7.夜の歌姫(アレクセイ視点)③
時間が空いたら今日中にレーカに挨拶に行こうと思っていたがなかなか時間が空かずに夜になってしまった。
「寝ているかどうかギリギリくらいの時間か…」
流石に、こんな時間に女性を訪ねるわけにもいかない。
行くだけ行ってみて侍女に様子だけでも確認できれば今日はそれでいいか。
もし寝ていればそのまま引き返してくればいい。
そう思い、行ってみることにした。
部屋に着くと、侍女がちょうど出てきた所だった。
「あっ、ちょうどよかった。君、彼女の様子はどうだい?」
「アレクセイ殿下、元の年齢は17と言っていらっしゃったので当然かもしれないのですが、とても落ちつていらっしゃって初めはびっくり致しましたわ。ですが、お世話されることはあまり慣れていないようでお着替えや入浴は自分でやるからと断られてしまいましたわ。」
「そう、ありがとう。じゃあ、明日の午前中に彼女に挨拶をしたいから予定を明日の朝、彼女が起きたら伝えてもらってもいいかい?その後少し早めのランチを陛下達ととる予定になっているから。」
「かしこまりました。」
用も済んだので、自分の部屋に帰ろうとした時だった。
彼女声が聞こえてきた。
『誰?』
「レーカ様!?」
声を聞いた侍女が、部屋の中に入ろうとするが中にいるものの気配の正体がわかり、それを止めた。
『女神様?私をこんな体力のない体にした人?戻してください。』
「大丈夫。不審者ではないようだ。私が見ておくので隣の部屋でいつも通り待機しておいて。」
「かしこまりました。」
やっぱり、すぐ元に戻りそうだ。
それにしても、彼女は小さくされた事よりも別のことに怒っているようだ。
『出来心って…そりゃ今までの苦労を勝手に無くされたら怒りますよ。運動嫌いの私が歌のためにどれだけ走り込みさせらr…ゴホンッ…したと思ってるんですか。元に戻してください。ついでにお詫びでちょっと良くして返してください。』
なるほど。
レーカの女神様への文句の内容が可笑しかった。
そうか、彼女は歌うことが好きなのか。
『そうですか…ありがとうございます。』
―…………からついてきて。―
扉に近づいたからなのか女神様の声が初めて私にも少しだけ聞こえた。
『はい?』
気づかれないようにあとを付けるとレーカは外に出るようだった。
勝手に出てもいいのかと不安がる彼女を女神様が連れ出しているようだ。
恐らく女神様は、私がついてきているとこを知っているのだろう。
少し歩くと、城の横にある湖で止まった。
バレないように距離をとっていたので何を話しているかは分からなかったがしばらくすると女神様が何かを言い残して私に合図を送ると消えていった。
(あの女神様は相変わらず、イタズラ好きのようだ。一体何をさせたくてここまで彼女と私を連れてきたのか…。)
帰る様子のない彼女を見て、流石に1人でいつまでもこんな時間に外にいさせるわけにも行かず話しかけようとした時だった。
「あー、あー、あー、うーん、やっぱりあんまり声出ないな…女神様聞いてますかー?下手でもいいって言ったのは女神様ですからね!」
女神様にそんな文句を言えるのは彼女とレティくらいのものだと私は彼女にバレないように笑った。
そして、彼女は歌い出した。
彼女の歌はとても優しいメロディーの歌だった。
協会で聞く賛美歌の様だと幼いながらも一生懸命に歌う彼女の声に聴き惚れていると彼女の姿がどんどん大きくなっていった。
艶やかな黒髪は彼女の腰まで伸び、背も少しだけ伸びた。
ちょっとした事で折れそうな手足に豊満な胸割にほっそりとしたスリムな身体。
それを生かすような胸元の大きく開いた薄い水色と白のナイトドレスは月明かりの下で歌う彼女によく似合っていた。
そして、元の姿に戻った彼女の歌は先程までの"幼い微笑ましい歌声"から女神が聞き惚れるのにふさわしい"美しい歌声"に変わっていた。
私は彼女の歌が終わるまでずっと彼女に見とれて、彼女の歌声に聴き惚れていた。
やばい…本気で惚れたかも…。
女神様に心の中で感謝をしてから、私は、なんとしても彼女を妻にしようと決意したのだった。