第十四話~特生組のお喋り~
「シィちゃん。これ、食べる?」
「うん、食べる。キュレは、いつもこんなにたくさんの食べ物を持ってきてるの?」
「えへへ。ちゃんと学園の許可はとってあるから安心して。私、エネルギー不足になると色々大変だから」
授業後の休憩時間。特生組の教室では、のん気な空間が広がっていた。
頭を使った分だけ、糖分の補給だと言ってキュレが甘い菓子パンをぱんぱんのバックから取り出したのだ。シィも一緒に食べているが、途中であることに気がつく。
「ねえ、キュレ」
「なに?」
「ダイエットはもういいの?」
「ひうっ!?」
キュレと最初に出会った時は、ダイエットをしていた。あれから数日は経ったが、まだ触ってみると腹部の辺りがぷにっと摘める。
「なんですか? キュレ。また無駄なダイエットをしていたんですか?」
「うぅ……だって、だって!」
とある【魔機】をいじるのを止めて、パルノまで会話に加わってきた。この中では、一番仲がいいためシィが知らないことを知っていそうだ。
いったいどんな話をするのだろうと、耳を立てる。
「力を抑えるために食べているのに、ダイエットなんてしたら暴走しちゃうってことは理解しているはずですよ?」
「わかってる……わかってるんだけど……」
じっとすでに半分以上食べた菓子パンを見詰め、肩を落とす。
「まあまあ。女の子なんだか仕方ないわよ。やっぱり、太っているよりは痩せていたほうがいいって思っちゃったのよね?」
一人読書をしていたレイカも加わり、特生組生徒の会話が始まる。
「別にキュレは太ってはいませんよ。ちょーっと、お腹がぷにっとしているだけです。私は、キュレのむちっとした太ももが大好きです!!」
「な、なにを言うの!? パルノちゃん!?」
「私も、キュレの太ももはいいと思うよ。健康的で」
「そうね。私も、何回かすりすりしたけど、なかなかの肉質だったわね」
「いやぁ、思い出しますねぇ。キュレと最初に出会った時は大変でした……」
懐かしむように、腕組みをしながらパルノはキュレとの出会いを語り出す。
「それは、私も聞いたことが無いわね」
「どんな出会いだったの?」
「そうですね。この王都に来る前にとある街で、キュレは行き倒れていました」
よく倒れる子だなと、シィはキュレを見詰める。
「その時は、ダイエットではありませんでしたが。どうやら財布を落としたらしく、持って来た食料も底を尽いてしまったらしくてですね」
「キュレってドジなんだね」
「はうっ!?」
「そこで、私が助け起こしたところ」
「もしかして、脱がされた?」
「まさに! いやー、人前だったからさすがに恥ずかしかったですねー。こう、服をばっと! 無理矢理だったので、ボタンが弾けて、胸元が肌蹴ちゃってましたよ」
こういう風にと実際に、胸元を肌蹴させるパルノ。
キュレほどではないが、この中では二番目に大きな胸なため、谷間が丸見えだ。そして、下着の色は純白であった。
「ぱ、パルノちゃん! 胸! 胸見えちゃってる!」
「別に構いませんよ。あの時は、見知らぬ人達や男の人達ばかりでしたが、ここには見知った顔の女の子しか居ませんからね。全然恥ずかしくないですよ?」
「羨ましい……」
「胸がですか? 確かに、大きいですけど。さすがにキュレには負けますよー」
「確かに」
じーっと二人合わせてキュレを。いや、キュレの大きな胸を見詰める。視線に気づいたキュレは胸を庇うように身を逸らすが、シィという名の獣は止まらなかった。
「この弾力……これは男も、女もだめにする。これは師匠を近づけちゃだめな胸だ……」
「ひゃっ!? し、シィちゃん! そんな乱暴にしちゃ……きゃんっ!?」
「シィは積極的ですねぇ」
と、胸元を隠しながら言うパルノだったが。
「あなたがそれを言うのかしら?」
「へ?」
レイカに突っ込まれてしまう。おそらく、クロードとのやり取りのことを言っているのだろう。あれに比べれば、シィの行動はまだまだ可愛いほう……とは言い切れないが、パルノが言えた口ではないのは明白だ。
「まあ、それはそれとして。ねえ、シィ? ちょっと聞きたいことがあるのだけど、いいかしら?」
「なに?」
キュレの胸に顔を埋めながら耳を傾けるシィ。レイカは、くすっと微笑みながらこんなことを問いかけてきた。
「あなたとクロード先生の出会い。《銀狼族》を弟子にするなんて聞いたことが無いから」
「……」
数秒ほど静かになり、ゆっくりとシィはキュレの胸元から顔を上げる。
「師匠とは」
そこから、シィは自分が覚えている限りのクロードとの出会いを語った。十五分しかない休憩時間をほとんど使って。
そして、残り時間二分というところで、シィの語りは終わった。
「こんな感じ。それから、私達はシュドラー王国と出て、マギアラに来たの」
「……シィ」
「なに?」
顔を伏せたまま、パルノはシィの両肩に手を置く。
「よかった! よかったです!! クロードさんに出会えて本当によがっだでずねぇ……!!」
大泣きである。後ろからも鼻を啜る声が聞こえたので、振り返るとキュレまで泣いていた。
「なるほど、奴隷ね……やっぱり金に目が眩んだ奴らは信用ならないわ……」
ただ一人だけ、レイカは珍しく怒りを露にしていた。彼女もシィと同じ昔から人々に狙われ続けてきた種族のひとつ。
シィが知らない仕打ちを受けてきたのだろう。
「……ふう。それにしても、三千万ねぇ。すごいじゃない」
「でも、私にそんな価値があるとは思えない。いくら《銀狼族》だろうと。子供の私に」
「そういう趣味を持った人達になら、三千万でも安いほうかもしらないわよ?」
「そういう趣味?」
まったく意味がわからないと首を傾げていると、パルノが鼻を啜り、涙を拭った。
「というか、あの噂は本当だったんですね。クロードさんがシュドラー王国から追放されたっていうのは! まったくもって信じていませんでしたけど……」
「う、うん。私も信じられなかったよ。だって、つい最近だって【飛行型運搬魔機】が完成したばかりなんだよ? また世界を発展させるものを作ったのにどうして……」
クロードとシィがマギアラに入った頃には、もう【飛行型運搬魔機】の完成が発表された。その開発方法も紙にまとめられてあり、現在は量産するため各国の腕利きの【魔法機師】達を集めて、発表会のようなものを開いている。
それが終われば、設計図を各国の【魔法機師】に渡し手筈になっている。
これは設計者のクロードの意思。クロードが望むのはより良い発展。そのために【飛行型運搬魔機】は必要となると。もし独り占めなどをすれば、また昔のように戦争になる。
「師匠からは詳しく聞いてないけど、それが完成する前に一騒動あったみたい」
「これは国が怪しいわね。もしかしたら、国王が色々と裏で糸を引いていたりするんじゃないかしら?」
「その可能性が高いですね。だって、クロードさんを手放すなんて普通ありえませんもん! まあでも、そのおかげで私達の担任になってくれたので、複雑な気持ちですけど……」
クロードが国外追放されなければ、ここで教師をすることはなかった。出会うこともなかった。だからこそ、素直に喜ぶことができなくなってしまったパルノ。
若干テンションが下がったところで、休み時間終了のチャイムが鳴り響く。
「さあ、次は【魔機】を使った実践授業よ。早く移動しないと、クロード先生が待ちくたびれちゃうわよ」
「それはいけません! あー! なんてことでしょう!! 次の授業が始まる前に、完成させておこうと思っていたのに!」
「また後にすればいいじゃん。ほら、早く行こうよパルノ。キュレも、それをちゃんと処理してね」
「あっ! はむはむ……んぐ! まってー!」




