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戦場の錬金術師  作者: 理智七結加
第1章 光の天使
6/6

ロストファントムとしての矜持を捨てたらしい。

遅くなって申し訳ありません。

でも、まだ日曜日ですよね?

それに不定期って書いてますし(笑)。

今回もよろしくお願いします。

 ロストファントムとしての矜持を捨てたらしい。そうファイは、工房で一緒にご飯を食べているという状況に結論付けた。


 ロストファントムが「ガラス職人が光の天使の要を知っているよ。」などと言っていたから、ファイは直ぐにでもガラス職人の元の行くのだと思っていた。が、そうロストファントムに言ったら、


「嫌だよ。また子供扱いされたりしたら、僕の心が折れる。」


と真剣な表情で答えられた。


「それに、今日はそろそろ終わるから、じっくりと話を聞くなら明日の方がいいからね。」

「本音は?」

「明日は安全に話が聞けるって分かってるのに危険を冒したくない。」

「……それでも、稀代の錬金術師ロストファントムなの?」

「もうなんとでも言えばいいよ。」


そして、本当に工房に帰ってしまった。勿論、指名手配犯(しかも何を聞いたら良いか分かっていない)が聞きに行くなんて出来るはずもなく、その日は工房で二人でご飯を食べて寝た。なんともあっけない一日の終わりだったとファイは思う。


 翌日、アレクサンダーが工房にやって来た。何やらニヤニヤと笑っていて、完全に面白がっていた。


「俺は、何をすれば良いんだ?」

「とりあえず、そのニヤニヤと笑うの止めましょうか。聖騎士として格好悪いですよ。」

「それを言うなら、今日俺を呼んだロストファントムの方が錬金術師として格好悪いだろう。」

「それ以上言わないでください。僕も、胸に僕の紋章が描いてあるのに、中途半端に噂が広まってるから誰も信じないなんて思ってもみなかったんですよ。」


そう、これは後から気づいた事なのだが、ロストファントムのマントには「錬金術師ロストファントム」の紋章が描かれていた。これに気づいた時のロストファントムの落ち込みっぷりは凄かった。


「……噂って怖いよな。」


アレクサンダーはそうとしか言えなかった。


 話の流れをぶった切ったのは、ロストファントムだった。


「今日は、教会で光の天使の話を聞いた後、書物室で調べ物をします。時間があれば最後にガラス職人の話を聞きに行きたいです。」

「そんなにあるのか。」

「今日中がいいと思っています。次にいつ部隊長が空くのかが分からないというのと……。」


ロストファントムはアレクサンダーを見た。


「気付いているでしょうけど、時間がない。いつ異教徒が攻めて来ても可笑しくはないし、いつ第一部隊が切り捨てられるか分からないですから。」

「第一部隊が切り捨てられる?」

「そこまでは気付いてなかったみたいですね。」


目を丸くしたアレクサンダーにロストファントムは淡々と告げた。


「第一部隊の面々は当事者だから知らないかもしれないですけど、第一部隊は聖教会を作った七人のお気に入りで作られた部隊です。教皇からしてみれば、その存在は目障りなものでしかない。援軍が来ないだけじゃ済まない可能性もあります。」

「なんでそれをロストファントムが知っているんだ?」

「色々とあるんですよ。僕には。」


ロストファントムは少しだけ口元を上げたかと思うと、また真剣な顔に戻った。


「話を戻すと、援軍が来なく、戻っても混乱に乗じて第一部隊は壊滅する事もあるだろうと僕は思っています。よって、僕らには異教徒を倒してこの町を死守するか、先に進むかしかないです。」

「この町を死守するよりも先に進んだ方が現実的だな。」

「理解が速くて助かります。とにかく、覚悟は決めておいた方がいいでしょう。」

「聖協会を裏切る覚悟、か。」


アレクサンダーのまるで問いかけるような言葉にロストファントムは沈黙をもって肯定の意を示した。


「そうしたら、俺は今すぐにでも執務室に戻りたいんだが……。」

「まぁ待ってください。僕の予測だと、光の天使は大量殺戮兵器ですから。重要な判断材料になると思いますよ?」

「は?」


あっさりと告げられたロストファントムの予測に時間が止まったような気がした。


 固まってしまったアレクサンダーは、混乱している中、あっという間に教会の前にいた。


「あら? 聖騎士様は本日はどのような御用件ですか?」

「え、ああ、ええと、光の天使の伝説について調べていまして……。お話を聞かせていただきたい。」

「はい。かしこまりました。」


破壊不能な鉄壁と鋼のお姉さんを難なく突破。その姿にロストファントムは舌打ちをし、ファイが前足でたしなめるように蹴った。


 お姉さんに連れられて入った部屋には、一面だけ古い壁に絵が描かれていた。昨日、ロストファントムが見たいと言った絵であり、お姉さんが見せてくれなかった物である。さすがのファイも、その絵の呆気ない登場に舌打ちするロストファントムを蹴れなかった。


 絵には黒い何かと翼を大きく広げた天使。その下には、場面が変わったのだろう。両手を上げた天使が描かれていて、その天使の手には白い丸い何かがあり、そこから黒い何かに向かって白い太線が描かれていた。さらに、その下には明るい草原に人々が暮らしている様子が描かれていて、そこで絵は終わっていた。


 お姉さんが静かに説明をはじめた。


「この絵は昔からここにあったもので、教会を後からここに建て絵を守っています。」

「それは、この町が作られる前からあったと言う事ですか?」


いい質問ですよ、部隊長! と言うロストファントムの心の声に気付いたのかは知らないが、アレクサンダーはちらりとロストファントムを見て笑った。


「はい。中央の広場にある天使の像と防御壁、この絵は町が作られる前からありました。一部の少数の人々が住んでいて、その人々と草原の遊牧民が集まってこの町を作ったと言われており、光の天使の伝説は元々この地に住んでいた者達の間で話されていたものでした。」


ロストファントムの笑みが深まった。着実にロストファントムの予測の裏付けが出来てきているからだ。それを見たアレクサンダーはこの話はこれで十分だろうと思ったのだろう。話を変えた。


「光の天使の伝説はどのような内容なのですか?」

「世界が闇に包まれた時、一人の天使がこの地に降り立った。天使は迫り来る闇に一筋の大きな光を放った。闇はその身を光によって滅ぼした。その後、光の天使は帰ってしまったが、明るく平和な時が訪れた。……残念ながらこれ以上の情報は壁画くらいしか御座いません。」

「そうですか……。」


アレクサンダーがロストファントムを見ると、ロストファントムは首を大きく縦に振った。もういいと言う合図である。


「ありがとう御座いました。この教会は、以前にも言ったように取り潰しはしません。この町の人々の心に寄り添って上げてください。ただ、聖教会の意向には従っていただきたい。」

「はっはい。それは勿論です。壊さないでいてくださるのですから。聖教会は寛大な御心をお持ちなのですね。」

「ありがとう御座います。」


にこやかにまるで王子様のように笑うアレクサンダーを見ながら、聖教会の実態を知ったファイは呆れていた。


 教会から出て次に向かうのは書物室である。


「あんまり良い話は聞けなかったね。」

「いや、十分でしたよ。伝説の内容は簡単な物でしたが、天使の伝説がこの地の物である事が確認できました。」

「ああ、この地にやって来た人間の伝説では無いって事が分かったのか。」

「そうです。それに、あの絵を見れただけでも行った価値があります。」

「そうか? ただ伝説を絵にしただけだと思ったんだが。」


その言葉を聞いてロストファントムは笑った。そして、得意げな顔をする。


「では、覚えておいた方が良いですよ。文字と絵と口伝では、同じ事を伝えていても情報量とその種類は違います。」

「まあそうだね。」

「先ほどの伝説。口伝では天使が降り立った事と光が放たれた事が分かりました。一方、絵では降り立った所はなく、放たれた物が光かどうか分かりにくかったです。しかし、天使は翼を広げていた事と天使が持っていた物が丸い事が分かりました。」

「それ、重要なことかい?」

「はい。とても重要です。」


アレクサンダーは一向に何が重要か分からないが、確かに伝達方法によって伝わる情報は違う事は分かった。と言うか、分かっていたが、錬金術師にもその違いがあるのだという事が分かった。


 書物室の鍵はこれまたあっさりと預けられた。アレクサンダーが居るだけで、こうも簡単に物事が進んで行くと何も言われていないのにロストファントムの心は重くなっていった。憂鬱である。しかも、さらに憂鬱になる事が、書物室の前で待っていた。


「ユリエラ・スカラコッド副部隊長。なぜここに?」


ロストファントムは既視感を覚えたのも無理はない。聖騎士隊の制服をきっちり着こなし、背筋を伸ばして入口の前に立つ姿をロストファントムは三日前に見ていた。念願の伝説の調査中で、しかも上手くいっているにも関わらず、ロストファントムはため息をついた。

ユリエラが出てきました。

個人的に好きなだけです。

ユリエラ登場に関しては書いてから「これ本編にあんまり関係ないな。」と思いました。

なので、次の話でもそこまでユリエラには触れないと思います。

読んでいただきありがとう御座いました。

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