視線はなんだったのか?
それを確かめに来たのだが、ここは立ち入り禁止区域。
王都からの許可がないと入ることはできない。
なので、近くまできてまたあの視線がこちらを見てこないかと待っているが、全然感じない。
「師匠。あの視線は、なんなんでしょうか」
「たぶん、魔物じゃないと思うけど……」
魔物のように嫌な感じはしなかった。はっきりとは言えないが、こちらを観察している。興味があるような、そんな視線だった。
「もしかしたら、この森に住んでいる何者か、なのかもしれない」
こんな森になる前には、普通に人が住んでいたという記録がある。
おそらくその生き残り。
それか、迷い込み、そのまま過ごしているうちに、森から出るにも出れなくなった……。
「……今回は、来ていないみたいだ」
「じゃあ、パルノ達のところに行きますか?」
「そうだね。そろそろいい時間だし、行こうか」
結局、なんだかんだで一時間ほど待っていたが、あの視線は感じられなかった。注目していることで、警戒しているのか?
それともたまたまクロード達が赴いた時間は、寝ていたか。
どちらにしろ、森の中には何かが住み着いている。それだけは確実だと言えよう。
「それにしても、まさか僕達の修行にパルノ達まで参加するなんて」
「私が話したら、参加したいって。迷惑、でしたか?」
「いいや、構わないよ。でもこれじゃ、一気に弟子が三人も増えたことになるよね……」
シィを弟子にしたのも、最初は主従関係から遠ざけるためだった。
しかし、日々一緒に修行をしているうちに、楽しくなり、師弟関係になってよかったと思えるようになったのだ。
「パルノは弟子になりたがっていましたが」
「なんだか、師匠って言ってくる未来を想像しちゃったよ」
「パルノだった言いそうですね」
などと話しながら集合場所であるクロード達も暮らしているロミエーヌ宅へと向かっていく。
「お待ちしていましたー!!」
まだ集合時間まで数十分はあるはずが、すでに三人は家の前に到着していた。
よほど楽しみだったのか、パルノは元気に手を振っている。
「早いね、三人とも」
「もちろんですよ! クロード先生からは、色々と教えてもらいたいことがありますからね。休みだろうと、私は教えを乞いに来ますよ!!」
「慕ってくれるのは嬉しいけど、僕はそこまで戦闘関係では教えれることは多くないよ?」
クロードの戦いは、完全に独学。
才能のままに【魔機】を使い、戦っていた。最初こそ、シュドラー王国の王都で、戦い方を教えてもらっていたが、それも本当に最初だけだ。
シィに教えていることだって、ある意味昔の予習のようなもの。
「そんなことはないです。日々、師匠からは教えてもらったことを糧に、私は強くなってますから」
「それはシィが持つ元々の戦闘センスがすごいだけで、僕がすごいわけじゃ……いや、謙遜もほどほどにしたほうがいいかもね」
あまり過ぎると、せっかく慕ってくれているシィに申し訳がない。
クロードは気持ちを切り替え、木刀を取り出す。
「じゃあ、さっそくだけど四人で僕に攻撃をしてくれるかな?」
先ほどの優しい雰囲気から一変。
授業の時とも違う、ぴりっとした、違う空間にでも居るかのような空気が漂う。
「お、おぉ……これが異世界の英雄たるクロード先生の風格!」
「ちょ、ちょっと腰が引けちゃった……」
「シィ。あなた、いつもこんな空気の中で、特訓をしていたのかしら?」
さすがのレイカも、いつもと違うと感じ身構えつつシィへと問う。だが、シィはすぐには答えることができず、ゆっくりと【魔刃剣】を抜刀して、一呼吸入れる。
「……全然違う。こんな師匠は初めて」
一人ずつ相手をしていればそれだけで、時間が過ぎる。
ならば、一気に四人の相手をすればいい。
決して、四人をなめているわけではない。教師として、自分の目で四人の実力は見てきた。だからこそ、そんな四人が連携して戦うとどうなるのか。
それを実際に味わいたいと思ったのだ。
「どうしたんだ? 僕はもう準備完了しているよ」
「……行こう」
「ですね。クロード先生と戦えるなんて、光栄なことです!」
かしゃんっと【魔縮弓】を展開させ、魔法板を入れ替える。
「では……まずは先制攻撃です!!」
そして、圧縮した魔力の矢を打ち出す。それと同時に、シィが飛び出した。
「っと!」
その場から一歩も動かず、簡単に圧縮された魔力の矢を木刀で弾いてみせるクロード。岩をも砕く威力だったためパルノは驚愕。
「そこっ」
矢を弾いたと同時に、シィが身長差を利用した死角からの攻撃を仕掛ける。
「いい動きだけど、まだ甘いぞ、シィ」
「むう」
いきなり魔力刃を展開し、攻撃したはずが、それも容易に防がれてしまう。
魔力剣の生成が早い。
本来は魔力刃は、魔力を両断することができる。が、防がれているということは魔力に差があるということだ。
「……」
しかし、シィが攻撃を仕掛けたと同時に、レイカが静かに逆側へと回りこんでおり、静かに魔力爪を振り下ろす。
「おっと」
が、クロードは予想していたかのように後ろに下がり、回避する。
「さっきのは危なかったかな」
「そうは見えませんでしたが?」
「いや、気配の消し方がうまかった。もう少し気づくのが遅かったら―――ん?」
レイカの動きを褒めていると、クロードの頭上から突然高威力の光属性魔法が降り注いだ。
これにはシィもレイカも唖然。
振り向くと、キュレがやっちゃった? と若干動揺した様子で右手を構えていた。
「キュレ。あなた、なかなかやるわね」
「さすがの師匠でもあれは……あっ」
砂煙が消えると、魔力障壁で護られていたクロードの姿が見えた。どうやら、シィの攻撃を防いだ魔力剣を障壁として展開したようだ。
「さ、さっきのは危なかった、かな……」
さすがに、さっきの攻撃にはクロードも驚いたようだ。まさか、あのキュレがいきなりあんな高威力の魔法を放ってくるとは、と。
「す、すみません!」
「謝らなくてもいいよ。うん、それでいいんだ。……ここからは、僕も攻めるから、油断しないほうがいいよ」
障壁に使っていた魔力を、六本の魔力剣へと生成。それを己の周囲に展開し、自由自在に動かせるのだとアピール。
「この剣を回避しつつ、僕に一撃を与える。それが今回の修行ってことにしようかな」
「あの剣を回避しながら、ですか」
「クロード先生の戦う姿って、初めて見ますけど……あれでまだ【魔機】を使ってないなんて」
本来クロードは【魔法機師】だ。【魔機】を使えば本来の力を発揮するが、そうでなくとも四人には尋常じゃない強さだと、体にひしひしと伝わっていた。
「……いいんじゃないかしら? 私はもっとクロード先生の輝きを見てみたいわ。だから」
バチバチッ! と体に電気を纏わせ、レイカは笑う。
「入れてみましょうよ。クロード先生へ一撃」
「じゃあ、私とレイカが突っ込むから、二人は援護をお願いね」
「お任せを!」
「頑張るね!」
「よし。特生組……突撃!」




