4.予定外の観客
視線が元の高さに戻っていることを確認して
神様の言った通り元の姿に戻れた、よかったと安堵した。
ホッとしてると後ろから拍手が聞こえてきた。
「後ろから急に声かけてごめんね。
歌声が聞こえだしたと思ったら急に背が伸びていくからびっくりしたよ…元の姿に戻れたんだね、おめでとう。とっても綺麗だね。さっきのは君の世界の歌?」
人がいるとは思ってなかった私は、拍手と声をかけられた事にびっくりして振り返るった。
そして、その人物にさらにびっくり、昼間に見つめてきてたイケメンさんだった。
金色の髪は夜風でサラサラと揺れ、同じく金色の瞳は月明かりに照らされてとっても綺麗。
(今日、色んなイケメンな人を見てきたけどこの人が1番綺麗かも。)
「そうです。こんな時間にすみません。うるさかったですよね?」
初めの方の下手なのままの歌まで聞かれていたかと思うと急に恥ずかしくなった。
「いや、とっても綺麗だったよ。君も君の歌声も。女神様も気に入るわけだね。」
「あ、ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです。」
美形に見つめられてそんな笑顔で褒られると照れてしまう。
「…お世辞じゃ無いんだけどなぁ。そう言えば、自己紹介がまだだったね。私はアレクセイ・ヴァン・ティアステンシア。昼間のレティシアーナの兄だ。私のことも是非アレクと呼んでくれると嬉しい。」
うぅ…自己紹介はいいんだけどね、色気ダダ漏れな甘い笑顔で言わないでっ。
もっと綺麗な美人さんにそういう顔を向けた方がいいと思う切実に。
きっと、私は今は熟れたりんごみたいに真っ赤だろう。
「ア、アレク様、私も改めて自己紹介を。私の名前は雨音鈴歌と申します。名前がれいか、苗字があまねです。レーカとお呼びください。」
ぺこりとお辞儀をすると頬を少し赤く染めて照れた様子で目をそらして上着を手渡してきた。
「レーカ、その格好はとっても魅力的だけどちょっと刺激的すぎるから部屋に戻るまで着ておいてくれるかな?」
へ?
突然現れたアレク様にいっぱいいっぱいだった私は言われてようやく自分の格好に目を向けた。
そう言えば女神様が用意しておくって言ってたけど…。
私今どんな格好してるんだろ…ぅ…。
「~~~っ!ぁ…ありがとうございます」
半ば、ひったくるようにして貸してくれた上着を受け取る。
女神様のばかばかばか。
恥ずかしさのまあり涙目になる。
耳まであつい。
「部屋まで送ろう。」
「ぁ、ありがとうございます。」
あまりの恥ずかしさにお礼を言う声が小さくなってしまった。
さっき貸してくれたアレク様の上着を羽織りアレク様について行く。
女神様の用意してくれた私の服は、薄い水色と白のグラデーションのワンピースのような型のナイトドレスだった。
一応袖はあるものの透けていて隠すという意味では全く役に立たず、大きく開いた胸元は襟ぐりにギャザーが入っていて元々の布の薄さも助けて胸の輪郭が丸わかりだ。
ちなみに私は胸は大きな方だとよく言われた。
バイト先の、制服のワイシャツのボタンが働いてる途中にはずれていた時はかなり恥ずかしかったが今はそれ以上だ。
胸が大きなだけの普通顔の私にこんな服着せないでよ。
既に涙目だけど、泣きそう。
こんなの見せてしまって申し訳なくていたたまれない。
女神様、次会ったら絶対文句言ってやる。
静かな城内、さっきの恥ずかしい出来事が思い出されて目に溜まっていた涙がこぼれる。
隣の歩くアレク様が涙を拭いてくれた。
うぅ、ほんとにごめんなさい。
「ほんとに綺麗だったよ。」
へ?
綺麗…?
あぁ!歌ね!
アメージンググレースはかなり練習したから少し自信がある曲のひとつだっ。
この雰囲気を変える為だろうな、話をふってくれてありがとうアレク様。
歌を褒められるのはとっても嬉しい。
「あの歌は、アメージンググレースと言って神様への感謝の歌…だったんですけど、別の歌にすればよかった。
あんなの見せちゃってお目汚しすみません。」
私が謝ると何かを呟いて苦笑いしていたが私にはよく聞こえなかった。
「いや、そんなことないよ。歌も綺麗だったけどレーカも美しかったよ。許されるならまた見たいくらいだ。自信を持っていいと思うよ。」
ニコッと微笑んで色気たっぷりで言われるとほんとに自分が綺麗になったような気になる。
人を褒めるのが上手いなぁ。
惚れちゃうからやめて頂きたい。
いや、ほんとに。
既に手遅れな気もするけど…。
「お褒めきただき、ありがとうございます。………あの、人のこと言えないですけど、なぜこんな時間にあそこにいらっしゃったんですか?」
「あー、それはね、たまたま近くに用があって通りがかったら、レーカが外に行くのが見えたから気になってついて来た。」
くすくす笑いながら答えてくれた。
「ごめんなさいっ。逃げようとした理由じゃないですっ!」
「いや、大丈夫だよ途中から見てたから。女神様に呼ばれたんでしょ?だったら大丈夫だよ。今度からは私に言ってくれたらさっきの場所に連れていってあげるから次からは1人でいっちゃあダメだよ?」
「はい。」
なんで、そんな色気ダダ漏れな笑顔で見つめてくるのっ。
「じゃあ、名残惜しいけど部屋についちゃったからまたね。」
「あの、上着っ。ありがとうございました。」
上着を脱いで渡す。
今度はきちんと胸元を抑えてお辞儀をする。
苦笑いされながら『どういたしまして』と言われる。
苦笑いされたのはなんでだろう?
「レーカ、おやすみなさい。」
「はいっ、アレク様おやすみなさい。」
なんだかくたくただから、ぐっすり寝れそう。
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次回から4話アレクセイ視点の予定です。