〜陽凛編〜
「おはよ」
私はそう声をかけられた時から、惹かれていた。
今日も、嫌な1日が始まるのだった。
私の名前は逢阪 陽凛 東京都の中学校に通っている、ごく普通の中学生だ。友達もいるし、いじめられてもいない。ただ平和にすごしていた。
ただひとつ平和じゃないのは、私の感情。
「よっ、逢坂!今日も相変わらずクールだねー」
「別にー?学校が面倒なだけ」
そう、彼 深城 駿翔が私の初恋の相手だ。同じ学年で笑顔が素敵な学年一、モテる男子なのだ。
それに比べて私は性格も態度も男っぽいし、スカートとか制服以外はかないし....
やっぱりかわいい女の子がすきなのかなーとか思ってしまう。
「そうそう、知ってる?駅前に喫茶店できたの。俺まだ行ったことなくてさー、今日いっしょにいかない?」
「今日?別にいい.....」
返事をした時だった。
「駿翔様!おはようございます!今日も駿翔様は美しいです!!」
「うんうん!歩く姿もすきです!」
そう、この子たちは駿翔くんのファンクラブ会員。まさかファンクラブなんてあるとは....
そこまで人気なんだなぁ
「ちょっと、そこのあんた!駿翔様に近づくなんて何様のつもり!?今すぐ離れて!!」
「え?私は駿翔くんに話しかけられただけで...」
「言い訳はいりません!さぁ、行ってください!!」
ファンクラブの圧力に押しのけられ、私はひとりで教室に向かった。
いつもそうなのだ。どこでも人気で、話す機会などほぼほぼないのだ。
だけど、そんな私を見つけては声をかけてくれる。駿翔くんは優しかった。
そんなある日のこと.....
「逢坂、今日の放課後、屋上来てくんないか?話したいことがある。」
「え、あ、うん....。」
それは突然だった。駿翔くんに呼ばれることなど、なにもしていないはずだと、思っていた。もしかしたら、見ず知らずのうちになにか駿翔くんを怒らせたのかもしれない。心の中で不安はつのっていくばかりだった。
その日1日はなにをするにも放課後の事ばかり気にしてしまい、手につかなかった。なにかに集中しようとしても、駿翔くんのことがある頭に浮かんでしまう。
そしてついに放課後がきた。私は緊張しながらも屋上に向かった。
「ギイィィィ......」
重みのある扉を開けると、柵に手をかけて街を眺めている駿翔くんがいた。
「駿翔くん、待たせて、ごめんね...?」
「逢坂、来てくれたんだ、ありがと。」
私はわかった。目が合う度に視線をそらしていた。疑問を抱きつつ、本題へと入ろうとした。
「駿翔くん、話って、なに?」
「あぁ、えっと....」
そのあと数秒間黙ってから、話を始めた。
「俺さ、中学の時から高校にはずっと行きたくない、って思ってたんだ。勉強嫌いだし、人と関わるのもあんまり得意じゃないし...
だから、仕事しようかなって考えてたんだけど、親父が許してくれなくて仕方なく入ったんだ。」
「でもさ、高校で俺はある女の子に一目惚れしたんだ。その子はどちらかと言うとひとりの事の方が多くて、クールで、めんどくさいことが嫌いで。でもそんな彼女に、俺は惹かれていったんだ。」
「え....?それって....」
「そう、俺は入学した時から今日まで、逢坂に片思いしてたんだ。」
信じられなかった。駿翔くんが私のことを好きだなんて、そんな事ありえないと思っていた。私は必死に心の中で これは夢だ と言い聞かせた。
「ねぇ、ほんとなの?私のことが好きって...」
「あぁ、ほんと。俺は嘘なんかつかない。」
「だから、こんな俺で良かったら、付き合ってください。」
私は嬉しかった 自然溢れ出る涙。おさえることが出来なかった。私は泣きじゃくりながら
「よろしくお願いします。」
と返事をした。
これから幸せな日々が続くんだと、そう思っていた。
「なにあの女、許せない、私の駿翔くんなのに.....!」
そう、なにかがカタカタと動き始めていた。