四、 生き物虐待はやめよう!!
2月までは溜め更新
私は魔王である───
実際には勇者を狩る理由付けとして魔王と偽っているだけであるが。
目的は勇者を殲滅し歪んだ正義を正すこと、と人と魔族が共に暮らす平和な世界を創り出すことを考えている。
そのためにまずは勇者狩りを実行すること。
私は一気に勇者を狩ることが出来るタイミングを見つけていた。場所は神宮城。ある祭典が丁度良いタイミングだった。
それに当たってやはり危険も伴う。その危険なものに小さな子どもを連れて行って大丈夫なのだろうか……。
私は魔王ではあるが心の底に残る優しさが邪魔をする。
「ねっ、いいでしょ?勇者狩りの仲間に入れさせてよ!!」
断っても断っても聞く耳を持たない子ども。優しく説得する私とカイル───。
どうしたらいいものか……。
◆
「くれぐれも死ぬなよ!」
私とカイルは荷物を纏め旅に出ようとしたら真金郎が優しく声をかけた。
「この町の秩序はオレに任せとけ!火入、好きにやってこい!!それと魔王、火入をよろしく頼むぞ!」
「勿論だ」
私達はその声に煽られ東に進む。
神宮城は西側に進めばすぐそこだ。
その先すぐにはこの世界の中心地へと辿り着く。
私達は踏み荒らされた土へと足を運んだ。
そして、少し歩いた所で小さな男の子が近づいてきた。近づくといなや衝撃的なことを言い出したのだ。
「ねえねえ、君達って勇者狩りやってるんでしょ?僕もその勇者狩りに参加させてよ!!」
短めで刺々な髪は普通の色だが、前頭の一筋だけ白色と橙色で染められているのが印象深い。
見た目も言動も子どもだ。
「小学生かな?坊や!!」
私は屈伸してその子どもの頭に手をやり、優しく頭を撫でた。
「小学生にはまだ早いなーー。それは、、、」
カイルはその子どもを返させようとした。
私もカイルに肩入れすることにした。
「そうだよ。だから……」
そう言うと、その子どもも切り返してきた。
「安心しなよ!僕は見た目は小学生でも中身は強いからさ!!君達と同じ転生者だしね。」
転生者────?
けれど、何故
「私達が転生者だと気付いたの?」
初対面なのにそのことがバレるとは……。
「そりゃあ、この世界に小学校なんてものはないし。小学生なんて言葉知るのなんて異世界から転生してきた者でしょ?」
そうだった……。この世界には小学校というものがない。学校なら中心地にはあるのだが、小学校となると存在しないのだ。
そうか一枚上手だったか────。
「邪魔にはならないからさ!ねっ、いいでしょ?勇者狩りの仲間に入れさせてよ!!」
私達は渋々仲間に引き入れることにした。
「僕は日野太陽。日属性で能力は太陽。武器は斧さ!!よろしくねっ!」
日属性──。私と同じ珍種属性を持つ者。
さらには転生者。
謎深い人物だなと感じた。
「私は魔王を名乗っている月華。月属性で能力は重力。武器は回転鉄具だ」
「俺は元鍛治職人の火入。火属性で能力は高温。武器はこの剣だ。」
フェンシングに使われる剣を見せる。
「それって神聖なる槍?」
「いや、そんな玄物じゃない!もっと代物だ。」
身内を知ることは戦う上で大事なことだ。情報を頭に入れながら駄弁って歩いた。
そして、私はこの二人と共に神宮城へと着いた。
「着いた──。神宮城!!」
巨城が聳え立つ下に町が栄える。
そこかしこ歩く人々は平和そうに歩いている。この平和は維持しなければならないものだが、私は一瞬でもその平和を壊そうとしている。
誰かを何かを傷つけて得られる平和より私は誰も気付けない平和を目指したい。
現実的じゃないのは分かっている。それでも理想は追い求めたい。魔族との共生は出来る。違法者は改正させられるはずだ、排除以外にも道はある。
「ねぇ、やるの?狩り───」
愉しそうに弾ませている日野。
「いや、まだよ。それに相応しい出来事があるから」
「出来事?」
「王の祭典を狙うの!!」
王の祭典はこの世界にたった一人の王がこの年も王を務めることを全人類に公言する場である。
その際に多くの勇者もこれに参加する。
そこが狙い目だった。
「けど、それだと七色の勇者の何名かも参加するじゃないか?」
「まあそうなるね……。それでも、やらなきゃいけないでしょ。そのために、時間も有触れる程たっぷりあるから。」
式典は結構先に行われる。
「その情報を集めに都市に行こうよ!」
そう提案して来たのは日野だった。
「そうだな。それと、装備や冒険商品を安く手に入れたいから都市を越した村に行って迂回してもまだ式典に余裕だな。」
カイルはこの企みに関して相当な準備のため都市を越すことも勧めてきた。
二人ともここに長居する気はないようだ。
「いいね!都市を越した所にある村と北にある村に行って、ここに戻ってこればいいもんね!」
「ああ、そうだな」
カイルの日野の話し合いで行先が決定してしまった。
取り敢えず、何があっても対応出来るように設けた暇なのでその案を切り捨てる必要もないが。
私達は神宮城を素通りし、神宮城と都市の間にある山に入っていった。
神宮城から都市へ行く方法は他にもあるがあまりにも通行客が多く、余計な体力を使うためこの山を通ることにした。
茂た草々、陽射しを遮る木々。
歩く度にザァザァと奏でる草木を踏み躙りながら進んでいく。
この山では昔、モンスターがよく現れる場所だったが、今となっては減少傾向にある。
さらに弱き者は楽したいがためこの山は登らない。
ここの草木は踏み躙られにくく野生化する一方だった。
◆
「ムカつくぜ!憂さ晴らしに魔族狩りに来たのに全然出てこないじゃねぇか」
「おっ、いたぜ!ゴブリンが」
「やっぱこの近くは雑魚しかいなくて最高だぜ!」
人型なのに人より小さく全身燻った緑。独特な雰囲気を持っている。
手には棍棒を持つが身震いして上手く扱えない。
ゴブリンだ────
及び腰のゴブリンに銀の剣が斜めに刺さる。斬られたゴブリンはその場から消えてしまった。一撃死だ。
一撃死とは耐久を遥かに越した威力で瀕死を通り越して死に至らせることだ。
「やっぱ、倒すなら雑魚に限るよな」
「ふっ、やっぱ一撃死はスッキリするぜ!」
勇者達は高笑いしながら、次の獲物を探していった。
一つ灯火は消えた。
それが消される理由はない。ただ、力を持つ者の勝手な振舞いが力無きものの蝋燭に水をかけたのだ。
間違いなくその横暴さは正義が作り出した虚映であった。
◆
魔族と人間の共生を目指すが……
私は魔族を殺すことはある程度寛容している。
野生的な魔族は人間よりも弱肉強食が激しい。強いものが生き残る摂理で、生死を懸けた争いも屡々。生き残るために殺すのは仕方ないことだ。
知性的な魔族同士では起こりにくいが、野生的な魔族は逆に起こりやすい。
人間は生きるために魔族を殺す。それは、自然の摂理通りである。
それを全うするのが勇者であった。
知性ある人間は生き残るために強き者に争いを委ねた。無駄な殺生はしない。ただ、最近は変わってきているが。
勇者は魔族よりも強い力を得てしまった。それが、無駄な殺生を生み出した。
……自らの強さを魅せるためか不必要な殺生を繰り返す者もいる。
それを行うのは密猟者やDQNなどの屬ではなく、正しいことを行うと思われている勇者が行っている。
悲しいかな──勇者は圧倒的な力を手に入れてしまったがために、権力が暴走してしまったのだ。
「あそこに誰かがいるぜ!」
私達は二人の勇者を見つけた。
何をしているのだろうか?冒険者の可能性も鑑みて先走る必要はないと感じ、遠くから監察することにした。
勇者の先にはスライムがいる。
この森で魔族は珍しい。なぜなら、魔族は人間によって狩られ減少し始めた。ある魔族は殺されて生命を落とし、ある魔族は都市から離れた場所へと逃れた。
ここは相当魔族が暮らしにくい場所である。だからこそ、ここで魔族を見つけること事態珍しいし、見つけても弱いモンスターだ。
「やっぱ気晴らしにスライムとかゴブリンとか狩るのは楽しいな!」
「ははっ、俺らは勇者だ!物怖じするが良い!やっぱ俺らは最高だな!ははは」
勇者は圧倒的な力でスライムを一撃死。
その腕は相当糧のある者の域に見えた。
何故弱い者を倒す必要があるのか?
生きるために経験値を手に入れるためにはもっと他の敵を倒せばいい。
勝手に現れたというよりも自ずから進んで戦いに行っている感じだ。何か訳でもあるのだろうか。
「ねぇねぇ、何やってるの?」
あれ?さっきまで私達の隣にいた日野が───いない。いつの間にか、勇者達に話しかけている。
「いやぁ、最近勇者ランクも上がらないしムカついてたんだよ!ほんとここは雑魚が出るから憂さ晴らしにはもってこいなんだ。やって見るか?武器は貸してやるから」
「武器は持ってるから大丈夫。お言葉に甘えて僕も君たちを憂さ晴らしに狩るね!!君たちを!」
笑顔に武器を取る日野。
斧を天高く掲げ、眼は二人の勇者を捉える。
「おいおいおい、危ないよ!少年!!ほら武器を置こうね……」
勇者の頭上に徐々に大きさを増す焰の塊。
「いや、これやばいだろ」
勇者達は逃げ腰になってその場から立ち去る───ことができず重力の餌食になっていた。
何となく私は彼らの動きを封じていた。
「うっそだろ、おい」
巨大な焔塊は私の重力と同じ範囲程大きなものになっていた。
愉しげに斧を強く握って斧を真下に振り落とした。それに応じた焔塊が真下に振り落ちていく。
「これが僕の技『 太 陽 焼 却 』だよ!」
地面に衝突する焰は勇者を巻き込み塊の周りを消滅させた。
勝手な理由で弱いものを虐めた罰を神が与えたのだ。
えげつない── ─
攻撃の痕跡を見てもえげつなさが分かる程だ。
木々も草木も勇者も一撃死で終わらしてしまったのだ。
「僕の弱点は攻撃を当てにくいこと。だから、敵の動きを封じれる月華と相性いいかもーー!」
何も無かったかのように話しかける日野。
何故か私のことをお母さんと呼ぶ日野。まだお母さん的な立ち位置ではないが、まあ小学生の無邪気な戯言だし何とも言えない。
そして、脅威の攻撃を見せた後、何事も無かったように無邪気に振る舞う日野を見て私は一瞬心の中でたじろく。
何か凄まじい者を拾ってしまった気がする。
「山を抜けるよーー!!っと、一番乗りぃ」
無邪気に駆け抜ける日野はまさに強さが桁違いだった。敵に回したくないな。
「見たかったんだよねー。僕の武器。新しい斧が欲しかったんだよねー」
「まあ普通は武器用の斧なんてもの売ってないしな。だが、都市にもあるかどうか分からないぞ……斧は」
「もしなかったらさ、"お父さん"!!」
日野は何故かカイルのことを"お父さん"と呼ぶ。
取り敢えず、私のことをお母さんと呼ぶのだからカイルのことをお父さんと呼ぶのは妥当ではある。
「僕用の武器を作ってよ!」
「いいぜ!飛びっきりの作ってやる」
「やったー」
見た目と言動は子ども強さは大人以上。何処かの名探偵のような感じに思えてくる。まあジャンルが違うけれども。
薄暗く静かな森を抜けた。
暗い時間も明るく、明るい時間は眩い。人の波は止まらずに一日中動き続ける。
まるで森とは対称的な場所だ。
ここは夜も眠らないフィロソフィスの中心地。
王の寝床。勇者のトップが構える地。若者の町。最新の物が並ぶ。魔族はそこに寄り付かない。
その都市を人々は
────悪の滅ぶ町
と呼んでいる。
全ては七色の勇者の存在の下、この町で争いを起こす者はいない。
七色の勇者は良くも悪くも恐怖で平和を保つ正義の使者なのである。
「土瑠亜さんって七色の勇者だったんですね──」
「ああ、王の式典の王を守る者も務める。だから掃討作戦は参加出来ない。お前にはそっちの方を頼む!」
「任せて下さい。」
暗闇に潜む会話は闇夜に消えた───────
(いろんなストーリーで)主人公の仲間って個性的なの多くなるので良いですよね。
・雑魚が多くて→雑魚しかいなくて
誤字等報告、改善点など有難く受け止めます。是非あればお願いします。返信の方もキチッと返したいと思ってます。




