第十二話~新任教師の実力~
《―――というわけで、今日から新任の教師と生徒が我が学園に来ました! 皆も、知っていると思うけど、これがスペシャル中のスペシャル! さあ! 姿を現しなさい!!》
まるで、派手な登場でもしろと言っているような言葉だが、クロードとシィは普通に全校生徒の前に姿を現す。
特生組との挨拶もほどほどに、新任の教師であるクロードと新入生のシィの紹介をするためだけに開かれた催し。広々とした体育館に、これでもかというぐらいの飾り付けをされている。
嬉しいことだが、同時に自分達のためにここまでしてくれるなんてと申し訳なくもある。なにせ、これが終われば装飾は全て取り除かれてしまうのだから。
《まずは、生徒さんからの紹介よ》
全校生徒の視線が集まる中、シィはロミエーヌと入れ替わるように壇上へと立ち【拡声魔機】に向かって声を発する。
《初めまして。《銀狼族》のシィです。ご存知かと思いますが、私はこれから喋るクロード・クロイツァの一番弟子をしています》
ざわ、ざわざわと静寂が破られる。だが、シィはお構いなしに喋り続けた。
《弟子と言ってもまだなり立てで、ほとんど師匠から教わっていません。でも、これから弟子として、師匠が恥ずかしくないと思える【魔法機師】になりたいと思っています。それと……》
いったい何を言おうとしているんだ? 生徒達は一瞬にして静かになる。
《皆と、仲良くしたいです。目指せ、友達千人。……以上です》
最後にぺこりと会釈をして、クロードの隣へと戻る。
生徒達からは、なかなか好印象の拍手の音が鳴っていた。他種族とあまり関わらない《銀狼族》だからこその言葉。
それを一番わかっているのは、同じ境遇の種族であるルイカとレイカだろう。
《はい! ご苦労様! では、次はお待ちかね! あの! 異世界の英雄の一人にして、世界中にさまざまな【魔機】を送り込み、天才の名を我が物とした【魔法機師】!!》
(あまりそういう紹介は好きじゃないんだけどなぁ……)
ロミエーヌのテンションの上がりようとは裏腹に、クロードは静かに移動する。
視線が集中している。
純粋な視線だ。まだ好奇心旺盛な年頃の少女ばかりを前に、クロードはこほんっと咳払いをする。
《ご紹介に預かりました。【魔法機師】のクロード・クロイツァです。今日から、この【マギアラ魔法機師学園】の教師として勤めることになりました。担当は……一応学年とは問わず、全ての【魔機】に関する授業に関わる予定です》
クロードの発言に生徒達はざわつく。これはシィの時とは比べ物にならない。
当然といえば当然だ。【魔機】に関する全ての授業に関わる宣言に驚かないわけがない。
《とはいえ、基本は特生組の担任なので、そちらを優先させてもらいますが》
この学園は三年制で、学年毎に二組ずつに分けられている。クラス毎に、普通勉学に【魔機】に関しての授業をやるのだが、特生組は違う。
特生組だけは、その組の担任が全て教えることになっている。ただし基本的には自由だ。なにせ、他の生徒と比べて知識も技術も高いと判断されたからだ。これまで、特生組を担当した教師は逆に教えられることが多く自身を喪失した者も居たとか。
その代表格が、パルノだ。
さすがはウェイラ家の娘。教師に教えられなくとも、ウェイラで培った知識と技術で、どうにでもなるようだ。それなのに、どうして学園に入学したのか……それについてはまだクロードは聞いていない。
キュレは【魔機】については、まだまだ素人のようだが、魔力が尋常じゃないほど多く、魔法に関しての知識と技術は教師をも超える。
パルノとは、仲良しらしく、パルノの推薦もあって一緒のクラスになった。
最後にレイカだが……彼女に関しては、まったくの謎。潜在能力は姉以上と言われているが、まったくその変貌を見せようとはしない。が、年齢に見合わず、大人びた口調と捉え難い性格が大人を翻弄させるようだ。
《教師としてはまだまだ未熟ですが、【魔機】に関する知識と技術には自信があります。なにかわからないことや困ったことがあったら、僕を頼ってくれると嬉しいです。……短めですが、これで挨拶を終わりにしたいと思います》
最後に一礼をし、その場から離れようとした。
が、ロミエーヌが逃がさんとばかりに腕組みをしてくる。
《はい! というわけで、ここでクロード先生による特別授業を開始するわ!!》
「え!?」
そんなこと聞いていない!? クロードは面を食らったように、驚くが生徒達は期待に胸を膨らましたように歓声を上げる。
さっそくあのクロード・クロイツァの授業を受けられるんだ。嬉しくないはずがない。
「ちょ、ちょっと! ロミエーヌ学園長? 僕、そんなこと聞いていないんですけど」
《当然です! 今、思いついたんですから!! クロード先生!!》
昔からロミエーヌは、思いついたことをすぐ実行したがる。本当に子供のような性格で、クロードはもう笑うしかなかった。
全校生徒の前では、断ることもできない。
にやりと悪戯が成功したような子供の顔が見える。やるしかないかと、クロードはまた【拡声魔機】の前に立った。
《……えー、ではここで即興の【魔機】を作りたいと思います》
クロードは、白衣から愛用の工具を取り出す。
どう見ても、ただの鉄の棒だが、これはクロードが作った【魔機】だ。これにはロミエーヌの協力得て空属性の術式が刻まれている。
鉄の棒の先には小さな穴があり、そこから色んな工具が出てくる仕組みだ。中にある魔力炉へと流し込んだ魔力の波長により、出てくる工具が違う。これは作ったクロードで無ければわからないので、誰もが使えるというわけではない。
《なんでもいいので、部品を持っていませんか?》
クロードの言葉に、生徒達はもちろんだが、教師達もたまたま持っていた部品を掲げる。それをクロードは自ら取りに行き、皆に見えるように生徒達の中心へと立った。
「じゃあ、始めます」
集まった部品は、ばらばらだ。ネジだったり、鉄の板だったり。
クロードはその場に座り込み、用意された小さな机の上で作業を開始する。万能工具から魔力カッターを取り出し、鉄の板を切っていく。
その切った鉄の板を今度は熱により少し溶かし、くっつけていく。
「おー」
「さすがにすごい手際だね」
「でもちょっと地味」
今まで通り、普通に作業をしているところを見られている。普通は誰かに見られることはなかったため、変に緊張してしまっている。
しかも、それが年下の少女達ばかり。
(近い。めちゃくちゃ近い……)
結構距離を取っていたはずなのに、興味津々な少女達は我慢できず、かなり距離を詰めてきていた。
「何を言うんですか! この精密で、手早い動きのどこが地味なんですか!?」
「ぱ、パルノちゃん。あんまり興奮しちゃだめだよ!」
「ええい! もっと、もっと近くでクロード先生の作業姿をぉ!!」
なにやら遠くからは、パルノの興奮した声が聞こえる。
「先生。何を作っているんですか?」
と、一人の生徒が問いかけてくるので、クロードは。
「もう終わったよ」
「え? もうですか?」
鑢で形を整えて、即興の【魔機】が完成した。形は丸い鉄の塊。貰った大きなネジが突き出しており、まるでスイッチのようだ。
「ほうほう? クロード先生や。これはなんぞや?」
体にのしかかる感覚。
すぐにひょこっとロミエーヌの顔が現れた。特に驚くこともなく、クロードは即興で作った【魔機】の説明をした。
「これは所謂閃光弾です。このネジがスイッチとなって、中にある魔力炉から魔力光が溢れ出ます」
「ほー、ネジをスイッチ代わりにするとは。さすがは、クロード先生ね。あの部品の数々で、本当に【魔機】を作っちゃうなんて」
「まさか、できないと思ってました?」
「そんなことないわよー」
嘘か信かわからない返事だ。
「じゃあ、本当に完成しているか試してみてもいいかな?」
「いいですけど、結構光が強いので、皆から離れたところで」
「はい、かちっと」
「ちょっ!?」
注意を聞かず、ロミエーヌは迷わずネジのスイッチを押してしまったので、反射的に閃光弾を上へと投げ捨てた。
「うおっ!? まぶしい!?」
「……はあ」
なんとか至近距離からは避けられた。我慢と言うものを覚えて欲しいと子供のように笑うロミエーヌを見て、ため息を漏らすクロードだった。




