閑話01 アンドロギュノスと恋する弟 ①
四話目以降のバックアップを忘れてしまい、まさかの消失に書き直しているところです。
閑話のストックは無事だったので、遅くなりましたがアップさせて頂きます。
本当に申し訳ない!
俺、佐藤快晴が初めて土下座した相手は姉である。
幼い頃から俺に対し、BL本を読ませて毎週末に感想文を書かせたり、同級生の男子全員に壁ドンすることを強要してきたり、女の子の服を無理矢理着せられ、それを写真に撮ってアルバムにしたものを姉の友人達に配られたりと、理不尽な扱いばかり受けていたある日、中学二年に進級した俺は遂にキレて姉のコレクションを全て燃やすという暴挙に出た。
その結果どうなったかは、あまり言いたくない。
それでも何か言うとすれば、俺のトラウマが増えたことと、二度と姉に逆らえなくなったと云うことだけ。
あぁ…それと、その時に初めて姉に土下座したんだった。
それから数年の月日が流れ、今もこうして土下座している相手はやはり、姉の晴香だったりする。
「そこをなんとか、お願いします!」
呆れた様子で俺を見下ろす姉に、俺はあの時以上の最高の土下座を披露しながら、さらにお願いするのである。
「今日の合コンに参加して下さいませ、お姉さま!」
「だから嫌だって言ってるでしょ、なんで私が弟の主催する合コンなんか行かなきゃいけないのよ!?」
姉とは違う大学に進学した俺は、姉のせいで台無しになった青春を取り戻すべくイベントサークルに入ったのだが、そのサークルでは毎年懇親会と称して新入生に合コンを主催させていた。
サークルの新入生全員による、じゃんけん大会という名の激しい戦いに敗れた俺は、新入生代表としてこの懇親会の主催者に選ばれてしまった。
色々あったが何とか人を集めることに成功し、無事にこの日を迎えることに安心しきっていた俺のスマホに、今日参加するはずの女性陣から懇親会に行けなくなったことを告げる連絡があったのは、ほんの三十分前のことである。
「女の子が来れなくなっちゃって、連絡があったのが遂さっきなんだよ!代わりに来てくれそうな子が捕まらなくてもう時間が無いんですよ、お姉さま!」
「それだと私一人が行っても仕方なくない?」
姉の問いに、俺は恐る恐る顔を上げてさらに懇願する。
「だから、お姉さまには他に女の子を連れて来てくれると助かるんだけど…ダメ?」
「アンタねぇ、そんな急に言われて行ける訳ないでしょーが!それに、今日はネットで知り合った友達と集まってBL品評会をする予定なの!」
「いや、ほら。その品評会とやらに集まる、ねーちゃんの友達を連れて来てくれって話なんだってば!」
「…ねーちゃん?」
「いえ、お姉さま!」
中学二年のあの時以来、俺は姉のことを「お姉さま」と呼ぶことを強制されている。これを守らないと後で何されるか分かったもんじゃない。
「あのねえ、この品評会は年四回の貴重な集まりなのよ?遠くから来てくれる人も居るんだから、合コンなんて参加できないっての!」
「そこを何とか!何でも言うこと聞くからお願いします、お姉さま!」
「ほほう…快晴、何でもするって言ったかしら?」
俺の迂闊な発言に、姉の目が妖しく光る。ヤバイ!早まったか!?と思うが、もう遅い。
「いいわ、可愛いい弟の頼みだもん。みんなには連絡しとくから、楽しみにしときなさい。それと、アンタは合コン終わったら真っ直ぐ帰ること!」
言い様のない不安はあったが、引き受けてくれた姉に感謝する。
「ありがとうございます、お姉さま!」
全国チェーンの居酒屋の団体客用の大部屋に、三十人近い男女がワイワイと賑やかにしている。
約束通り女の子を引き連れて現れた姉は、俺に一言「今日は女の子達の分、アンタの奢りね」と笑顔で告げた後、この店で一番高い酒を注文した。
急いでコンビニに金を下ろしに行って戻って来ると、いくつかのグループが出来上がっていて、楽しそうに飲み食いしているようだった。
「遅いぞ快晴!こっち来てお酌しなさい!」
既に出来上がっている姉の回りには、先輩達が沢山群がっていた。あの残念な姉になんで男達が群がるのかと言うと、それには単純ながらも深い理由がある。
胸・バスト・おっぱい、他にもそれを表す単語は数多く存在する。そうなのだ、あの理不尽な姉の胸は男達を惹き付ける凶器である。恐らくDかEくらいある、姉の最終兵器に男達は誰もが撃墜されてしまうらしい。
俺としてはもう少し小さいほうが好みなのだが…などと考えていたら、炎に群がる羽虫の如く姉の周りに集まっていた先輩達が、俺の元へとやってくる。
「佐藤、オマエのねーちゃん凄いな!」
「佐藤、お姉さん紹介してくれ!」
「なあ佐藤、義弟と呼ばせてくれ!」
「義弟よ!あれ揉んでもいいのか!?」
「挟まれたい…」
次々とやって来ては己の欲望をぶちまけていく先輩達に、呆れてため息が出てくる。
「はぁ、先輩方。後で俺が殺されてしまうので、そうゆうの止めてください。それに、アレは中身が残念なので変な期待はしないほうが良いですよ?」
そんな俺の言葉を聴いても先輩達はなかなか引き下がらない。
「そんなの俺は気にしない!」
「そんだ!あの膨らみさえ有れば大丈夫なんだ!」
「その通り!あの中身が残念なはずあるかよ!」
「あの中身には夢と希望が詰まってるんだよ!」
「挟んくれればいいんだよ!」
若干、狂喜に支配されかかったこの空間を破壊したのは、その話題にされていた姉であった。
「快晴、早くこっち来ないと秘蔵の写真をここでみんなに見てもらうことになるわよ!」
「はい!喜んでぇ!」
手に持ったスマホをチラつかせる姉の元へ、先程から店内で何度も聴かされているフレーズを叫びながら、俺は光の速さで僕らの為にといった目にも止まらぬスピードで駆け付ける。
「ほら、早く注ぎなさい!」
「イエス、マイシスター!」
俺が注いだ琥珀色の液体を一気に飲み干し、再びグラスを突きだしてくる酔っぱらい。
「ぷはぁー!やっぱりタダ酒は最高だわ!」
「おっさんかよ!お姉さま、あんまり飲み過ぎるなよ?」
「いーじゃん、どーせ介抱するのはアンタなんだし!」
「マジで勘弁して下さいませ。毎回背負うたびに背中に吐かれる身にもなってみやがれですよ、お姉さま!」
「まぁまぁ、過ぎた事はいいじゃないの。それよりアンタ、さっきのは良かったわぁ…先輩達に囲まれてモテモテじゃない」
「お姉さま、アレはみんな男なんですが!?」
「だから良いんじゃないの!快晴、アナタお持ち帰りさそうになったら、ちゃんとお姉ちゃんに言いなさいよ?」
「そんな事あってたまるか!アンタの頭、腐りすぎて溶けてんじゃーねか!?この腐れお姉さまめっ!」
そんな俺達の会話を聞き付けたのか、不意に横から女の子に話しかけられた。
「いやいや、確かにさっきの弟さんは色々と捗りましたよ?」
「そーでしょそーでしょ、流石は明希ちゃん!」
明希ちゃんと呼ばれたその少女は、百七二センチもある姉と比べて若干背の低い俺よりも、更に小柄な可愛いらしい子であった。
「あ、はじめまして弟さん。私はお姉さんのブログ友達の坂本明希です。よろしくお願いしますね?」
「は、はじめまして!ぼ、僕は佐藤快晴十八歳、現在彼女はいません!お友達からお願いします!」
「えっ!?は、はい!こちらこそよろしくお願いします」
挙動不審な俺に対して眩しい笑顔を向けてくれる明希ちゃんに、俺の心臓が飛び出すんじゃないかと思うほどに高鳴っていく。
マジか、一目惚れなんて都市伝説だと思ってた。
この日、俺は運命の相手に出会ったと思って浮かれていた。
実はそれが姉の運命の人でもあるとは思いもせずに…
ちなみに合コン終了後、姉の部屋に集まったBL品評会のメンバー達は、姉の命令で着せて人形と化した俺の写真撮影会にご満悦の様子で帰っていきましたとさ。
ちくしょう!またトラウマが一つ増えたわ!
…つづく?
この閑話は九十%フィクションです。でも弟に取材みたいなことはしてみたり(笑)
ちなみに私は四人兄弟の三番目で、末っ子の弟は小さい頃から私のオモチャでした。
上の二人は歳が離れているので、私達とは遊んだ記憶があまり無いです。でも、兄弟全員オタクだったりします。
兄はアニメとプロレスと車が大好きで、姉は創作貴腐人。私は腐った物を中心に満遍なく手を出す感じで、弟はライトなオタクとか。
その弟はオタクのくせに必ず周りに女の子を侍らせている、オタクの敵でもあります。
そのうち他の兄弟も登場する話とか書いてみようかな?って、そんなの誰が読みたいんだ?