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六十八、 VS マリン

  <古の神姿>


 本日二回目の能力発動だ。

 使える必殺技は一回。それ以上は厳しい……



龍王の吐息(フリーズ・ブレス)


 ドラゴンは体内に溜まった冷気を一つに集め、口からその冷気の一撃を放った。


『運任せの一撃』


 吐息と同時に私の左腕が振りかぶった。そして、大爆発が起きた。

 氷の息を爆発は跳ね返す。


 ──が、ドラゴンを倒すには至らなかった。



 何事もなく飛んでいるドラゴン。

 再びドラゴンは私に向かって口を開く。また、攻撃が来る。


 しかし、私は能力の限界を迎えている……。どうすれば……



<大丈夫っす!月華ちゃんなら、限界を越していけるっすから>



 私は──限界を越える!!

 心の中で聴こえた優しい声が私の闘魂を燃やした。



龍王の吐息(フリーズ・ブレス)

『運任せの一撃』



 ドラゴンから強烈な冷気が放たれる。

 私の左腕からは無数の桜が飛び散った。


 無数に現れる桜の花びらは会場を覆う。空に向かって勢い良く進む桜は……一つの桜だけならすぐに凍らされて地へと落ちるが、無数の桜が合わさることで凍りつく冷気を跳ね返す。



 そして……

 冷気は雪となり会場へと降り注ぐ。

 大量の桜は重力によって地面に向かって落ちていった。



 桜と雪が同時に落ちていく。

 桃と白のコラボレーションが会場を幻想的な空間にした。その空間にドラゴンという尊大な生き物が羽ばたかせている。



「能力が……解けた────」



 月華の身体は人間の身体へと戻っていた。

 小さな角も翼も私の中に収縮した。身体の中に眠っているのが分かる。

 能力を使い切ったことで魔族の身体は私の中に収縮した。多分、能力を操ればまた魔族の姿になれるだろう。古の神姿を使えば魔王の姿にもなれる。

 能力が完全になくなった訳ではない。


 だが、今は召喚の能力は使えない。

 それに、重力の能力ももうすぐ底をつく。



 絶対絶命だ────



「トドメをさす」


 ドラゴンから強いオーラが見える。

 さっきから撃っていた技よりも断然強い技が繰り出される。だけど、私にはさっきの技すら使えない。



絶望の放射(アイス・ブレス)



 強い冷気が弧状に広がる。

 冷気は地面に触れると幾数もの結晶を作る。フィールドよりも上の方にある観客席も冷気の餌食となり結晶となって凍った。


 観客席にいた人々も氷に巻き込まれた。王や王女はその状況を眺めていた。


 そして、その結晶はすぐに塵となり消えてしまった。

 その中に閉じ込められた人々や武器は氷というモノと化し、塵となる。

 無残にも攻撃の跡は、平らな地面だけが残っていた。



 ダイヤモンドダストのようで──美しい情景だ。




──

───

────



「マリン……。お前は女なんだから、サポートに徹しなきゃ駄目なんだぞ!!」



 あたしはマリン。冒険者の子として産まれた。将来、冒険者となる人材として育てられた。

 だけど、、あたしは"女"だからという理由で前線で戦うことを許されずサポートに回ることを強制されていた。


 それでも、あたしは前線で戦うことを諦めていなかった。

 いつか前線で戦おう心に決めた。



「どんなに頑張っても無駄だ!お前の能力は氷魔法。接近戦となる前線など無理なんだ!!」



 あたしは氷魔法を無理にでも覚えさせられた。いや、それしか使わせてくれなかった。それでも、誰も見ていない時に接近戦の戦い方の練習を行い続けた。



 だけど、、、

 一向にパワーは強くなっていかない。


 歳を重ねて胸も膨らみ始めた。男のような動きも出来なくなっていった。

 あたしだけが接近戦において取り残されていたような気がした。


 だけど、心の中ではまだ諦めていなかった。

 諦めきれない────



「よしっ、仲間となってくれないか?」



 あたしは逆転者と称された冒険者のエックスの仲間となった。役割は魔法使いだ。他に二人の仲間と一緒に冒険をした。

 今までサポートするのは気に食わなかったのに──


 "彼らとならあたしはサポートに徹しても構わない"


 エックス達との冒険は楽しかった。

 あたしは常にサポートに回っていたけど、仲間達と一緒に戦えるだけで幸せだった。最高の仲間達だった。

 強敵の魔族と死闘を繰り広げ、あたし達は魔王を倒した。



「私達は解散しよう────」



 そこで旅は終わった。

 魔王は実は想像していた悪い敵ではなかった。この世界のために動いていた正義かもしれない。そんな存在を殺してしまったとエックスは後悔した。


 王に伝説の勇者とその仲間との称号を貰っても、エックスは……あたし達は何にも嬉しくなかった。



 いつしかエックスは魔王城に立てこもった。

 残ったあたし達はそれぞれの道を歩むことを強いられた。一人は最強を目指して流浪し、一人は冒険者と新たに増えた勇者を束ねる組合(ギルド)を経営した。



 あたしはどうしよう──

 諦めかけていた前線に立とうかな。





「あたしは勇者の前線に立つ!!」



 だけど、他の人達とレベル差があるにも関わらずパワーが足りない。そのせいで、あたしは前線に立たせて貰えない。諦めなずに前線に立とうとした。いつしかお邪魔虫扱いされるようになった。


「お前は邪魔なんだよ!!」


 王から厳重な指導を受けた。女は前線で戦うことは許されないと。あたしに前線で戦うことから遠ざけられサポートしかやらせて貰えなかった。あたしは前線で戦うことすら出来なかった。


 そこでやっと知った。

 あたしが前線に立つことなんて無理なんだと……


 無理に背伸びしたあたしは……結局、足元を掬われた。



「それでも……前線で戦いたい。だけど、あたしは"女"だ」



 あたしは流星の降る夜に涙ぐんだ。

 女じゃ、、前線で戦うことすら許されない。



「なら──男になればいいんだ……」




 あたしは一流の冒険者でもあった。勇者と称えられる前は冒険者だったのだから。

 その時に出会った一人にあたしを男にできる者がいた。


 あたしはその者に会いに行った。


「この能力を使うともう二度とこの能力は使えない。つまり、二度と女には戻れないけど、いいんだな?」

「うん、大丈夫────」



 そして、あたしは……男となった。

 名前をリンと変え、勇者の門を叩いた。そして、ボクは勇者となった。



 男になったことで得た力……

 だが、それに満足しずにより強くなろうと努力を続けた。


 さらに、

 積極的に前線に立った。


 圧倒的な力を見せつけてボクは青色(ななじき)の勇者の地位を手に入れた。いや、身近な人や王には自分がマリンであることを伝えてたから、伝説の四人として選ばれたのかもしれないけど。男なら元は女だったとしても前線で戦うことも許してくれるみたいだ。



 任務を積極的に受けた。

 男となり、今まで許されなかった前線での死闘を楽しんだ。積極的に任務に参加することで死闘を正当化させた。

 今まで叶わなかった夢が叶い、ボクは存分に楽しんでいる。



 ただ、ボクは氷の仮面を被っていたようだ────






 美しい霧がリンの眼に映る。

「いつから、ボクは────変わったんだろう」


 幻想的な空間がどこか胸の中に虚しさを抱かせる。


 見渡すと一面、フィールドには誰も肩を並べる者はいなかった。

次回は土曜日に更新

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