表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

プレリュード

 午前10時15分。毎日この時間に定番のブランチを楽しむ。それがクロウの1日の始まりだ。


 いつものように食堂の扉を開け、正面奥にある調理場で忙しなく仕込みをしている店主、ディエゴに目線を送ってから、右側の奥にある、いつもクロウが食事を摂る場所へと向かう。毎日盛況なこの食堂だが、この時間は唯一と言って良いほど客が少ないため、クロウはゆっくりとブランチを楽しむことができる。


 クロウが通う、村で唯一の食堂兼酒場である”妖精の宴亭”では、太陽が頂点に上る前から営業を始め、冒険者を相手に遅めの朝食や早めの昼食を提供している。また夕方からは冒険者に加えて今日の仕事を終えた村の男たちに地元のエールや近くの街から運ばれてきた蒸留酒を提供しており、毎晩遅くまで気分が高揚した、もしくは悪酔いした客の騒ぎ声や叫び声が聞こえる。


 昨夜も遅かったと思わせる若干浮腫んだ顔で「今日はこれだ」とぶっきら棒に皿を置くディエゴに対し、鷹揚に頷いて皿の中身を吟味し始めるクロウ。


(ほほう、今日は久々に豚肉のエール煮込みか。以前のものと比べて香辛料に工夫が凝らされていて、爽やかな香りがする)


 本人の前では言い淀んでしまうような第一印象を抱かれるであろう強面店主ではあるが、こと料理に関しては芸が細かい。そのことに気付いた時からクロウはディエゴを贔屓にしており、そしてそれは間違いではないと毎日思わされている。もちろん今日も例外ではない。


(何と食べやすい豚肉か。普通に調理しただけでは消えない臭みが感じられないばかりか、豚肉特有の香りや甘みはしっかりと残っている。さすがディエゴだな。これほどのエール煮込みは伯爵家でも食べられまい)


 クロウの実家は貴族である。実はクロウも伯爵となった父親から男爵位を譲られており、正式には”クラウディオ・モリエンテス男爵”という立派な貴族なのではあるが、身分を隠してこの村に滞在している。とはいえ、そんな実家でも食べられないほどの料理を作るディエゴに対し、彼の食堂に毎日通ってしまうクロウを責める者はここにはいない。そう気を取り直し、再び思う存分ブランチを楽しむクロウである。


 今日のブランチも素晴らしかったと口中に意識を集中しながら煮込みの香りを思い出していると、この時間には珍しく大きな声が店内に響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ