No. 5 同性愛と性同一性障害とTSは似て非なる
作中での性同一性障害や同性愛への知識には主観的な物が多くあります。
私もしっかり勉強したわけで無く、明希ちゃんや知人・友人からの知識なので、そこのところはご容赦下さい。
※18時にアップするつもりが忘れ物てました。次回も投稿時間は未定です。
「明希ちゃん、アンタ本当に変わってるわね。なんか尊敬しちゃうわ。半陰陽の人達ってみんなこうなの?」
「ヒカルさん、分かってますねぇ!」
明希ちゃんの脱童貞宣言を聴いて、ヒカルさんは呆れながらも感心している。
あー、そうじゃないんですよヒカルさん。このままヒカルさんが明希ちゃんワールドに侵食されるのを防がないと。
「ヒカルさん騙されちゃいけません、たぶん明希ちゃんは何も考えずに『男の快楽ってどんなだろ?気持ちいいのかな?』なんてことしか思ってませんよ」
「ちょっと、晴香さん。折角ヒカルさんが感心してくれてるのに、黙ってて下さいよ!って、まあ、そうなんですけど…」
簡単に薄情した明希ちゃんに、視線をジト目にして向けておく。対する明希ちゃんが、ばつの悪そうな顔でヒカルさんを見ている。
「あはははっ!まぁいいじゃない、そういう素直な子は好きよ?本当、明希ちゃん面白いわ。えっと、それでなんの話だったっけ?」
笑い声を上げて明希ちゃんの肩をバシバシと叩くヒカルさん。そんなヒカルさんの言葉に私もそういえばと答えようとしたところ、明希ちゃんが先に口を開く。
「あー、だったら一個ずつ質問していいですか?まず、一つ目の質問は『同性愛』について!ヒカルさんは同性愛者って言ってましたけど、そこんとこ詳しく知りたいです!」
相変わらずな明希ちゃんのストレートな質問に、ヒカルさんは嫌な顔もせずに答えてくれる。
「うーん、同性愛者と言っても、人によってそれぞれね。私の場合は子供の頃からいろいろとトラウマがあって、それで男の子が苦手になっちゃったの」
「へぇ、それで同性愛に目覚めたのはいつ頃なんです?」
「目覚めたっていうとちょっと違うかな。さっき子供の頃のトラウマがって言ったでしょ?その時期にワタシを支えてくれた幼馴染みがいて、気が付いたらその子のこと好きになっちゃってた感じね」
「ええーっ、凄い!その人とヒカルさんは、どうなったんですか?付き合っちゃったんですか?」
無神経にも明希ちゃんは、ずいずいと聴きにくいことを質問している。さっきのヒカルさんが幼馴染みの話をするときの顔…あれを見てれば何となく分かる。
「好きって言えなかったわ。一緒にいれればそれで良かったんだ。でもある日その子に彼氏が出来ちゃって、毎日楽しそうにしてるのを見るのが辛くなっちゃってね、それで高校卒業後に上京してきたの」
「ううっ、ごめんなさいヒカルさん…」
謝る明希ちゃんの頭を優しく撫でながら、ヒカルさんは目を閉じて話を続ける。
「ううん、いいのよ。上京してからは色んな子と付き合って、幼馴染みへの想いも忘れられたし、今の彼女が大好きだから。それに、今度その幼馴染み結婚するのよ」
完全に忘れられてはいないのだろう。ヒカルさんの目は遠くに見える、幼馴染みとの思い出に想いを馳せているように見えた。
「ちょっと、二人共しんみりしないでよ!はい、次に聴きたいのは?」
その場の雰囲気を無理矢理変えようとするヒカルさんに、明希ちゃんが明るい様子で次の質問をした。
「えっと、じゃあじゃあ!ヒカルさんのラブラブな彼女さんの話は今度詳しく聴くとして、性同一性障害との違いって何ですか!?」
ヒカルさんが落ち込まない様に明るくする、明希ちゃんは本当に良い子だな。ヒカルさんもそれが分かっている様で、笑顔でそれに答える。
「ワタシ達同性愛者は女として女が好き、男として男が好きなの。勿論性的な意味でよ?対する性同一性障害の人達は、単純に言うと異性になりたい、もしくは自身の性に違和感があるのね。そして性同一性障害と言っても色々あるけど、本当の意味での性同一性障害というのは…」
ヒカルさんの話によると、性同一性障害障害と呼ばれるものには段階があって、その段階の中でも本当の性同一性障害と呼ばれるものは、私達が理解しているものとは違いがあるのだとか。
まず、異性の服装をすることに満足する異性装者、いわゆるTV。自らの性に違和感を持つものの性転換を望むほどには違和感の度合いが強くなく、異性の装いをすることによって安心感や充足感が得られる人達のこと。
次に自身の性認識が異なるTG。世間や社会的に異性になることを望み、恋愛感情でも異性の立場としてありたいと願う人達。
最後に、性認識の違いから自身の身体に違和感や嫌悪感を持ち、性転換することを強く望むようになる、性転換症・TSと呼ばれる人達。
医学的に性同一性障害と呼ばれているのは、最後のTSのなかでも日本精神神経学会が決めた『性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン』の基準による長期に渡る診断で判断された人のみが、本当の性同一性障害なのだと言えるのだとか。
さらに、これらの診断基準は厳しいもので、精神的にあるいは肉体的にも疲弊することから診断を途中で諦める人も多いらしい。
よって、TV・TG・TSというだけで性同一性障害であるという、一般的な認識は間違っているのだ。
「同性愛者は性同一性障害やTV・TGと一緒にされる事が多くてね。一時期不安になって、性同一性障害の人達の集会に参加してみたの。そしたら、やっぱりワタシは女として女の子が好きなんだって、しっかり理解できたわ」
「あれ?でもヒカルさん、バーで男装してませんでした?」
「あぁ、あれは単なる制服だから。ああいう職場だと男装してた方が受けが良いのよ」
同性愛・TV・TG・TS、最近では学校でもトランスジェンダーについての授業があるが、実際に触れ合った人達に聴いてみないと教科書では分からないこともあるんだなあ。
そんな風に感慨に耽っていたら、明希ちゃんがヒカルさんに次の質問をする。
「じゃあ、最後に。半陰陽のことでヒカルさんが知ってることって何があります?」
いろいろと遠回りをしていた様だが、明希ちゃんが本当に聴きたいのはこれだろう。
「明希ちゃん、最初に言っとくけど、半陰陽の人を直線知ってるわけじゃないからね?」
「はい、それで大丈夫です」
明希ちゃんに念を押したあと、ヒカルさんが話し始める。
「ワタシはの知り合いが飲みに行ったお店に、半陰陽のお客さんが居たらしいの。ニューハーフキャバクラみたいな店で、知り合いの子はその人と少し話たんだって」
「へぇー、そんなお店があるんだ」
「うん、それでその人が本当に凄くて、その人実は漫画家なのよ」
「漫画家ですか?」
「そう、プロの漫画家。三十歳過ぎるまで自分が半陰陽だって気付かないまま、結婚もしちゃったらしくてね」
「ええっ!?結婚まで!?」
「そうなの。それで、さらに凄いのがその漫画家さん、自分のことをネタにして漫画書いちゃってるのよね」
そう言いながらヒカルさんは、キッチンと続いてるリビングの本棚から一冊の漫画本を取り出してきた。
「ええっ!?これがその漫画ですか!?」
芸人ばりの良いリアクションで食い付く明希ちゃんの姿に、ヒカルさんは満足そうにしている。
「読めば分かるけどこの漫画家さん、正確には半陰陽じゃなくて『ターナー症候群』って診断されてるんだけど、性に対する知識に貪欲な人でね。女性としても男性としても性行為をしたことがあるらしいの。その辺も漫画に描いてあるから読んでみて、貸してあげるから」
ヒカルさんが手渡す漫画に興味津々な様子で、明希ちゃんはそれを大事そうに受け取った。
そしてこの先、この漫画が切っ掛けで私と明希ちゃんの関係が変わっていくなど、この時は思いもしていなかった。
…つづく
作中にやんわり登場した漫画家さんは実在します。権利等の問題で詳しくは書けませんが、漫画もちゃんと出版されてたりします。気になる人は調べみてね。
ヒカルさんの閑話があるけど、どこでアップしようか難しいところです。