六十三、 優勝候補"リン"登場
私達のいる部屋にギルゴートとマッキンローがやって来た。
「久しぶりだな、魔王────」
「久しぶりね。カイルは元気にやってるよ!」
マッキンローは実はカイルの師匠で、カイルを仲間にする際にマッキンローのことを知った。彼は強いということは知っている。勝ち抜くことは妥当ではある。
その場から遠ざかるように居座るギルゴート。勇者の身分があるために私達とは関われない。
一方フィールドには"C"ブロックの参加者が全員集まった。
そして、戦いの火蓋が切られた。
◆
「一気に終わらすね────」
『氷の棘床』
フィールド全体を覆う召喚陣。そして、地面から氷で作られた棘が地上に飛び出した。多くの参加者は棘による負傷で消えていった。
《一瞬にして参加者が大量に減ったー!!!》
アジュラはその攻撃を眺めていた。木属性の能力クジャク。生える翼によって飛んで棘の負傷を回避した。
空にいれば負傷を受けないと思いきや……
「空にいても無駄だよ────」
氷の棘は消えた。
そして、その床に現れた召喚陣とは対象にして空に召喚陣が現れた。アジュラの頭上に現れる。
『氷の室内灯』
氷の棘が真下に落ちていく。鋭く尖る尖端が地上へと向かって落ちる。棘は地面へと衝突した後、塵となり綺麗に舞った。
その棘は参加者を一網打尽にしていた。
《エントリーNo.2、勇者の"リン"の猛攻ー!彼の素性は不明。ただ分かるのは最前線の勇者ということだけ!リンの攻撃で、、、残ったのは……》
息を切らす大男と、地に這う鳥人間。
《エントリーNo.140、陸内違法者の長官アダル、エントリーNo.19、野族の勇者でドラゴンを滅ぼした一人アジュラ!!》
「ボクッちは何もしてないんだけど…。ただ、最強を空まで連れていっただけで……」
鳥の毛皮を身体に収縮させるアジュラ。もうそろそろ限界を迎えそうにあった。
「こんな小僧には負けん!!」
中学生っぽい容姿。背の高さは高くはないが低くはない。顔は男か女か分からない中性な感じだ。一言で言えば、ショタだ。
身軽な体重移動に、ほっそりとした身体。
その少年は余裕そうに微笑んだ。
「やっぱり前線で戦うのは楽しいね!これが死闘ならもっとだよね。君は違反者で超重大な危険人物。ついでに、殺せば……楽しめて一石二鳥だよね!!」
笑顔の裏に見える狂気──
二面の顔な少年に見える。
「なめないで貰いたいな!これでも悪の王だ!!」
大男は服から何かを取り出して口に入れた。
薬だ────
「これは能力を大幅に上昇させるだけでなく、その能力を超上方効果にする薬だ。木属性の能力虎。薬によって、今や鉄の皮膚に鉄の身体。負ける気がしない──」
人間離れした姿となったアダル。
驚異的な強さを醸し出す。誰しもこいつは強いと思わせる程だ。
「へぇ、面白いじゃん!ボクはこれを待ってたんだ!!全力で楽しもうよ、男同士でしか出来ない殺し合いの決闘を!!」
『冷気の能力上昇』
リンの体内は冷気で包まれた。
その冷気がリンの身体能力を上昇させる。
「ふざけ!こざっぱがぁ!!」
鉄の虎の拳がリンを捉える。
その拳に向かってリンもすかさず拳で応戦する。
衝撃の大半は相殺したが、虎の威力は強く少しだけ後ろへと追い込まれた。
「これを望んでたんだ!!楽しくてボクは──」
アダルとリンの殴り合いが続いた。
アダルの身体は所々氷っているように見える。
《リンとアダルの殴り合いが始まったー!これは熱い!!》
「そろそろ……かな!!」
リンとアダルの拳がまた衝突する。
そして、この時アダルの腕は砕けた氷のように破れてしまった。
アダルは驚きを隠せない。
《この世界では有り得ないような光景が広がっている!何と、アダルの腕が消えたぁ!!》
「ねぇ、知ってる?昔の仲間に教えて貰ったんだけど、他の世界では刃物で皮膚を切ると血が出てくるんだよ!!」
しかし、この世界では刃物で皮膚を切っても負傷を受けるだけで血は出ない。
「この世界ではそんなことは起きない。ただ、負傷を受けるだけなんだ……。──人間と魔族など動物だけはね。」
「どういうことだ?何故腕が消えたんだ?」
「簡単さ、今壊れた腕は《モノ》だったからだよ!ボクは水属性の能力氷。そして、その能力で凍らしたものは氷と一体化する……」
つまり────
「ボクの能力でキミの腕は氷となったんだよ!!つまり、モノ!ボクはそのモノを壊しただけさ!!」
リンは余裕の表情を浮かべる。
彼の底が見えない────────
「そんな出鱈目な理由でか?まあいい!腕が使えないなら噛み殺してやる!!」
鬼の形相のように睨むアダルはリンに思いっきり噛み付くために、突進をしようと身を竦めた。
「もう無駄だよ!────ボクの勝ちだからね。」
一瞬にして、氷の結晶が現れる。
その結晶の中にアダルは閉じ込められた。
「じゃあ、キミには死んで貰おうか!」
『氷の剣』
リンは剣を取り出して結晶に突き刺す。
結晶は塵となり消えた。アダルは刹那にして氷と一体化し、一瞬にしてこの世からいなくなった。
《・・・アダルは死…死んだ。ので、勝者はリンとアジュラだー!!》
リンは冷たく微笑んだ。
◆
「なるほど、負けた参加者はここに閉じ込められる。そして、地上へと出ようとする時に反逆者などの悪人とされてる者は殺される。
大会に参加した悪を一網打尽に殺す作戦ということでござるな。」
暗部はこの大会に隠された意図を知った。
「拙者、ワープホールを使えて助かったでござる!!」
暗部はワープを通って地下から抜けていった。
◆
二人の勇者が勝者の地下空間へとやって来た。
その内の一人は私に近づいて、冷たく睨む。その雰囲気が周りを凍てつかせる。
「何故、"女"なのにここにいるの?」
その一人は日野よりかは少し大人びて、背丈も高いように見える。
「女は男に"力"では勝てないし、戦いものの前線(主線)は男だ。キミはよくここに来れたよね?」
「私は強い。そんなもの関係ない────」
「そんなもの、勝手な理論だよ?残念だけどこの世界では個人の考えだけじゃ、そんな理論通らないよ?」
彼の小さな声は冷たかった。
「なら、優勝して証明してあげる────」
「ついにトーナメント出場者が確定しました。休憩を挟んだ後、トーナメントを開始します。ルールは一対一の勝ち上がり戦です。」
そんな冷たい雰囲気の中に、頭の中に流れる声。
「最初の試合はカルト対ギルゴート……」
ギルゴートは急に動き出した。
「やっと出番だ!この任務は失敗出来ねぇ。勝たせて貰おうか!!」
「その言葉そっくりそのまま返すっすよ」
カルトとギルゴートは睨み合った。
「その後、次の試合は真金郎対リンです。」
リンはさっきの雰囲気とは打って変わって明るくなった。
「平民の代表かー。ボクは知ってるよ!キミがこの世界を発展させた隠れた偉人ってことも!!」
「どうして……それを?」
「ボクは尊敬してるよ。けど、残念だな。勝つのはボクだから……」
「勝負は終わるまで何が起きるか分からないものだぞ」
リンとマッキンローの会話は優しく包まれていた。
「そして、次にアジュラ対月華です。最後はベストールがシードとして勝ち上がります。」
私はアジュラを見る。
アジュラは一人で戦いのために身体を鳴らしていた。
────。──
時間が経った。
「さあ、試合を開始して下さい────」
「さあ、行ってくるっす!!」
試合をするためにカルトはフィールドへと足を運んだ。




