第十八話~可愛いとは~
「えー……というわけで、今回は僕がデザイン重視の【魔機】を作ります」
「皆も参考にしてね」
一年二組の担任はアイリナ。そして、一年デザインコースの担当もアイリナだ。
意外や意外。
まさかアイリナがデザインコースの担当だったとは思わず、最初はクロードも驚いたものだ。しかし、実際にアイリナの実力を目で見た瞬間、この人は本物だと確信した。
機械の義手だからこその作り方だった。
五本ある指が展開し、細い腕のようなものが出現し、細かい動きで作り上げていく。まさにあれは神業と言っても過言ではない。
思わず、クロードは声が漏れてしまうほどだった。
《はーい!!!》
「参考にはならないと思うんだけど……」
この内容になった瞬間から、クロードはずっと考えていた。可愛いデザインの【魔機】とは。クロードと同じく異世界の英雄と呼ばれる者の中に可愛いデザインの【魔機】を作る事に関しては右に出る者はいないと言わせたメラクという男の【魔法機師】が居る。
そのメラクが出している男でも作れる可愛いデザイン【魔機】という本を購入し、勉強したが……正直受けるかわからない。
そもそも、デザインコースの生徒達ならばメラクの本を読んでいるはずだ。
ならば、それを作ってしまえば一発であ! これって……と気づかれるかもしれない。
どうせなら同じ【魔法機師】としては、オリジナルを作ってみたい。
(……頑張ってみるか)
どちらにしろ、もう注目の的だ。
今更逃げることなんてできない。
(というか、完全に囲まれてるから逃げ場がない……)
学園にはいくつもの作業場がある。そこには、多くの工具や機材、専門書が置かれており、休み時間などには先生の許可を得れば使えることができる。
一部屋で数十人もの人が入ることができ、設置されている場所によって雰囲気も違う。
今、クロード達が居る作業場は、デザインコース用とも言えるほど、周囲の雰囲気が可愛い……ほんわかとしている。
作られた可愛いデザインの機械人形や武器、アクセサリーなどが置かれており、まるで女子の部屋にでも居る気分になってしまうほど、華やかなところだ。
「では、作業を始めます。危ないから、あまり近づかないように」
一呼吸入れて、クロードは愛用の【万能工具】を手に、作業を始める。
頭の中に叩き込んだ設計図を確認し、【加工刃】で手早く、それでいて精密に切っていく。
「わー、全然迷いがない」
「というか設計図がないけど」
「もしかして、頭の中にあるってやつかな?」
生徒達が興味津々に作業姿を見ながら、感想を述べていく中、無心になって手を動かすクロード。
今回の作業は今までと違う。
女子も喜ぶ可愛いデザインの【魔機】を作らなければならない。
女子ばかりの学園に居るのならば、それぐらいはできなくては今後が大変だ。教師として、教える身として、やり遂げなければならない。
「よし。次は」
外観の加工が大体終わったところで、次は中身だ。
中身と言っても、そこまで細かい作業はない。
今回作るのは、簡易的な【魔機】だ。
例えば、ネジを回すことで動く人形がある。そんな人形のように、子供でも簡単に遊ぶことができるものをクロードは作っている。
取り出した魔力炉の元となる魔石を目の前で加工し、術式を刻んでいく。
刻む術式は、単純な命令。
初心者は必ず魔石の加工や、術式を刻み込む作業で苦戦する。だから、最初はすでに魔力炉として出来上がったものを用意し、作った【魔機】に組み込む。
後に、慣れてきたら自分で魔石の加工から、術式を刻み込むところまでやることになるが、彼女達にはまだ先のことだろう。
「な、何をやってるかわからない」
「でも、私達も本当の意味でのオリジナル【魔機】を作るには、魔石の加工とか術式を刻み込むこととか。そういうのをできないといけないわけだから、ちゃんと先生のやり方を覚えないと!」
だからこそ、クロードの作業姿は生徒達の感心を受けている。
「僕の加工技術はあんまり参考にはならないと思うけど……でも、そうだな。それじゃあ、教師としてはだめだから、ここでアドバイスだ」
クロードも作業を始めて、余裕ができてきた。
アドバイスという言葉に、生徒達は真剣な表情になり、メモを取り出す。
「魔石の加工は、魔力の強弱が重要なんだ。例えば、この魔石はそこまで大量の魔力がないから、加工の時も弱い魔力で十分加工できる。チセ」
「え? わ、私ですか?」
加工の時に、落ちた小さな魔石の欠片と作業場にある魔石用の【魔工鑢】を渡す。
「自分が思う弱い魔力を【魔工鑢】に込めて、魔石の欠片を削ってくれるかな?」
「は、はい。こう、でしょうか?」
他の生徒達が見詰める中、チセがクロードに言われた通り魔力を込めて削る。魔石の欠片は簡単に削れ、粉が落ちた。
あまり力を入れていないのに、かなり削れたため生徒達からはおーっと声が漏れる。
「じゃあ、その魔力のままこの魔石を削って見てくれるかな?」
そう言って、懐から取り出したまったく別の魔石。
先ほどのものが削れるならば、これだってと生徒達が思う中、チセが【魔工鑢】を当てる。
「あれ? 全然削れない……」
「その魔石は、さっき削ったものよりも濃度高い魔力を持っている。魔石は込められている魔力によって強度が違うから、こっちが込めた魔力が弱かったら全然削れないんだよ」
そのため、作業場には魔力測定機が設置されている。
授業の一環として、近場にある鉱山へと赴き、自分で魔石を掘り出すこともある。それを魔力測定機でどれだけの魔力があるかを測定し、加工する時に込める魔力を決めるのだ。
「もう習っているかもしれないけど、魔石を削るには魔力操作が重要になってくるんだ。しかも、加工している時は常に鑢に魔力を込めておかなくちゃならないんだ。よし、これで加工は終わりだ」
「す、すごい説明しながらあっという間に」
生徒達に教えながらも、魔石の加工を終えたクロードは、次に魔力炉を覆うための外殻の製作だ。
魔力炉はただ【魔機】に取り付ければいいというわけではない。
魔力炉は使えば使うほど、負荷がかかり、魔力伝達率が悪くなっていく。それを遅くしたり、魔力炉へのダメージを緩和するため外殻が必要となる。
普通の鉄などではなく、魔力が込められた魔力板。
それを魔力炉を覆うような形に加工していく。
簡単に四角形でもいいのだが、魔力板は魔力を込めることで、粘土のように折り曲げることもできる。その性質を利用して、魔力炉にあわせた形へと加工していく。
そして、小さな穴を開ける。
ただ外殻で覆うだけでは、ただ魔力炉を閉じ込めているだけだ。穴を開けるのは、魔力の通り道。そこに魔力の伝達率がいいホースを取り付け、最初の加工していた外装へと繋げる。
「これで後は、これに取り付けるものを作るだけ」
「なんだろうね、あれ」
「うーん。四速歩行の動物、かな?」
「微妙に顔があるから……犬、かな?」
出来上がったのは、顔がない鉄製の四足歩行な人形。ここまでならば、クロードでも余裕で作ることができる。
後は、この人形へと取り付けるものを作るだけとなった。




