六十六、 カルト 対 リン
カルトは負傷を受けた分を回復したが、疲弊はしている。その疲弊を乗り越えて勝てば、後は私が勝てば最高のシナリオだ。
「行ってくるっす────」
「勝ってきてね!」
カルトはフィールドへと降り立った。
「勝たせて貰うっす」
「取り敢えず、全力でぶつかり合おうよ!!」
《それでは準決勝の試合開始だー!!!!》
◇
無数に現れる召喚陣。そこから氷の玉がカルト向かって進んでいく。
カルトは走りながら剣を振り回し氷の玉を粉砕していった。
そして、カルトがリンとの間合いをつめると剣がリンに向かって振り落とされた。
刹那、リンは直撃される前に消えた。
「無駄っすよ────」
急に現れたリンと召喚陣。
召喚陣から現れる玉をカルトは難なく切りさった。
「オーラが丸見えじゃないっすか?」
カルトはリンを目で捉えると、光の速さで斬った。
リンは地面に転がってから、立ち上がった。
「なかなかやるじゃん!!」
リンは召喚陣から剣を取り出した。
『氷の剣』
カルトは近づいて剣を振る、リンも負けじと剣を振る。二つの剣が衝突する。衝撃し合うと剣は持ち手近くへと戻され、再び剣が下ろされる。
カルトもリンも剣を衝突させては戻すの繰り返しだ。ただ、カルトの方は段々とその動作が加速しているように見える。
「ウチの攻撃は加速していくっす!!」
剣がリンに直撃する。
さらに剣の直撃を喰らうリンは堪らず後方へと跳んで逃げる。それを、カルトは突撃と組み合わせた剣捌きで追い討ちを仕掛けた。
リンは一瞬にして消えて、カルトから少し離れた場所へと現れた。
私は地下空間からその状況を眺めていた。そして、「おしい!」と口を開いた。
「逃げられたっすか……」
「能力の冷気を身体に巡らせることによってボクは氷になる。その氷となったボクを召喚陣に収納して、すぐさま違う場所へと召喚陣を繰り出す。どう?ボクの瞬間移動は?」
「凄いっすね────」
リンはどこか冷めた雰囲気があり、凍てづく冷気を放っているように感じられた。
だが、今のリンはどこか楽しそうな明るい雰囲気を醸し出す。リンから放つ冷気は……(冷気なのに)温かく包み込む。
「「──キミの戦いぶりを見てると昔を思い出すよ!!」」
リンの持つ二つの顔────
サイコパス。狂った感情で自分を隠し続けた。その顔は仮面で本当の自分を覆い被せいた。
素性の不明なリンにも過去がある。その過去を思い出し、懐かしい記憶がリンを覆う仮面を溶かした。現れた素顔は優しく微笑んでいた。
「アタシは全力であなたに答えるよ────」
そう呟いたリンは剣を持ってカルト向かって走っていく。
リンはカルトとの間合いを詰めると剣を縦に振った。その剣は横に振られた剣と衝突する。
「よく分からないっすけど、こっちはもうとっくに全力でやってるっすよ!」
リンは左手をカルトの肩に乗せた。そして、剣を支点としてカルトの頭上を一回転して地面へ。
地面へと足をつけるといなや、すぐに片足を軸に回転する。その回転によってカルトを斬ろうとした。カルトは光の速さで移動してリンとの距離を広げ、リンの攻撃を躱した。
「しまっ────」
いつの間にかリンの手には剣ではなく弓を持っていた。それを確認する頃には大量の矢が空から落ちてくる。
落ちていく矢を光の速さで避けていく。当たらないように避けていたらいつの間にか背後には壁が聳え立っていた。
「『氷の弓矢』はまだまだ続くよ!!」
リンは大量の矢を弓に掛けて放った。カルト目掛けて真っ直ぐに飛んでいく。
後ろは壁、目の前は大量の矢。
避けるためには────
カルトは光の速さで垂直に壁を走っていった。光の線が壁をつたっていく。
それを狙うように大量の矢が壁に刺さるがカルトには当たらない。
いつしか、リンの後ろを取ったカルトは光の速さで近づいていく。
「予想通りだよ!!」
リンの手には再び剣。背後に攻撃するために、片足を軸に剣を振る。
カルトの剣とリンの剣が衝突した。
リンは少し後ろに吹き飛ばされた。
カルトに溜まった疲弊が襲う。その疲れで追い討ちをかけるタイミングを見失った。
「まだまだ──続くよ」
『氷の斧』
リンの片手には氷でできた斧を持っていた。
カルトの影を覆う丸い影──
その影は段々と大きくなっていく。カルトが見上げると大きな氷塊が巨大化していく。
「ヤバイっすね────」
リンは斧を真下に振り落とした。それと同時に大きな氷塊が真下に落ちていく。
氷塊は地面に衝突するとみるみるうちに崩れていき、いつしか塵のようになって消えてしまった。
「危なかったっす……」
疲弊した身体に無理を言わせて、光の速さで攻撃を受けない安全な場所へと逃げていた。
ハアハアと息を切らしている。
リンは何も持たずにカルトを見る。
「────アタシを……忘れてるよ」
カルトに突如襲う氷の玉。
疲れた身体は召喚陣から出された攻撃を避けれなかった。いや、疲弊しすぎてオーラを感じることすら出来ていなかった。
カルトは氷の結晶に閉じ込められた。
その結晶を包む召喚陣。すぐさまその結晶は消えてしまった。
◆
カルト────!?
その出来事は一瞬にして、予想していなかった悲劇……
何が起きたのか…頭の中で整理がつかない。
ただ、私の瞳から冷たく煌めく水が何度も滴り落ちていく。
いつの間にか私の横に……リンが立っている。
「大丈夫、カルト君は……死んでないから────」
リンは私の耳元で囁いた。
意味が分からない。カルトは消えた?けど、死んでない?全然理解が追いつかない。
ただ、大切なものを失う恐怖が……私を強く強く襲うのみだった。その強襲に耐えきれない私の眼は思わず体液を垂らし続けていた。
「カ……ルト……────!?」




