十八、 プロミネンスブラックネス
静寂の間に敵を睨むカイルとケアン。
距離は充分ある。走ってきても余裕で何発かは撃ち込める。敵は一直線上、目の前。
「サキュバス、リリス掃討作戦にいた奴だろ?すまないが、法令通り殺させて貰う。」
「一つ聞かせろ!その掃討作戦の時に一人、人間を殺したのはお前か?」
「そうだ。それがどうした?」
「何故、人が人を殺すのだろうか?それもそれが正しいとされているのか───」
「魔族は人を殺す。死を持った罪に課せられないと被害を受ける我々は憎しみが止まない。魔族を匿い人に脅威を与えるのもそれと同罪だ。罪滅ぼしのためにせめて死してくれ」
「すまないな。俺は《死刑廃止論者》なんでね────。その気持ちは分からねぇわ」
光のレーザーがカイルを捉える。もちろん、カイルには見えていない。
銃弾をセットし銃を整える。そして、姿勢を正し狙いを再び定める。後は引金を引くのみ。
バンッ───
引金を引く。
銃弾はカイルの胸に向かって一直線に進んでいく。
銃弾はフェンシングの剣に衝突し真っ二つに裂かれた。二つの半銃弾はカイルの横を通って落ちていく。
「お前には負けんよ」
歩きながら近づくカイル。
再び銃弾をセットし狙いを定める。
引金を引いて銃弾を飛ばすがやはり真っ二つに裂かれてしまう。徐々に近づくカイル。
撃っても撃ってもフェンシングの剣が邪魔をする。
そうこうしている間にカイルはすぐそこへ────
もう目の前だ……
銃は二つに斬られた。もう使い物にならない。
「残念だが、お前の負けだ」
「強いな。何故そんなにも強い?どうして攻撃が全て防がれた」
「強いかは分からねぇが、攻撃を防がれた理由は教えてやる。
お前の攻撃は全て一撃死を狙っていた。いや、この距離なら狙わないと負けてしまう。だから、狙いが絞られる。そこに剣を添えればいいだけだ。能力で溶かし斬ればいいからな。」
「なるほどな。全て読まれていたってことか。それじゃあ、もう一ついいか?思い出したことがあってな……」
「欲張りだな。けど、まあいいぜ!聞いてやる」
「何故、魔王に付く?何の利点がある?上位勇者になれると持て囃されたあのカイルが何故勇者に敵対するんだ?」
「人が人を殺す。そんなことは許されていいはずがないのに、逆に正義とされていることに遺憾を覚える。
もし、目の前の事実に目を瞑れば、そんな正義を変えられるかもしれない。
だからこそ、俺はその可能性に賭けたんだ。」
「なるほどな。俺は勇者を目指す中の優等生だったが、その中の一位にはなれなかった。高望みだ。そりゃあ、カイルがいたからな。」
ケアンは不意に煙草を差し出した。
「やはり、天才の考えは理解出来ないな。負けだ、煙草をやるよ。」
「ありがたく貰っておく。俺が目指すものを手に取るまでに死ぬんじゃねぇぞ!」
「勿論だ!その目標が叶ったら、一緒に酒を飲もう!俺が奢ってやるからさ」
「言ったな。約束だ!」
二人は手に持った煙草を蒸して吸い始めた。そして、お互いにその場を離れた。
◇
口だけの怪物が襲いかかる。
その怪物に銛が刺さる。抜き出すと穴が出来ているが、すぐに元通りに治ってしまう。物理攻撃は全く効かなそうだ。
「なら本体に……と言いたいけど、近寄れない」
怪物はセイモアの周りにとぐろを巻く怪物。そして、上手く立ち回る怪物のせいで近寄れない。
怪物はリリスを目掛けて進む。
反って躱すで何とか助かる。怪物はリリスではなく、その向こうにあった壁を貪った。
壁はなくなり、向こうには穏やかな空が見える。
「このままじゃ勝てない。一か八か、新たに覚えた技で……」
『幻惑の霧』
霧がセイモアを包む。
無残に残る壁や床。そんな惨劇が感じられる廊下から一瞬にして、スイーツ食べ放題の店に変わった。
甘い甘いスイーツの匂いがする。
スイーツが前に見える。豪華なスイーツが有り触れている。思わず腹が鳴ってしまった。
そして、思わず駆け寄る。
何故か遠ざかっていくスイーツの山。
「あれ?スイーツの山がない────」
さっきの店からうって変わって、たゆたう眺めのよい景色が見える。
山を見下ろし、晴天を見上げ、真下には床もなく空に突っ立っていることが分かる。
「ん?」
落ちる!と気付く頃には既に落下し始めていた。
ドサッ。と地面に衝突する音が響いた。
「ふう、何とか助かった。敵がただの馬鹿で助かった~」
その霧の中にいる敵はその中にいる間、幻を見てしまう。そして、霧から出れば幻は消えて現実に戻る。
リリスは額にかいた汗を拭った。
◇
「遅いな……」
パワーはあるが代わりにタメが長い日野は攻撃を躱されていた。
「ちょっと、分が悪いかも!?」
瞬間移動で目の前に現れ、手に持つ小刀を振り回す。日野は斧を盾に防ぐ。
ゲイルは力強く跳ぶと、今度はベティの風魔法が襲いかかる。それは、斧を振り落とす時に出来る衝撃波で相殺する。
「だけど強すぎだろ!!普通、魔法を素手の力だけで相殺なんで出来ないぞ!!」
日野は斧をスナップした。
その刹那、真下に構えるゲイル。体を反り両手をクロスさせ斧の下に隠れる。
斧が手から離れると、二つの小刀が斧を真上へと打ち上げた。
その後、ゲイルは高い身体能力で体勢を整えた。
斧が宙を舞う。
空高く打ち上げられた斧は乱雑に回っている。
『風魔法:強風召喚』
強い風が斧を吹き飛ばした。
この城から遠い遠い所まで飛ばされていく。
「あー!僕の武器が!!せっかく、お父さんが作ってくれたのに──。許さないよ!覚悟はいい?」
「武器は無くした!武器なしで何が出来る?」
「僕の取っておきの技を魅せてあげる。さっきと変わって早いから気をつけてね。」
日野の気迫は高まり、気力が周りに溢れ出ていく。
思わず距離を取るゲイル。
「僕は太陽の炎の温度が高くなればなるほど技のタメが長くなるけど、これなら温度も低いから早く技が撃てる。正直、君たちを斃すのなんてコレで充分なんだよね」
秘めたる光が日野を包み始める。
「魅せてあげるよ!『太 陽黒 点』をね!!」
さっきとは雰囲気が違う日野────
全身の殆どが真っ黒な硬質な皮へと変わる。その皮は、ヒビが入っていてそのヒビから所々紅く燃ゆる太陽のような橙色の光が漏れだしていた。その内、幾つかは真っ赤な炎が見える。
ただ、完全に真っ黒に染まった訳ではない。左足の踝より下は肌色の皮膚が見える。さらに、左手は肌色の薬指と腕から薬指まで繋ぐ皮膚のラインが見える。そしてさらに、左目とその周囲は肌色の皮膚が残っている。真っ黒な硬質は囲むが、左目になるにつれて皮膚の状態となっている。
髪は少し藍色っぽさが増し、より黒っぽくなった。
片目は黒丸の外側に白の普通の目だが、硬質に侵食されし目は紅丸の外側に藍色のおかしな目をしている。
どこか冷静で堕な印象を受ける。
「さあ、僕を楽しませてよ───────!!!」
結果
カイル〇──ケアン✕(白旗)
リリス〇──セイモア✕(場外退場)




