一、 それは勇者じゃなくて族というものだ!!
読んでくれてありがとうございます。
王道的なのにどこか癖のある小説として、出来るだけ楽しませたいと思ってます。よろしくお願いします。
「ステータスはネ、こうやって見るんだよォ」
フィロソフィスでの友達であるヒナはそう言うと、頭に手を置いて目を閉じた。
私も真似して頭に手を置く。
「そうしてこう唱えるノ。『ステータス確認』ってネ」
「分かった!『ステータス確認』っ!!」
頭の中にふと現れる不思議な表。
その表こそがステータスの書かれたものだった。
月華
月属性ー重力
レベル : 45
ライフ : 270
アタック : 78
アビリティ : 99
ガード : 46
「属性は何だっター?」
「"月"っていうのだったよ」
「えっ、嘘ー!まじーー?すごーーーイ!!」
そんなに凄いものなのだろうか。
そもそも属性と言われたら火水木は思い浮かぶが、月と言われても全く想像がつかない。
「"月"って何なの?」
「属性ってね、基本属性と呼ばれる火水木金(光)土(闇)が普通なんだけどネ」
「うん───」
「基本属性の五つの他に珍種属性と呼ばれる日月の二つがあるノー!」
「ち……珍種?」
珍種って名付けられているのが私の属性の種類なんて、何か嫌だな。
「そう、その二つの属性を持つのはね、何万人に一人とか言われてるんだヨーー」
転生したお陰か私は珍しい力を手に入れたらしい。
「じゃあ弱点も得意属性も両方とも日だから分かりやすいネ」
「そうなんだ……」
属性には弱点とその真逆である得意属性が存在する。
私はその弱点も得意属性も一つしかないお陰で、特別な時間を割く必要がなくなった。
「次は"特殊能力"の練習をしましョー!」
「は、早くない?」
「だってェ、属性についてなんかやってないも当然だもン!」
そうして、私はこの世界で生き抜く力を身につけていった。
───。─
懐かしいな───
あの頃の記憶が甦る。
囁かな風に飛ばされた緑黄の葉っぱが私の頬にくっついた。
普通だったらぶつかるだけでくっつく筈がない。私は知らずに涙を流していたことに気付いた。
「ヒナちゃん……私が仇を取ってくるから」
私の心は怒りの憎しみで満たされていた。
◆
土は固く平に広がる。家の造りはどこか中世を思い出させるような簡易で丈夫な住まいだ。
活性はしておらず、和やかな集合地域であると言える。
私は森を抜け、下町に出た。
ここは"ノウンマルタス"という人気も少なめの町。
私は羽休めのためにこの町にお邪魔になろうと考えた。
私の目指す目的地は"神宮城"という城。
城下町が発展し人々がよく集まる。その分、勇者の数も比較的多い。
そして、勇者連合が存在する。
この世界には三つ、勇者の集中する組織がある。そこを私は落とそうと考えている。
まずは神宮城だ───────
考えただけでも、骨が折れそうだ。
今のうちに骨の状態を最高に整えなければ、私はいとも簡単に殺られてしまう。
そうなれば、私の目的は達成されない。
「まずは一休み──────っ、と。」
私はノウンマルタスにある酒場へと入っていった。
◆
そこの酒場はウエスタンのような店内だ。
私はカウンターに佇むと適当に気休め程度の軽い酒を頼んだ。
誰かを誘惑する服装でもないし、自慢出来る程美しくない。胸の辺りまで伸びた長い金髪を持つが、最近多くの男性は黒髪の方を好むことを知り衝撃を受けた。
私には大人の美しさよりも子どもっぽい可愛さの印象が似合う。
さらには、紫を貴重とした服装に黒無地のマントを羽織っている。まさに、地味と言っても過言ではない。
私のことを誘う者は余程の物好きだろう────
酒場の店主が声をかけてきた。
「お一人さんかい?」
「ええ」
「ほう、何の御用があるんか?」
「聴かない方がいいと思うわ」
私は心なしに答えた。
勇者を狩りに来たなんて言ったらどんな反応を示すのか、それは気になるが面倒な事態を招かれる可能性もあるため隠すことにした。
私は酒場の店主と軽く話を交える。
その途中で歪んだ正義を持つ勇者の話を聴くことが出来た。
「この町じゃ、カクゼンという勇者が縄張りを張っている」
縄張りを張る……
もはや勇者のやることではない。
「勇者はな、この町を護る引換に格安の待遇を得た。ワシらは勇者達を優遇しなければならない。まあ、こんな小さな町を護ってくれてるだけでも有難いと思わなければな」
「そうなんだな」
「ワシらは損をし続けていても逆らえないのだよ」
「勇者って兵隊と同じで物を生産することをしないで破壊し続けるだけ……。そんな勇者がこの町の人に迷惑をかけているようだな」
「それ以上は言うなよ」
店主は抑揚のない声で発した。どこか恐怖を感じているようだった。
「「「ここの勇者は「悪い」人達だな!!」」」
私がそのように発すると酒場の雰囲気は一瞬にして凍ってしまった。
発してはいけない言葉だったのだろうか。
「それ以上言うな…と言っただろうが……」
店主は苦渋の表情をしながら怒鳴る。
「勇者らの悪口を言うのはこの町では禁止されているんだ。破れば重い罰が課せられる。」
良くある型ではあるが、それを行うのが勇者なのはあまりにも滑稽である。
普通、悪人の噛ませがやることでしょ──────!?
「まっ、良いじゃん。だって仮面の正義が作った悪法なんて守る必要ないですよ~!!」
酔っていたのか私は軽々しく答えた。
まあ魔王と偽る私が勇者に肩入れする気は相当ないけど。
ほろ酔い気分で私は浮かれていた。
周りの背筋が凍っている雰囲気とは対称的である。
バタン───
酒場の入口が乱雑に開かれた。
「法に触れたのは何処のどいつだ?」
明らかに"勇者"である格好をしている男。青に染まる鉄服に在り来りな剣、アクセントの金色が見える。
「まさに、勇者に憧れて真似してみたって感じ……」
この世界では勇者に憧れないものは少ない。
勇者になるには特別な知識が必要な訳でもない。人に敵対しない者で魔族と対等に戦える程強い者であれば誰でもなれる。
彼もその一人だろう。
理想を手にして表面上の幸せにどっぷり浸かり、本物の正義を直視しようとはしない。
私は「もうこの世界に何かを奪う正義は必要ない」と思っている。それだけ、平和なのだ。
「破ったのはワシ一人だよ!オヌシはワシらの町で物を独占して安く買い取り、他の地域に高く売っている。それだけで、証明は足りるか?」
店主は私を庇おうと横槍を入れた。
その話を聞くに、彼は憧れでなった勇者ではなさそうだ。
そう彼は、正義の秩序に身を隠し悪の道を巧妙に行う非人道者だ。
最初の勇者狩りの相手には丁度良さそうだ。
「店主よ!君は《法を犯した者を庇った罪》と《悪口を言った罪》として、三日この町を"全裸で走り続ける罪"に課す!」
S H O U M O N A ────ッ!!
取り敢えず免罪の余地はありそうだが、私はそんなに甘くない。
なぜなら私は魔王だから……。
「それと、そこの女!君は丸一日"全裸で走り続ける罪"に課す」
そんな法を守るつもりは毛頭ない。
「却下──」
「勇者に楯突くか……。こんな小さな町でも護っているこの勇者達に!!」
「ええ、二つ言わせて──────」
「ほう、何だ?」
「一、私はこの町の者ではない」
「郷に入っては郷に従え……だ。そんな理由では全裸は免れないぞ!それでは、二つ目の言い分を聞かせて貰おうか」
「私は勇者を狩る魔王よ!!」
私の目は彼を鋭く捉えた。
「何を言うと思えば……」
彼は高笑いする。馬鹿げてると言いたげな目で私を蔑む。
軽くだが酔っているのは認める。
しかし、酔っているから出た言葉というより、私の信念から出た言葉だ。
ほろ酔いでは戦闘に支障はない。……少なくとも私は。
「やってみろよ!強さの違いと、法に抗う悪は必ず負けるということを教えてやんよ」
あまりにも噛ませ的な言動を繰り返すため、私は内心自分が負けることなど想像出来ない。
「ここじゃ、場所が悪いわ!外でやりましょう。仲間も呼んでいいよ──────」
自信げに私は条件を提示した。
彼はその条件を飲んだみたいで「待ってる!」と一言残して酒場から退去した。
「すまんが、大丈夫なのかい?死ぬかもしれんのだぞ」
店主は私のことを心配している。
だが、全く心配することではない。余裕だ、戦わずして分かる。
「任せて!」
私は背中で店主に悟らせた。
◆
乾いた風が一枚二枚の凩を飛ばす。
まさにガンマンの舞台のようだ。茶色に色染まる景色が戦闘意欲を湧かしていく。
囁かな空風が酔いを覚ました。
「ほう、度胸はあるじゃねぇか」
勇者カクゼンは上から物を言う。
「裸になるのよりも死を選ぶなんて面白いね」
「銃で撃たせて貰う。今から謝ろう、殺してすまない」
カクゼンの後ろには、杖を持った魔法使いの服装をした女性とガンマンのような服装と銃を持つ男性が立っていた。
「無理矢理裸にさせようとする変態さん───そんなに女の裸が視たいの?いや、男の裸にも興味があるんだっけ?だって、性別関係なしに裸で走らせるとか……。もしかして、バイ!?」
軽い挑発を行う。
その言葉に意味は無い。
「無駄口はおしまいだ!」
私の気分に水を指す。
「や!れ!!」
カクゼンはその二つ言を呟く。
その合図を機に背後にいた仲間は飛び攻撃で私を攻撃してきた。
銃弾と稲妻だ────
「あたし金(光)属性で特殊能力の"稲妻"を授けられているの。この攻撃で終わらす」
杖から一筋に進む電撃が私を貫こうと進む。
「フッ、殺すのなんて一発で充分だ」
銃弾は私の急所に向かって進む。
ガンマンのような者は撃った銃を上に向け、銃口から出る煙を口で吹く。格好良くポーズを決めていた。
そんな攻撃……
私には通じない。
『重 力 ───』
私の周りに負荷がかかる。
私から半径何メートルかに見えない重みが現れた。地面に出来た重みで凹んだ円形。
その円形の内側は私の繰り出した強い重力が襲っている。
ただし、私自身能力を受けない。
私の領域に入った魔法や銃弾は進路を真下に変動した。
「あたしの稲妻が落ちた……」
「ホワッ???」
相手は驚きを隠せないようだった。
特に、カッコつけをしたのに攻撃が通じなかったガンマンっぽい奴はとても滑稽だ。
とても面白い。
「なら、直に成敗してやるよ!」
カクゼンは剣を横に掲げ私に突撃する。
剣を真横に振り切って攻撃しようと考えているのだろう。
「まっ、無理だと思うけど……」
彼が領域に入ると動かなくなった。上からかかる重みが足を身体に大きな負荷を与える。
だが、それだけでは終わらせない。
『 圧 死 ────』
先程よりも重い重力をかける。
カクゼンは堪らず四肢を含めた身体を地面に這う。
この領域にいる者は負傷を受ける。
動けないのに負傷していく。まさに恵まれた能力である。その能力に捕らわれたカクゼンに残された選択肢は……。
私は地面を這うカクゼンを見下した。
カクゼンは何か言おうとしたが、口が重みに耐えられず言葉を発することが出来ない。
この世界では、剣で斬られても鮮血は出ないし、モノとモノの間に潰されても死なない者もいる。
この世界にいる者は全て命の数字が存在し、その数字が零になれば瀕死に、さらに負傷すれば"死"ぬ。
負傷を重ねたカクゼンは気を失った。だけど、私は能力を止める気はない。
少し経つと彼はパッ消えてしまった。
この世界では死ぬことは消失、消滅することだ。死体は残らない。
カクゼンは私の手によって死んだ。
私は人の道を外した。
私はこの瞬間から悪人だ。
もう戻ろうと思っても戻れない。
「カクゼンさん……。」
涙を浮かべる魔法使い。
「くっ、許すまじ」
私を憎むカウボーイっぽい者。
残されし仲間の一人は畏妬、恐怖、諦めによって戦闘意欲を失い、もう一人は怒り、憎しみを抱き銃を向ける。
私にはもう躊躇いがない。
殺すのに躊躇しない。私はもう悪人なのだから──
私の能力は自身の周りのみを対象にするだけではない。少し離れた位置にも重力の円形を展開することが出来る。
ただ、場所が遠くなるにつれ、円形の範囲が大きくなるにつれ時間と容量がかかる。さらに、自分を守ることもままならなくなる。
タイミングと駆け引きが重要だ。
「死ねぇっ!!」
銃弾が放たれる。
私は自分の周りに能力を展開しその銃弾を落とす。重力の防御はそんな玩具では破られない。
私は身体に力を入れて攻撃を定める。
『 重 力──── 』
私の領域が二人を捉える。これで、敵の動きを封じた。
『 圧 死──── 』
さらに追い討ちをかけた。
何も出来ずに藻掻くことも出来ないまま、死にゆく自分を連想する二人。
重力のせいか涙が素早く落ちていく。
涙が零れ落ちてから束の間、涙は消える。命の灯火も消える。存在も───消える。
「だから言ったのよ。私は魔王だって……」
「まあ少しの敬意で謝っておくわ、殺してごめんなさいね」
歪んだ正義を壊すためには時に正義を捨てなければならない。
そんなことをやる者は殆どいない。誰も自分を地に堕としてまで世界のために働く善人は少ない。いや、善人ではないか。
私は自分を地に堕としたんだ。
ここからは、特急列車だ。
「殺ったんだな」
酒場の店主が背後から声をかけてきた。
「そうよ、私は魔王だからね。あなたも立ち向かうのなら容赦しないよ!!」
私は脅しを入れた。
しかし、返ってきた応えは予想外なことだった。
「この町のためになったよ。ありがとな!」
優しく感謝を伝えられた。それだけ、偽善者の悪政がこの町の人々を苦しめていたということか。
「何故魔王と名乗るんだ?世界のためだろうが、何故オヌシなのか。他にもいるだろ」
「そうやって"誰かがやるから自分はやらない"って考えていると結局誰もやらないから。私には勇者に怨みがあるし、私こそがやるべきなのかなって……」
「そうか──。勇者を敵に回すなら合わせたい奴がいる」
「誰───?」
店主は口を綻ばせながら言った。
「隣町の製鉄屋の「カイル」という奴だ。」
「ワシの同級生でよ、何とも奴は《転生者》なんだ。何か新たな知識を得られると思う!」
転生者───。
とても気になる。私と同じ転生者か……
「訪ねてみるわ」
「それと、アグレの恩人と言っときゃ何とかなるだろう。後、"アグレは元気に酒場やってるよ"って伝えといてくれ」
「了解」
カイル─────
どんな人なんだろうか。
属性についてはまたどこかでおさらいと詳しい説明を加えます。
・説明を二つ加えました。




