十九、 VS 土瑠亜
ついに神宮城編完結!?
蒼く、そして暗黒く。落ち着いた雰囲気の日野は敵二人を捉える。
「覚悟はいーーい?」
「返り討ちにしてやる!!」
『風魔法 : 風龍』
風によって作られた龍の化身が日野目掛けて飛んでいく。その龍は炎の熱波によって相殺された。
「魅せてくれよ。その素早さを!!」
瞬間移動するゲイル。それに反応し距離を取る日野。お互いに目に見えないスピードで場所を移動しながらぶつかり合う。
最初に目に見えるようになったのはゲイルだった。ゲイルの手には壊れた二つの小刀が見える。
「俺の十八番のはずの素早さでも勝てないとはな」
「普通はこれだけで死んでるけど、瀕死にすらなってないことは凄いよ!それなりに実力があるのは認めてあげるよ!!」
ベティの目は日野を捉えていた。
『風魔法: 鎌鼬』
斬撃が日野に向かうが、それを難なく躱す。いつの間にか攻撃は止み、眼前の懐へと入られた。
速い────────
「終わりだね!!」
右殴りが腹に命中する。貫通したのか知らないが、背中から大きな爆炎が飛び出ていく。
一撃死だったのか、太陽の熱で溶けて消えてしまったのか……
ベティはもうそこにはいなかった。
「ベティ……。壊ぇな…。逃げるしか道がねぇじゃんか」
「残念だけど、逃しはしないよ」
お互いに瞬間移動をする。だが、ゲイルは自らの力を振り絞り、さらに高い素早さを繰り出した。
「あーあ、逃がしちゃった。」
黒の身体は段々と肌色へと戻っていく。いつしかそこにはいつも通りの日野へと戻っていた。
日野は静寂の風景を軽く眺めた。
◇
剣と剣がぶつかり合う。
土瑠亜の方が攻撃力が高く、カルトの剣を越していく。
「強化は光灯で何とか出来るのに、普通に強化なしで押されているとか……」
「真面目にやってこなかったツケが回ってきたのではないか?」
「いや、前から班長と戦っても勝てないことぐらい知ってるから、あんま関係ないと思うっすよ」
「そうか。けど、懐かしいな……。お前と剣を交じりあった昔の旅がな」
「いや、剣を交じりあったことありましたっけ!!」
──
───
────
異世界転生。
転生したからといって、特段何かやりたいことがある訳ではなかった。
俺はこの世界で強化と能力無効化を持っている。
だが、強化なんて個性のない能力だと周りから思われた。能力無効化なんてのも特段個性を感じさせるものでもなかった。
それも転生したばかりの俺はその能力を使いこなせずにいたから、そんなに強い能力とも思えなかった。
「冒険者になってみないか?」
町で言われたその一言で俺は冒険者となった。
俺を殺しにかかる魔族を倒し、このフィロソフィスを巡っていく。
俺は旅で強さを得ていった、それと仲間も──
「俺は盗賊だぜ?途中で身包み剥がして逃げるかもしれないんだぞ!?」
「いい、俺は強いから」
転生者のため地形に疎い俺はたまたま出会ったゲイルと言う盗賊に道案内を頼んだ。
「強ぇな……。能力が二つあることってこの世界でお前一人だけだぜ!それに、その中の一つは属性の分からないやつだしな」
「そうなのか。知らなかった」
「凄いな。自分の強さに気付いていないなんてな。」
俺は旅をして恵まれた能力を持っていたことに気付く。いつしか俺とゲイルは仲が良くなり、共に旅をする仲となった。
「勇者にならないか?」
旅をしていく内に俺らの強さが認められ勇者になった。
組合内で冒険者だったが、そこから勇者へとなった。
そしてすぐに勇者となるのと同時にベティという魔法使いが仲間に入った。
「勇者に魔法使いは必要でしょ?」
さらに、見習い勇者のカルトも仲間に入ってきた。ただ、落ちこぼれ勇者という問題点もあったが。
「いやー、よろしくっす!気軽にカルトって呼んで欲しいっすわ」
四人で勇者として魔族を斃すこと何年か、新たな仲間であるヌアゴスが加入した。
「賢者として役に立たせて貰おうかのう」
五人で勇者として活躍した。
いつしか名を馳せるようにもなった。
能力無効化で険しい敵も弱くして、一対一なら俺やゲイルが倒せる。ゲイルのスピードとパワーで速い敵をも翻弄。魔法や光灯での援助。雑魚が多い時はヌアゴスが一気に終わらしてくれる。
まさに、最高の仲間だった。
ある日、俺だけ王に呼ばれた。
「貴方殿を藍色の勇者に任命しよう」
そして、俺は王直々に仕える勇者として、最高位の称号を手に入れた。
旅も終わり、王に仕えていく日々。
いつしか仲間同士の集まりも悪くなり、任務も集まる集合をかけても全員が集まることは少なかった。
ある日、王の式典のため、俺は作戦に同行出来ない任務があった。
その任務で仲間のヌアゴスは死んだらしい。さらに、カルトが裏切ったと聞いた。
どこから歯車の螺が狂い始めたのだろうか?
俺は今、魔王と名乗る者達との勝負をしている。現在の敵はカルトだ。
懐かしいな───
懐かしき日々が蘇る。そう言えば、振り返ってもカルトと剣を交えたこと思い出せないな。多分、俺の気の所為だ。
刃の衝突も終わりを告げる───
「終わりだ!!!」
横なぶりに払う剣と縦に振られた剣が重なる。
剣の先から取ってより上の部分だけが宙を舞う。その部分は大きく弧を描き落下した。そして、地面に転がっていく。
「終わりだな……」
カルトの持つ剣は先が折れ使い物にならなくなっていた。
「いや、終っすよ────。ウチには月華ちゃんがいるんで」
カルトは手に持つ剣を後ろに頬り投げた。
「何故、お前は魔王につく?」
土瑠亜はカルトに問う。
「一言で言えば月華ちゃんのことが《好き》だからっす!」
「そんな理由でつくのか?」
「そうっす。ウチは月華ちゃんじゃなきゃ駄目なんすよ」
「どうしてだ?魔王の何がいいのか?」
「人って自分にはないものを持つ人が好きになりやすいと思うんすよ。月華ちゃんはウチにないものを持っている。ウチにはない一つの目標を達成するための努力と自分よりも仲間を大切にする優しさと……そして、、、」
「諦めない心っす!!」
「諦めない心か。確かにお前はなさそうだな。」
土瑠亜の背中に刺さる回転鉄具。
「何っ!!?」
◇
重い───
瞳にはカルトが必死に戦っている姿が見える。
私が不甲斐ないばかりにカルトが危険に立たされている。そして、カルトの武器は破れ使えなくなった。
真っ黒な世界で漂う私の前にふと現れる眩い光。藻掻けば辛い。藻掻かなければ辛くない。だけど、藻掻いて光を掴まないと大切な仲間を失いそうで恐い。
今楽すれば後で辛くなる。
分かってる。けど、辛すぎて───────
<<もう二度と失わないって……誓って!!!>>
記憶の奥底に現れるヒナ、この世界での大切な村の人々。
<あの悲劇はもう過去のこと。だからもうどんなに足掻こうと変えられなイ。けど、目の前の悲劇への引金は現在のこと。足掻けば悲劇の道を変えられル。どんなに辛くても……。これを乗り越えれば、きっと辛さを吹き飛ばす楽しさが待ってるかラ>
そして、記憶の奥底から消える。
ヒナ、皆──。あの頃は戻らない。
あの時のように失いたくない。
私は"もう二度と大切な人を失わない"─────
変えてみせる。
悲劇を喜劇に────
私は今すぐにでも倒れそうな重い足で立ち、今にでも死にそうな目で土瑠亜を見た。
そして、今すぐにでも動かなくなりそうな手で、手に持つ回転鉄具を投げる。
武器が土瑠亜を貫いた。
「くっ、───」
「まだまだっす!!」
カルトは流れるように飛ぶ回転鉄具を掴む。そして、その回転鉄具を握りしめ敵の懐へと入り込んだ。
「勝たせて貰うっすよ!!」
カルトは手に持つ回転鉄具を縦に握る。そして、下から上に縦に投げた。
土瑠亜の腹から頭に掛けて武器が多数当する。相当な負傷を与える。
しかし、まだ立つ土瑠亜。
「これで終わらすわ────」
これは賭けだ。
体力的に魔王が選べるのは二択。能力か武器か……
能力なら無効化で対処。間違えて強化したら重力の餌食となる。
武器なら強化で防げる。間違えて無効化しても意味がない。回転鉄具は落ちていく、何もしなければ負傷を受けるのは確実だ。
強化か無効化か────
俺は努力でより強く強くなった強化で受けて立つ!!!
『 武器落下加速 ────』
勢いよく落ちる回転鉄具は威力を増加させながら落ちていく。
土瑠亜は身を土で固めて防御を段々と上げていく。
回転鉄具が土瑠亜を貫いた。
「ウチらの勝ちっすね」
土瑠亜はその場に倒れた。瀕死だ。それと同時に回転鉄具も土の硬さに殺られて壊れていた。
私は重い身体を引き摺りながら土瑠亜に近づきポケットにあるペンダントを奪い返した。
「トドメはどうするっすか?」
「トドメはささない。いや、させない。」
「何でっすか?ウチらの武器は壊れても班長の剣を使えば斃せるっすよ」
「自らの手で倒す方法を封じられている時点で私達は負けよ。ここに置いていくわ」
「じゃあ、代わりに班長の武器を貰っておくっすわ」
私はカルトを見た。
少しずつ瞼が落ちていき霞んで見えていく。
「そういや、髪切られたんですね。」
「イメチェンよ───」
「けど、ウチ短髪の方が好みっすわ!」
「今は中髪にするわ。気が向いたら短髪にしてあげる」
もう限界だった。
私は目の前のカルトにもたれかかるように倒れた。
失わずに済んだ。良かった、安心が身を包みこみ、私は無の中に入っていった。
私が神宮城にいる間には目を覚ますことはなかった。
良かった────────
そして、ありがとう───────
戦況結果
日野〇──ベティ✕(死)・ゲイル✕(逃亡)
月華〇・カルト〇──土瑠亜✕(瀕死)
番外編:その後のカルト
ウチにもたれかかる月華ちゃん。
激しい戦いで疲れたのだろう静かに眠っている。
ウチは月華ちゃんを持ち上げる。
左腕は両足の膝を支え、右腕は背中を支える。腹や手、足は下に垂れ下がる。顔には美しき寝顔を浮かべている。
───お姫様抱っこだ。
ウチは誰もいない神宮城で、敵の登場を警戒しながら外へと出た。
月華ちゃんはこのことに気付くことなく眠ったままだった。
「気付かれなければ、大丈夫っすよね────」
秘密のキス。そんな事実を秘かにしてウチは無事仲間と合流した。
ウチしか知らない秘密の出来事─
番外編・その後のカルト end




