十六、 奪いし平穏か、奪われし平穏か
書きだめ超更新
スサッ ─── ─
宙を舞う髪の毛。
横に振られた剣を避けるためにしゃがんで躱した私は、その勢いで髪だけはその素早さに対応出来ず空へと延びていた。
その長い髪をスパッと斬る剣。
私の髪は長髪から中髪へと変わった。
そして、足に力を入れて土瑠亜の背後を取ってから、さらに距離を取った。
「なかなかしぶといな───」
額を拭う土瑠亜。だが、それ以上に私は疲れている。
「そんなに芯があるが、どうして勇者を殺すという信念を持つのか?」
「勇者は増えすぎた。そのせいか勇者は私達を苦しめている。それに、皆は我慢するだけ。もしくは、その間違いを助長させる。私はそれを絶つ!!」
「それで、王の式典の勇者を狩るということか。その参加者はまさに勇者の暴走化へと導かねない。しかし、勇者を斃した後はどうする?」
「私は───魔族と人間が共存する社会を作りたい」
「魔族と人間が……?そんなの無理だろ!?」
「いいえ、無理じゃない。私の住んでいた村は滅ぶ前は魔族と人間が共に暮らしていたから。」
「そうか…そのために勇者を狩ると──」
「そのためにはまず行動を起こさなきゃいけないでしょ?そんな社会作っても私の村のように滅ぼされるしね。」
「いつしか見失ってたけど、仲間のお陰で再び気付かされた。まだ、仲間には言ってないけどね」
◆
グリーンスケート───
雪も降っていないのに何故かツルツルと滑ることからそう呼ばれている村があった。そう、あったのだ。
人々は魔族と共に暮らしていた。魔族と共存をする村として勇者からは嫌われていた。
ただ、人々はこの村が滅ぶなんて思ってもいなかった。
悲劇は突然やって来る───
七色の勇者である水樹奈々は王の命令の元、村へ魔族との共存を辞めるようにと忠告しに来た。
しかし……
「いいや、儂らは魔族との共存は貫く。帰れ!!」
交渉決裂。村は共存を続ける態度を強行した。
「なら、勇者の権限の下、村を滅ぼします。」
奈々は劔を地面に刺すと、地面は紅く輝いていく。そして、地面が割れ、炎が地面を覆い、猛火の中で人々は苦しみ消えていった。
「ちっ、まだ残っていたか───」
「これ以上好き勝手にはさせなイ!」
「ヒナ!やめようよ!逃げよう!!」
「逃げられない。やるノ。行って、ミヤビ!サクラ!」
ミヤビと呼ばれる夜叉狗の魔族と、サクラと呼ばれる魔狼の魔族が襲いかかる。鋭い牙が勇者を捉える。
「やはり魔族を隠し持ち使役するか。魔族を隠し人々を脅威に晒した罪として死をもって償って貰う」
炎が流れるように魔族を斬る。魔族が殺られるのなんて刹那のことだった。
火属性の能力火炎。それだけなら脅威ではなかった。奈々には出鱈目とも言える明らかにおかしいステータスの持ち主だった。
人々は誰しもこの勇者を最強と呼んでいる。
焔がヒナを襲う───
儚く散る生命。泣いてる暇などない。次は自分が殺されるのだ。
「そこの女も同罪として死して貰おう」
焔が襲うが本能が重力を繰り出して炎を落とす。
───逃げなきゃ!
その事件は村が全て悪かったとされ、勇者は最善の策をしたと評価された。
残された私には二つの感情が芽生えた。
"怨み"と"追悼"
勇者を斃したいという怨み。勇者の歪んだ正義を正すために対抗する。
そしてもう一つ、ヒナやこの村の人達の願い。「人間と魔族が共に暮らす社会」を再び作りたい。これは天にいる皆のため。
ただ、日に日に強くなる怨みが私の心を支配した。
存在しない人間として各地を周り、何年も過ごした。そして、王の式典の存在を知り、そこで勇者達を一網打尽にするために策戦を練り始めた。
当日の月、私は旅立つと仲間が増えた。
勇者が魔族の根殺し作戦で失う生命、それを見て怨みも感じたけど、それともう一つ"仲間と平穏に暮らしたい"とも感じた。
そして、全ての始まりを告げる鐘を……
「あなたを倒して鳴らしてみせる────」
「────。───」
「魔族を奪って平穏を獲得する勇者と、魔族を匿って奪わずにいたら……人間に平穏を奪われた魔王か。正義とは何か」
私は負けれない────
俺は負けない────
私は宙を舞っていた。
剣が私を横なぶりで斬った。力強い攻撃は私を吹き飛ばした。
現実は……そう上手くはいかない。
勝たなければいけないのはお互い様だ。勝つための芯などよりも求められるもの……
それは強さだった。
「強い───────」
◆
「あっ、、、っという間に『光灯』」
指を指して視線を集中させて、眩しい光で撹乱させる。その間にカルトはそこから逃げた。
「ちっ、やられた───」
「って、魔族いるし」
追い込まれているリリス。カルトだけそこから逃げたのだ。
「あの、馬鹿ぁぁぁぁあ!!!!」
叫んでも虚しく響くだけだった。
「ごめんなさいっす!やっぱり生命は捨てれないっすもん」
「さて、殺しにかかるか……。先に忠告しておくが、お生憎俺はペンダント持ってないから──」
「いいわ……。リリスには憎しみが残ってるから」
「俺も(憎しみが)あるな!」
リリスは霧を出すが吹き飛ばされ、銛で攻撃してもいなされる。
「勝てる見込み無───。死んだらカルトの奴、永遠恨んでやるんだからぁ」
リリスは今絶対絶命に立たされていた。
後ろには壁。目の前には二人の敵。武器の攻撃では経験値の差があって勝てない。能力は効かない。やばい──
日曜大更新。




