三、 フェンシングに使われるあの棒を武器にするはやめようよ!!
Q、サブタイトルは巫山戯てますか?
A、巫山戯てます!あ、いや、やっぱりお答えできません。
Q、この世界観の舞台は何かをモデルにしてますか?
A、お答え出来ません。半分みたいな……
水樹奈々は燃え盛る鋭い劔を人に向けた。
断絶する烈火の斬撃が対象を消失させた。燃えた跡だけ残る。
数え切れない程の同種族がいる中でその生命はたった一つでしかない。だけど、その中に沢山の思い出が詰まっていた。
親に愛され、友達に恵まれ、時に泣きたくなる夜もある。そして、不条理に当たることもある。沢山の記憶が蓄積されていた。そんな思い出はいとも容易くこの世から消えてしまう。
たった一筋の一振りで……生命は消えた。
「正義の執行だ────」
その正義に弱き者は何も言えない。
恐怖で彼らを支配する。この世は弱肉強食の摂理で出来ている。それはいつの日も変わらない事実だ。
強い者の定める価値観こそが「正義」なのだ。
弱い者は強い者に従う。効率よく従わせるために、弱い者にも利点がある価値観を選ぶが、根本は揺らがない。
強い者に利益が出ない正義などはない。それが現実だった。
強さを証明するには正義に反するものを従わせればいい。そのための、力の行使──
「そこの女も同罪として死して貰おう」
彼女は再び燃え盛る劔を人に向ける。
この世界の正義は……勇者の秩序なのだ。
異世界最強の烈火は突如襲いかかる重力に邪魔された。
「外したか……」
死にかけの女は水樹を睨む。
村は焼失。大切な友は消失。残されたのは……
「だが、、、逃しはしない」
重力の能力がその場を制す。水樹の攻撃は不発に終わる。
その重力が奪われし者を逃した。
────。─
悲劇を抱えし女は真の正義のために……この世界の正義から外れた。
「私に力があれば───────っ!!」
悔やまれる感情を下唇を噛みながら押し殺す。
ヒナは天国から見てくれてるかな。
私は今回転鉄具を使いこなすため、木材のブーメランで練習しています。
◆
私は玩具のブーメランを持った手首を内側に向ける。そして、外側にスナップして手から離すと見事に空中をきっていく。
ブーメランは勢いを保ちながら方向を少しずつ転換していく。
私の元へと向かうブーメラン。二方向に広がる突起を私は見事に捕まえた。
「木材玩具はバッチリだ。後は回転鉄具だな!」
私はにはやるべき課題が他にもあった。
私はその課題に取り組むため、念を押して貸してもらったカイルの通信機器を手に持つ。この世界では通信機器は超がつくほど贅沢品のようだ。それを知るとカイルは結構な金持ちなのだろうか、と疑問が湧いてくる。
それは置いといて、課題に挑む。
手軽にそして一気に勇者達を集める方法があった。
ニヤリ──
私は他人には見せられない嫌らしい表情をして、悪らしい最悪の方法を行おうとしていた。
◆
「エスオーエスはここら辺だなぁっ、て何故お前らがいる」
ライバルの勇者一行がいることに驚く勇者。さらに、他のライバルが来てギョっとする。
「皆呼ばれたのかよ───」
「いや、パロー達以外な……。あいつパッと死んだらしいぜ」
「聞いた。それよりも恐いな、今回の件はパローを殺す程の実力者から助けてくれ……みたいなものなのかな」
「だから、皆集まったんじゃねぇか。」
そこには勇者っぽい服装の三人とその仲間と見られる者が八人。
『 圧 死──── 』
突如彼らを襲う身体の負荷。そして、その負荷で彼らは地面に這いつくばった。段々と負傷していく。
「くっ、何が起きたんだ……」
彼らに近づく一人の影────
可愛らしい見た目をしている女の人だった。
「ごめんなさい、これは罠。あなた達には死んで貰うわ!」
その日、竜宮町の勇者は全滅した。
「課題を一つ完了した……。っと」
その女の人は軽々とその場を去った。
「恐ェ……」
路地裏で眺めていた悪人が恐怖を感じて身震いしてしまう程だった。
◆
溶けた鉄を金槌で叩いていく。
そして、原型を失った鉄が新しい姿を手に入れた。
三方向に拡がる刃。風を過ように計算された体。緩やかで鋭い刃物。手裏剣から参考にされた形。
まさに最高の回転鉄具が完成した。
カイルは私に会うといなや私用の武器を見せてくれた。
「ありがとう。」
凄すぎて感謝が出てくる。
回転鉄具で良かったと思える程の出来だ。「凄い」の一言に尽きる。
まさか手裏剣みたいな形とは!?とは言え、投げた後に戻ってこればそれは手裏剣ではなくブーメランだ。
カイルは話を変えてきた。
「条件は幾つクリアした?」
自慢げになって心の中で浮かれた。軽くなった口を開く。
「この町の勇者は全滅させたよ。後は本番と説得だけだ」
「そうか……」
町の勇者は電話で全ての勇者を助けで呼び、皆が一つに集まった所を一網打尽にしていた感じた。
その際に感じたことがある。勇者の利益を巡る同業者同士の争いはまさに勇者の落ち度を示しているように見えた。
やはり、この役目は全うしなければと自分を後押ししてくれた。
「おー、コイツがお前の作った武器を託す奴か─。ふーん、こんな女の子にねぇ……」
ガタイのよいアラフォーのおじさんがやって来た。カイルの師匠だ。
「おっ、師匠か。こう見えて強いぜ」
「勇者に憧れた者か?」
「言い難いんだけどさ……」
「何だ?」
カイルは言い難そう口を縫い話を止める。
このままじゃ、埒が明かないと思い私から切り出すことにした。
「私は勇者に憧れる者じゃなく、勇者を狩る魔王よ。私は勇者狩りのお供にカイルを連れていきたいの?連れてってもいい?無理でも連れ出す気だけど……」
もう仲間にするのは決まりだ。
口走ってしまったしもう"決まり"で変更はない。
「そうか。じゃあ、勝負しよう……。オレと火入アンド可愛げな少女でな……」
「俺もか?」
カイルが驚いたように聞いた。
「そうだ。火入が連れ出されるのに臆病者で足引っ張ったらいけねぇだろ?オレはそれを含め試してやるよ。女よ、連れ出したかったら受けろよ!」
「ええ、受けて立つわ!」
「二時間後、海岸前でな……。武器を持ってこいよ」
カイルの師匠は私達に背中を向け、去っていった。その姿は何とも逞しく見えた。
「俺には拒否権なしかよ」
ボソッ、と呟くカイル。
そうだ、カイルには拒否権はない。私が強く決めたのだから。
取り残された二人は暑い蒸し風呂のような場所で駄弁っていた。
「そういや、カイルは何の武器使うの?」
私の一言を機にカイルは武器を取りに行った。
カイルが持ち帰ってきたのは、、、
細長く伸びた棒のようなもの。
剣のように握る場所と剣と取手を遮るガードがある。銀に輝くその鉄に斬れるようになっていない丸みを帯びたもの。
「《フェンシング》で見たような武器だね……」
「そうだ、フェンシングの剣だ!!」
「え…えぇぇぇ、フェンシングに使われるその棒を武器に使うのはやめようよ!!!真面目に誰かと戦っていくつもりあるの?」
いや、回転鉄具も大概だがフェンシングのも異常だ。
「ある!至って真面目な武器だろ?」
殺傷する部分のない武器を真面目な武器とはいいません。
◆
太陽は自身の輝きをオレンジ色に変える。
その淡い光が私達を照らしている。優しい光に打たれながら私は武器を握った。
「ルールは太陽が完全に沈むまでにオレを瀕死、白旗にさせたらお前らの勝ちだ。だが、太陽が完全に沈んだ場合、お前らのどちらかが瀕死もしくは白旗となった場合、オレの勝ちだ。」
「準備はいいか?」
「勿論────」
「本気で行くぜ、師匠」
身体の中の空気を抜いた。そして、息を吸う。
「勝負開始だ!!」
その合図を機に勝負が始まった。何としても勝って仲間は手に入れる。
カイルはコンクリートを力強く蹴る。
その勢いで真金郎との間合いを詰めた。そして、細長い剣を構えた。
真金郎も負けずに広い手から手から鉄棒を出した。その鉄棒と細長い剣が火花を散らしながら微動だにしない。
パワーは互角───
真金郎は金(光)属性で能力は『鉄製品召喚』。全てが鉄で出来たものなら何でも体から取り出せる。無類の召喚士兼多様種武器使いだ。
一方、カイルは火属性で能力は『高温』。触れたものを対象に熱さを変化させる。また、持つものを溶かしたり逆に高温でも溶けなくしたりすることが出来る。
真金郎は巨大な盾を繰り出した。
カイルの必死な攻撃は盾に守られる。
私の出番はまだだ。今攻撃したらカイルにまで負傷させてしまうからだ。私は出番を伺った。
カイルは身を引きながら一筋の矢を放つように剣を弾く。そして、弾力で勢いよく腕を伸ばした。鋭く穿つ攻撃が盾に向かう。
『 針 突 穿 槍 』
高温の剣は鉄の盾を貫いた。
火は金(光)との相性が良い。今回の場合は鉄のような金を火は溶かすことが出来るからだとも言える。
「師匠は一つ上手だな……」
真金郎は攻撃を跳んで躱していた。足にはバネがついていた。つまり、バネを繰り出して空に跳んでいたのだ。
私も想像していなかった。
真金郎はハンマーを繰り出した。落ちる時の勢いを利用して一気に負傷させるつもりだろう。
そんなことはさせない。
重力で真金郎を地に戻した。
「何っ────────ッ。」
一瞬で地面に着いてハンマーを振り落とさせなかった。
真金郎は驚きながらも戦闘への集中力は変わらない。
『 前 翔 懺 撃 』
前へと乗り込みながら攻撃を穿つ。
真金郎も負けず劣らず繰り出した槍でいなす。
そこから、槍で薙ぐ。槍はカイルを捉えていた。
『 後 退 回 避 』
後ろに跳んで回避する。
カイルは真金郎との距離をあけた。
今だ──
私は手首をスナップし武器を投げる。
ブーメランは真金郎に向かって飛んでいく。まさに合格点の出来である。
だが相手も負けてなかった。落ちたハンマーを手に取り、下から上へと大きく振りかぶりブーメランを宙に舞いあげた。
シメタ────────ッ。
『 武器重力変動 ──── 』
宙に漂うブーメランは真下へと勢いよく回転していった。勢いよく真金郎を斬り裂き連続ヒット。やっと負傷を与えられた。
重力の方向を切り替えし、ブーメランは私の手元に戻ってきた。
私の能力による技の一つ。武器に対して重力の方向を変えたり、その重力の強さを変えたり出来る。
ただし、小さなものではないと失敗する。特に、ハンマーなどは論外だ。
「面白い能力だな……。そんな強さを持って何故勇者を殺す?」
「歪んだ正義を正すためよ。変えるためには一度その正義路線から離れないといけないから……。」
「間違った正義か……。オレもそれにはうんざりだな。」
「私は勇者の正義によって村も友達も失った。私ももうあの悲劇を起こさせたくない」
「もしかして、グリーンスケートの生き残りか─」
「えぇ」
そう、私には勇者を怨む理由がある。ただ、怨み以外にも何かの目的があったような気がするが怨みに潰された私はそのことを忘れていた。
刹那、カイルの剣が真金郎を捉える。
私と話しているからだ。そんな油断しているからカイルが背後へと来ても気付かない。
それにつられ私も真金郎との間合いを詰め王手をかけた。
もう逃げ場も逃げの一手もない。
「白旗った!」
真金郎の一言で、私達は武器を下ろした。
そして、疲れたように座り出した。
「油断した。オレの負けだ。約束通り連れてっていいぜ!オレの能力は役に立つぜ!」
「ん?えっ───?」
あれ?カイルを連れて行くって話で、真金郎を連れていく予定はなかったんだけど。
「それは困るな。師匠が抜けられるとこの町の製鉄屋が潰れる。それだけはやめておいてくれ!」
「うん、そう言うことかな」
真金郎も仲間となると余計に暑苦しくなりし私的には不快になりそうだから、仲間になれない理由があってホッとした。
「そうか、分かった。火入よ!確り守れよ!!」
私に仲間が増えた。
「カイル────」
私はカイルに呼びかけた。
「どうした?」
「よろしくっ!!」
夕暮れは沈みその日に終わりを告げた。
◆
大人の男女がおじさんと戦う。
油断したのか動きが鈍ったおじさんを二人は武器を間近くへと持っていき勝利を確信した。
工場の屋根からその姿を眺めていた。
小さな少年は足をばたつかせながらその勝負の行方を楽しんでいた。
「勇者狩りか───楽しそうだね。僕も仲間に入れて貰おうっかなぁ」
月火水木金土日が名前についているキャラは転生者です。
基本的にその名通りの属性ですが、水がつく転生者だけは火属性というトラップが……
・一部修正しました




