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第一話~親友の裏切り~

まだ追放されません。

 異世界エルドの北大陸。そこにあるシュドラー王国の王都には、戦争に終止符を打った【魔法機師】が住んでいる。

 多くの命が失われた悲しい戦いから十年。

 クロード・クロイツァは、十九歳となった。最初は、ほぼ戦いの毎日だったが、今となってはほとんど戦いに出ず新たな【魔機】の開発に没頭している。


 元々、戦うよりも【魔機】を作ることが大好きだったため、ここ十年でクロードが世に出した【魔機】は数知れず。

 主に生活を便利にするものを開発しており、現在は【飛行魔機】を応用して、世界の運搬問題を解決するため運搬用の【魔機】を開発していた。


「……ふう」


 様々な部品が散乱し、オイルの臭いが充満する開発室の中で、クロードはかけていたメガネを外し、天井を見上げる。

 ここ数日まともな睡眠をとっておらず、風呂にも入っていない。

 黒い髪の毛はぼさぼさで、大分伸びており、切る暇もない。そのため一本で纏めており、目の下にも隈ができている。


「【飛行魔機】の運搬化……九割ほどは完成した。けど、やっぱり長距離運搬となると、魔力炉に負担がかかり過ぎる……とはいえ、魔力炉を更に大きくするとなるとそれだけで量産する時に資金が……」


 くるっと、椅子に座ったまま現在開発している運搬用の【飛行魔機】を見詰めながら、クロードはぶつぶつと呟く。

 そろそろシュドラー王や多くの貴族や役人達に発表しないといけない。

 これまでは、その才能からほとんどつまずくことなく多くの【魔機】を開発してきたクロードだが、ここにきて初めてつまずいてしまっている。


 そもそも【飛行魔機】は、まだ長距離運用に向いていない。あまり長時間使い続けると、核となっている魔力炉に大きな負担がかかり、オーバーヒートしてしまう。

 実験では、長くても二時間が限界だ。

 しかも、必ずオーバーヒートを起こし、魔力炉がだめになってしまう。それなのに、今回は半日使っていてもオーバーヒートを起こさず、更には乗り物として運用できるようにしなくてはならない。


 もしこれが完成すれば世界の運搬問題は一気に解消され、また大きな時代が始まる。

 とは言ったものの、それは理想論。

 現実はそうあまくはない。天才と言われているクロードでも苦戦しているぐらいだ。


「よっ、クロード。相当悩んでいるみたいだな」

「リグ」


 そんな時、親友であるリグ・オドロが現れた。クロードがまだ九歳だった頃に付き合いで、クロードほどではないが戦闘技術と【魔機】の扱いに長けている。

 戦争の時も、クロードと共に戦い成果を上げた。

 こうしてクロードが開発に没頭するようになってからは、彼の開発を手伝いながら、外で魔物退治などをしている。


 クロードと違い、身なりがしっかりしており、外で魔物退治を行い続けているため街での人気も上々だ。

 その金色に輝く髪の毛とさわやかな笑顔から、女子から告白されることが多い。


「まあね……でも、悩めるって言うのは嬉しいことだ。悩めない人生なんて、僕は楽しくないって思うんだよ」


 だからこそ、クロードは今が楽しい。こうして、悩んで何かを達成しようとしている瞬間。

 これを求めて【魔機】の開発をしていると言っても過言ではない。

 

「さすが【天才魔法機師】は言うことが違うな」

「よしてくれ。僕はただ【魔機】を作るのが好きなだけなんだ」

「それで? これはもう完成したのか?」


 と、魔力炉で動く【飛行型運搬魔機】をぱんっと軽く叩きながら問いかけてくる。九割は完成している。後は、半日ずっと動かしても魔力炉がオーバーヒートしない方法を考えるだけ。

 それをリグに伝えると、こんな提案をしてきた。


「じゃあさ、新たな術式を生み出せばいいんじゃないか?」

「新たな、術式?」


 魔力炉は【魔石】とそれに術式を刻み込むことで作られているものだ。【魔機】は魔力炉なしでは動くことはない。

 私生活や一般的な【魔機】は、決められた術式を刻んでおり量産されている。量産されているということは、それだけ術式は簡単なものだということだ。

 しかし【飛行魔機】などに使われている術式は、量産できるほど簡単ではなう。そんな術式を、変えるとなると相当な知識と技術が必要となる。まだ量産の目処が立っていないものから、更に新しいものを生み出そうというのだ


(いや、結局は今やっていることだって同じことか……だったら)

「どうだ?」

「……うん。やってみるよ。これでだめなら、また他の方法を探すだけだ」

「じゃあ、俺も手伝ってやる。俺が提案したことだからな」

「ありがとう、リグ。お前が親友で本当によかった」

「よせって。さあ、さっそく始めようぜ」


 そこからは、二人で協力し、術式を変更していく。より距離を伸ばすため、出力を低く、だがそれでいて長持ちするように。

 数時間も、手を休めることなく続け……ようやく。


「よし。これで完成だ!!」

「よくやったな、クロード。さすがだな。こんな短時間で、新たな術式を作るなんて」

「いや、これはリグが手伝ってくれたおかげだよ。……ふわぁ」


 後は、後日シュドラー王や貴族達に見せるだけ。いや、その前に術式が危険じゃないかどうか、どこまで耐えられるかを実験するだけ。

 そう思うと、緊張の糸が取れたかのように、気が緩む。


「最終調整だけだったら、俺だけでできる。お前は、大人しく寝てろ。全然眠っていないんだろ?」

「そう……させて、もらう……よ……」


 本当に、リグが居てよかったと安心したクロードは、簡易型ベッドにもなる椅子に倒れこんだ。




・・・・・☆




「んー!! なんだか、久しぶりにたっぷり寝たな……」


 窓のない開発室なためどうなっているかわからないが、時計を見るとすでに昼近くだった。

 寝たのが、昨日の夕方六時だったため、クロードにしてはかなり寝たほうになる。

 どうやらリグは帰ってしまったようだ。

 

「実験は……とりあえず、昼飯にするか。いや、朝食か?」


 まともな食事も満足に取っていなかったため、街に繰り出して何かを食べよう。

 軽くなった体を動かし、開発室から出て行く。


「動くな! クロード・クロイツァ!!」


 が、そこで待っていたのは王城に居るはずの兵士達だった。どうしてここに? まだ【飛行型運搬魔機】のことは知らせていないはず。

 まさかリグが? だが、まだ実験をしていないから安全かどうかもわからない。

 

「あ、あのどうかしたんですか? 頼まれたものなら後は実験をするだけで」

「動くなと言ったはずだ!!」

「ちょっ!? な、何をするんですか!?」


 説明のため少し動いただけだが、無理矢理取り押さえられ、わけがわからないままクロードは兵士達に拘束されて、連行される。

 街の人々も、突然の出来事に何が起こったのかが理解できていない表情だ。

 外は一面の雪。

 防寒着を着込まず、多くの兵士達に縄で縛られ、連れて行かれる様は……まるで犯罪者だ。

 

「ぐっ!?」


 連行された場所は王城にある王の間。

 つまり、シュドラー王のところだ。無理矢理膝をつかされ、二人の兵士に力をいっぱい押さえつけられながら、シュドラー王と対面。

 何が遭ってもいいように周囲には、多くの兵士や【魔法機師】が囲んでいた。


「しゅ、シュドラー王! これはいったいどういうおつもりですか!?」

「どういうつもり? それはこっちに台詞だ、クロードよ。よもや、お前が我を殺そうとしているとはな」

「……どういう、ことですか?」


 まったく意味がわからない。誰が、シュドラー王を殺すだって? 

 とぼけているわけではない。

 本当にわからないんだ。だが、シュドラー王はクロードがとぼけていると思っているのか、深いため息を漏らしながら、傍に居た兵士に指示を出す。

 すると、王の間に運ばれてきたのは、クロードの開発室にあった【飛行型運搬魔機】だ。


「……ふむ、なるほど。ご苦労であった」


 そして、違う兵士がシュドラー王に何かを耳打ちした。それを聞いたシュドラー王は、より一層クロードへ向ける視線が鋭くなった。


「今さっき調べたところ、報告通りその【飛行型運搬魔機】には爆発術式が刻まれていることが判明した」

「爆発?」


 知らない。いったいなんのことだ? そんな術式を刻んだ覚えなどない。自分が刻んだのは、長距離でも低燃料で運用できようにと刻んだ新たな飛行術式だけ。

 確かに【魔石】は魔力の塊で、それを膨張させれば爆発を起こせる。けど、そうならないような術式だって刻み込まれているはずだ。


「まだとぼけるか。その【飛行型運搬魔機】の魔力路には、魔力を暴走させて爆発を起こす術式が刻み込まれていると言っているんだ。ご丁寧に気づかれないためか消音の術式もな」

「そ、そのような術式は存じ上げません!! 僕……私はただ新たな術式を」

「それが我を殺すためのものだということであろう? おい」


 再びシュドラー王が命令を出すと、まだ実験をしていなかった【飛行型運搬魔機】を起動させる。そして、すぐその場から離れ、数人の魔法使いが結界で【飛行型運搬魔機】を覆った。

 起動は順調だ。

 しかし、それはすぐに起こった。まったく問題がないように見えていた【飛行型運搬魔機】が突然爆発したのだ。それほど強力なものではないが、乗っていれば人など簡単に殺せるだろう。


「これでも言い訳をするか? クロード・クロイツァ」

「お、恐れながら。私は、このような術式を組み込んだ覚えがありません!!!」

「まだ白を切るか……本当のことを言うのだ」

「ほ、本当のこともなにも、私は本当にあのような術式は組んでいません! いったいどこからそのようん誤報を!?」


 そいつが、自分を貶めるために術式を変えたに違いない。そいつを捕まえて、自分がやったことじゃないということを証明すれば。


「リグ・オドルだ」

「―――え?」


 それは、犯人だと思いたくない親友の名だった。

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