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鬼の子  作者: Lillie
3/3

第一話  オカ研部(後半)

前回の続きって当たり前か。




「多分そいつは鉄鼠だ。」


「てっそ?」



アロハシャツのバランサーみたいな切り出しになってしまったが、俺の脳内妖魔図鑑で当てはまったのはそいつだけだった。


「そう、鉄鼠。字は鉄のネズミ。別名、頼豪鼠らいごうねずみ。

 平安時代の僧頼豪の怨霊とネズミにまつわる日本の妖怪。

 石の体と鉄の牙を持つ8万4千匹ものネズミとして記されているが...。」


俺の問いかけに対し、 「多分あってると思う」と、しばし考えてそう返してきた。


「なら、もう一つ。」


一葉さんがうなずくのを見て、俺は続ける。


「その中でも大きいのや、周りの奴と姿形や色が違うのはいた?」


さらに考え込む。


本当は思い出させたくないが、場合によっては少ない行動で駆除できる。


その為にも、少し思い出してもらう必要があった。


「いた!いたよそんなの!

 走るので手一杯だったけど、一瞬見たの、大きくて赤いのを。」


(良かった、楽に行くほうだ。)


面倒ごとは避けたいし、できれば楽なほうがいい。

災厄の場合、約9万ものネズミを一匹ずつ潰していかなければならない。

そう考えれば、今回のはとても楽な方であった。


「ありがとう。それさえわかれば後はなんとかできる。」


「なんとか?」


そう言えば何も話してなかったな。


「クラマ。」


俺がいつものだらけた感じじゃなく、上からいう感じになると、クラマも態度を変える。


「俺が戻るまでに、一葉さんにこの部について話しておけ。」


「はっ!」


クラマは凛とした声で返事をした。


俺はそれを横目に部室を出た。



=====================================



部室に残ったクラマは、一葉さんにこの部のことを話し出した。


今回のものは早く終わるということを理解していたので、多少手短に。


「...まず、この部活動について話しておこうか。」


「そう言えば、こんな遅くに学校で何してたか聞いてなかった。」


「ここはオカルト研究部略してオカ研部だ。」


「オカ研部?」


「そう、オカ研部。

 この部活動は校長先生から許可をもらって5時半から7時半に活動している。

 活動の主な目的は...。」


「もしかして、今日みたいなことの対処...とか?

 まさかね、そんなのはまれな話だろうし。」


アハハと頭の後ろをかき、アハハとごまかし笑いをする彼女。


「いや、そのまさかだよ。

 この学園及び、この町の妖魔への対処が私と若、八幡様そしてこの部活動の活動目的だ。」


一葉さんは少し考えた後、少し笑った。


「...難しいことはよくわかんない。でも、ありがとう。今日の私はここにこれたから助かったし。」


その言葉に、クラマもクスクスと笑って見せた。


しかし、心の中では、


(こちらはこちらで警戒をしておきましょうか)


利口なクラマ、出来る男はすぐさま次のことを考え出した。


=====================================


ドア越しに聞いていた零は、心配する必要もないと判断し暗い廊下を進む。


そのほほは少しんでいる気もした。


(いけねーいけねー。集中っと。)


ゆるんだほほを引き締め、暗い廊下の先を見る。


そこには、数千匹の鼠。


情人であれば腰が抜け、立っていることもできないほどの異様な空気が漂う中、彼はじっと赤く光る目を見つめる。


部活動の間や家などで着ている、お気に入りのジャージのポケットに手を突っ込み深呼吸。


フーハーという音とネズミたちがうごめいている音が混じった瞬間。


レイが小さく口を動かす。


「我が血よ、真の姿を示せ。...鬼化きか



零の白く輝く長髪を割り、額から二本の角が現れる。


月光に照らされたそれは、男であることを忘れさせる美しさがあった。


懐から一枚の紙を取り出し、「札紙ぼし急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう。」と唱える。


すると次は、板張りの廊下から、鉄の金棒が現れる。


「さて、お仕事だ。」


その言葉とともに飛び出していく。


ネズミたちも一斉に飛び出し、零を喰らおうとする。


しかし、零はそれを確実に倒し、物の数秒で赤いネズミのところまでたどり着く。


赤いネズミは、自分の危険を感じ一目散に逃げだした。


それを見た零は、「遅い!」と声を上げ、金棒をぶん投げる。


見事に赤いネズミにヒット、グチャリという不快な音とともに赤いネズミは潰れる。


それを見た周りのネズミは一目散に逃げ出ていった。


「...これは」


逃げてゆくネズミを見て少し違和感を感じた。


(本体を倒したから、ネズミは消えるはずなんだけど?)





あ、





「しまっ!「キャ!!!」





「やっぱり!」





気づいた時は遅かった。


部室のほうから一葉さんのものと思しき悲鳴が聞こえる。


零は、急いで部室へと戻った。





=====================================





「大丈夫か!」





一葉さんがこの部に入ってきた時のように、息を切らせながら零が部室の戸を活きよいよく開ける。



すると、一葉さんがぺたんと座り込み泣いていた。


「どうした?」


慰めるように宇優しく声をかける。


「クラマ君が...クラマ君がバケモノと...。」


そう言って窓のほうを指さす。


しかしそこには窓はなく、きれいさっぱり消し飛んでいた。


「そうか...。」


俺は大丈夫だと言いながら笑顔を作る。「そして、ゴメン」一葉さんの首の後ろをトン。

しばらく寝ててもらうことにした。


(これ以上起きてたら、もっとむごいものや辛い思いをさせかねない。)


俺は一葉さんの周りに結界を張る。


部室の中は荒れ果てていた。


窓に近いほうの蛍光灯は割れ、本や机は原形をとどめておれず、さながら殺人事件の現場のようだった。


俺はそんな部室を窓のほうに進み外を見る。


「うぇ」


しかし、2,3歩たじろぐ。


もともと窓からは校庭が見えていた。が、そんなものはどこにもなく、びっしりとネズミが覆い隠していた。


「ハツカネズミか...。」


ハツカネズミとは言葉の通り二十日で子供を産むネズミ。

それがつい最近解き放たれたのでも8万4千匹、一年あればその数を20倍近くまで伸ばせる。


「気持ち悪い。」


その言葉でもまだ柔らかいほどに、匂いや見た目、その他もろもろすべてが気分を悪くさせる。


しかし、「しかしやるっきゃないよな。」


見つめる先では‘真の姿’である天狗になっているクラマが既に鉄鼠と戦っていた。


見た限りでは優勢。流石は槍の名手。


しかし、数で劣る分辛いかもしれない。


俺は窓があったであろう場所から生きよい良く飛び出した。


その2秒後、鉄鼠(心臓)に第一撃を入れる。


しかし、ネズミ一つ一つが鉄鼠であるため、不意打ちは効かない。


第二撃目、クラマがの持っていた槍を足場にして瞬時に入れる。


今度は無事当たった。


妖魔対策の金棒で殴られたためか、鉄鼠は苦しみだし、少しづつ小さくなっていく。


数秒も待たないうちに周りのネズミは消え、鉄鼠は普通のネズミの大きさになった。


「終わったな。」


「はい」


無事討伐完了である。



=====================================


そののちの話。


鉄鼠は無事妖魔図鑑で縛ることができた。


ハツカネズミではなく、20年ネズミにし、草食性にしてやった。


これでもう暴れられないはずだ。


一葉さんは、クラマの手によって家まで送り届けられた。


次の日から、クラマへの目線が熱っぽくなっていたのは見なかったことにしておこう。

最後まで読んでくださりありがとうございます!

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