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第十五話~慣れない日常~

 クロードはつい朝起きたら工具を握ってしまう。

 これはもう癖になっている。

 新しい【魔機】を作るために、起きてすぐに工具を握って作業に取り掛かっていたため、教師となっても作る【魔機】がないのにやってしまうのだ。


 その後、若干恥ずかしくなりつつ顔を洗って、スッキリしたところで、着替えて軽く朝食を取る。クロードは学園長であるロミエーヌの家で寝泊りをしている。

 シィも同様に泊まっており、毎日のように一緒の部屋で寝ると言ってくるが、ロミエーヌが連れて行ってしまう。さすがに師弟関係だろうと、今は教師と学生。

 一緒の部屋で寝泊りするのは学園長としては見逃せないとのこと。


(まあ、一緒の家で寝泊りしている時点でもうだめな気がするんだけど……)


 ロミエーヌの家は、外観こそ普通の一軒屋だが、空間を捻じ曲げることで、外観以上の広さを誇っている。

 王都の端っこにある緑豊かなところに一軒だけ。

 周囲は、走り回れるほどの広さがあり、ロミエーヌの家に泊まることになってからは、そこを朝訓練に使っている。


「よし」


 着替えを終えたクロードは部屋から出て行く。

 すると、可愛らしい弟子の顔がおはようございます。訓練用に動きやすい服に着替えており、その手には【魔刃剣】を持っている。


「おはようございます、師匠」

「うん、おはよう。今日も早いね、シィ」

「弟子として師匠より先に起き、待つのは当然です」


 別に当然のことではないと思うけど……が、あえて訂正せず、クロードは小さく笑い、部屋のドアを閉める。


「それで、ロミエーヌさんは?」

「まだ寝てます。いつも通りなら、学園に行く頃には起きるかと」


 ロミエーヌとシィの部屋は丁度クロードの部屋の隣。

 シィがそっと部屋のドアを開け、そこから様子を窺うと、気持ち良さそうに涎を口から垂らしながら、寝ている五百歳超えの《天族》の姿があった。

 

「相変わらず、年上とは思えない姿で困惑するよ……」

「正直、私のほうがしっかりしているかもしれません」

「それは言えてる」


 そっとドアを閉め、二人は家の外へと出て行く。

 太陽と、雲ひとつない青空。

 すーっと、深呼吸をして、気を引き締める。


「今日は、魔力操作だ」

「むぅ……得意じゃないけど、頑張ってみます」


 シィは、戦いのセンスはかなりのものだ。だが、魔力操作はあまり得意ではない。だが、真面目で努力家。それに吸収力がすごいので、教えればどんどん成長していく。

 まずは、呼吸。

 静かに、体全体へと意識を集中させるために呼吸をし、精神統一。そこから、体にあるマナを感じ取り、体の中心に集める。

 そこから魔力へと変換し、手、足などの体の一部から魔力を放出。


「よし。うまくできてる。次は、両手両足だけに魔力を集中させるんだ。出力は……四割で」

「はい……四割……四割……」


 目を閉じたまま、シィは意識を集中させ、魔力を四割の出力で両手両足に集めていく。

 

「……ど、どうですか?」

「足のほうがちょっと上回った感じだけど、大方は大丈夫だ」

「……」


 本当にちょっとだ。あまり気にするようなことではないが、師匠としては弟子にちゃんと成長してほしいので、クロードはあえて細かく指導している。

 さすがのシィも、それを聞いて落ち込んでしまうが、すぐに魔力を一度消し、もう一度魔力を練り上げ始めた。


(……なんだか懐かしいな。僕も、この世界に来た時はこんなことを毎日やっていた……リグと一緒に毎日……)


 クロードにも才能があったが、最初から強かったわけじゃない。最初は、魔力操作も全然だったし、剣の腕だってからっきしだった。

 常に先輩であるリグに教えられながら、才能を開花させていった。

 だからこそ、こうしてシィが成長していく姿を見ていると、つい昔を思い出してしまう。クロードは、なんとも言えない気持ちになり、頭を掻く。


「どうしました? 師匠」

「いや、なんでもないよ。って、おー! できてる! 今度はできてるよ、シィ!」

「やったっ!」


 こうして、ちゃんとできた時の素直な喜び方は歳相応で可愛らしくつい笑みが零れてしまう。


「よし。じゃあ、次は左側半分。五割程度の出力でやってみよう」

「わかりました」




・・・・・




「おはようございます! クロード先生!!」

「あ、うん。おはよう」

「クロード先生! 今日もめがね姿が素敵ですね!」

「あ、ありがとう」

「先生! この間に授業楽しかったですよ!!」

「それはよかった。次は、もっと楽しくなるように頑張るよ」


 朝訓練が終わり、ロミエーヌも起きたところで、三人仲良く朝食を食べる。クロードが泊まるようになってからは、毎日の朝食はクロードが作ることになっている。

 ロミエーヌも自分で作れるそうだが、男から料理を作ってもらうのが夢だったんだ! という理由で、無理矢理クロードに作らせる。


 そして、朝食を食べ終えると、ロミエーヌは一人だけ転移魔法で学園へと登校してしまう。クロードは、食器を洗い、シィの準備ができてから登校する。

 自分達も転移魔法で連れて行ってほしいところだが、そうもいかない。

 ロミエーヌは学園長として、色々とやることがあるため一人先に行くんだと言うが、本当なのかと疑っている。


 学園へ行く間も、学園に到着した時も、とにかく生徒達から挨拶をされる。学園で教師をすることになって、今日で一週間が経つ。

 大分校内の地理や、授業に関しては慣れてきたが。


「先生! 今日の授業は何をするんですか?」

「あー! 私が聞こうと思ってたのにー!」

「というか、くっ付きすぎじゃない? 先生歩き難そうだよ?」


 女子のテンションというのは、なかなか慣れない。元気に挨拶をしてくれるのは、嬉しいのだが……なんだかスキンシップが激しい。

 やたらと体に触れてきたり、数で囲んできたり。


(もしかして、僕って男だと思われていないんだろうか……)


 いやむしろ男だと思っているが、この人なら無害そうだし大丈夫でしょ! と思われているのか。

 シィはシィで、他の生徒達に混ざって、くっ付いてくる始末。


「よっす!! 相変わらず大人気だね、クロード先生!!」

「ぶふっ!? る、ルイカ先生……おはようございます」

「おう! おはよう!!」


 少女達のテンションに圧倒されていると、ルイカが背中を思いっきり叩いて挨拶をしてくる。相変わらずパワフルな人だと思っていると、すーっと静かにアイリナの姿が現れる。


「おはよう」


 通り際に、挨拶を交わして学園へと入っていく。


「あれって僕に言ったんですかね?」

「そうだろ? まああたし達、かもだけどな。それよりも、お前ら。あんまりクロード先生を困らせるなよ? ほら、さっさと教室に向かった向かった」

「はーい!」

「それじゃ、クロード先生! ルイカ先生! 失礼します!」

「おう! また授業でなー!」


 これが今のクロードの日常。気軽に話せる人達が居て、頼りになる先輩教師が居て、慕ってくれる弟子が居て。


「クロード先生!! おはようございます! 今日も絶好の【魔機】作り日和ですね!!」

「パルノ。それにキュレも。おはよう」

「お、おはようございます!」

「キュレ。今日は、朝から厚切りベーコンサンドなんだね」

「お、おいしそうだったから……」

「あれ? レイカは?」

「レイカなら先に行っちゃいましたよ? あっ! ほら! あそこから双眼鏡で見てます!!」


 担当するクラスの生徒達は、癖のある子達だが、それでも楽しいと思ってしまう。

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