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戦場の錬金術師  作者: 理智七結加
第1章 光の天使
5/6

午後が余ってしまった。

二週間も空いてしまってすみませんでした。

今回もよろしくお願いします。

 午後が余ってしまった。本来ならば教会で天使の伝説について聞き、書物室で資料を漁って一日が終わるはずだった。明日にならないとアレクサンダーは来ないので、今日は天使の伝説について全くわからないと考えた方がいいだろう。あの教会のお姉さんからの話よりかは聖騎士による事前調査の報告書の方がましなことが書いてあるが、報告書に書いてあることもなんの役にも立たないので全く分からないのと同じ状況なのだ。


 天使の伝説について調べることも考察することも関連する実験をすることもできない。


「暇だ。退屈だ。ファイ、なんとかして。」

「……歌おうか?」

「やめて。ファイの歌を聴かされるくらいなら今すぐに異教徒が攻めてきた方がましだよ。」

「酷いなぁ。」


酷いのはファイの歌の方だとロストファントムは思った。なにせ、これほどまでに下手な歌は聴いたことがない。ちなみにファイは自分の歌の酷さを理解している。というか、悟った。歌おうとすれば魔道士仲間に口を塞がれ、敵の前では全力で歌って来いと言われた。そのために、声をより大きく広く届ける魔法を作ったことはいい思い出である。


 しばらくして、ロストファントムはおもむろに立ち上がった。


「どこに行くんだい?」

「町を見てこようと思って。」

「町を見て何かになるの?」

「とりあえず付いてきなよ。昨日入った時に見た感じだと、面白いものが見られると思うよ。」


 そんなこんなで工房の外に出てまず最初に見に行ったのは、防御壁だった。石でできているようだが、全体を見ると継ぎ接ぎが無いし、滑らかである。


「ね? 面白いでしょう?」

「……ごめん、ロストファントム。何が面白いのか全くわからない。」

「なんでよ。それでも僕の飼い猫なの?」

「俺は錬金術師でも飼い猫でもないからね。」

「……まぁいいや。話を戻すと、この防御壁、失われた時代の遺跡だよ。」


その言葉にファイは固まった。


 失われた時代。それは、まだ魔法が存在しなかった時代であると言われている。魔法ではない何かで高度な文明を築いていたらしく、その文明の遺跡が数多く残っている。が、謎も多く、本当にそんな時代があったのかと思うほど遺跡以外の痕跡が何もないことで有名だ。失われた時代の人間は魔法が使えない前人類で、その生き残りはいない。失われた時代の終わりは前人類と今の魔法が使える人類との戦いであるとされ、その戦いで絶滅したと考えられている。簡単に言うと、とにかく謎の多い時代なのだ。


 滅多にお目にかかれない代物が町の防御壁になっているなんてファイでなくても驚いて固まってしまうだろう。復活したファイはロストファントムに質問した。


「なんでそんなこと分かるんだい?」

「この防御壁の材料は、遺跡でよく見る物と同じコンクリートが使われているからだ。」

「こんくりーと?」

「今の人類では作れない代物だよ。前人類はよく使う物だったみたいだけどね。硬いのに色々な形に加工できるみたいだよ。遺跡で見たことがある。」


ファイの前足がそっと防御壁を撫でた。確かにこんなにもなめらかな防御壁は今の人類には作れないだろう。


「でも、この防御壁には、結界魔法が施してあるよ。対魔法用だ。前人類は魔法が使えないのじゃなかったっけ?」

「最近施したものじゃないのかい?」

「実際に構築されたのが何年前かはわからないけれど、この術式は古いものだよ。効率が悪すぎる。劣化はあまりしていないから、術者の腕前が相当なものだったか意図的に古い術式を使ったかのどちらかだろうね。」

「この町がいつ出来たのか調べた方が良さそうだね。」


つい先ほどまでの退屈な時間は無くなっていた。楽しくて仕方がないとでも言うかのようにファイの尻尾が垂直に立っているのを見てロストファントムは笑みを浮かべた。その笑みは、まるで新しい遊びを見つけた子供のような無邪気なものだった。


「そんなところまで猫なんだ……。」

「え? 何か言った?」

「いや、なんでもないよ。」

「そう? じゃあいいや。それよりも、次はどこに行くんだい?」

「商店街と職人街を見るついでに中央にある天使の像を見に行こうか。」

「じゃああっちだね。」


先ほどまではロストファントムの後ろを嫌々歩いて来ていたファイが今は前を歩いていることにロストファントムは笑った。


 中央は円形の広場になっていて、そこから八方に道が伸びている作りになっていた。そして、円の中心には噴水と天使の像。


「翼が折れてるね。」


ファイの言った通り根元から少ししたところで翼が折れている。天使の正面から見ると、かろうじて翼があることが分かるくらいしか残っていない。


「これ、折れたじゃなくて折ったんじゃないかな。正確には、切ったんだよ。」

「なんで分かるの?」

「断面が風化はして来ているが綺麗だ。折れたんじゃこんなに綺麗にはならない。」

「へぇー。これもこんくりーと?」

「どうだろう。この大きさなら一つの岩から彫刻することもできるだろうし。」

「こんくりーとで出来てるなら、翼が無いように作ったのかなって思ったんだけど。」


ファイの言葉にロストファントムは目を見開いた。全く考えていなかったのだ。翼が根元から少しした所から無い状態が正しいなんてことは。もし、ファイの言った事が本当なら……。天使の背後にあるのは昨日二人が入って来た門。翼があるだろうと仮定した時にそこに見えるものは、二つの丘。


「ファイ、この像に魔法はかけてある?」

「あるよ。防御壁に使われていたのと同じ対魔法用の結界魔法だ。」


その言葉にロストファントムは確信した。僕の予測は正しいと。興奮で背筋がぞくりとした。


「最高だよ、ファイ。さすが、稀代の錬金術師の相棒・・だ。」

「なんでか分からないけど、ありがとう。」

「後で、あの丘に行くための届けを出しに行こう。明日か明後日には行けるはずだ。」


ファイにはなぜ丘が出て来たのかさっぱり分からなかったが、ロストファントムがここまで興奮しているので面白いのだろうと思って元気よく返事をした。


 八方に伸びる道のうちの一つ、商店街を歩きながらロストファントムは一つの疑問を口にした。


「なんでこんなにガラスが売ってるんだ?」


どこのお店にも雑貨屋なら必ずガラスが売っている。そして、そのガラス技術は素晴らしい。おそらく、今まで見て来た中で一二を争う腕前だ。


「ガラスが名産品なんじゃないの?」

「それがおかしいんだよ。」


 ガラスの主な原材料は珪石、ソーダ灰、石灰石の三つ。そのうち、ケイシャは火山の近くが産地である事が多い。


「この草原で珪石が取れるとは思えない。」

「あの丘が火山でしたとかは?」

「あの丘は人工物だと思った方がいいよ。それに、土の感じからも違うと思う。何よりも、地層深くにあったとしても、前人類は採取できても今の人間には取れないよ。」

「どこかから材料を持って来てるってことか。」

「そうなるね。」


材料は持ってくればいい。だが、ここからが問題だ。ガラスを作るのには、大体千三百度が必要となる。ガラスを造形しようと思ったら温度を上げ、それを保たなければならない。前人類はどうか知らないが、今の人間にとって温度を上げるとなると薪しかない。どこかで黒い燃える液体の話や燃える石の話を聞いた事があるが、それはもっと遠くの話だ。薪で温度を上げたとすると、保つためには膨大な量の薪が必要となる。


「こんな草原のど真ん中のどこに木があるっていうんだい? ファイ?」

「……ないね。それも、見渡す限り。」

「だろう? 原材料どころか薪もないんだ。それでどうしてガラスが名産品になるんだ?」

「……魔道具があるよ。ずっと決められた温度の炎を出し続けるっていうやつが。」

「わざわざ高い魔道具を使ってここで作る意味がない。」


そう言い切られてしまうとファイには何も言えない。が、こういう時に突拍子も無いことを思いつくのがファイだ。ロストファントムは色々な知識があって、それが邪魔をしているが、ファイには何も無い。それが故にありえないことを言ってロストファントムに否定されることも多いが、ロストファントムの思いつかないその発想は「すごいよね。」と褒められている。


 ここで、そのファイの発想力が冴えた。


「この町はたぶん古いから、当時は木があったとか。」

「……。」

「ガラスの造形の上手い職人がここに住みたいって言ったからとか。」

「……。」

「あーもうこれでいいじゃん。ここでガラスが必要だったからここで作った!」


やけになってファイが叫んだ。これで決まりな! と言いながらロストファントムの前を歩いて行く。無言で聞いてるとか少しは反応しろよ、と言うのがファイの言い分だ。


 ついてこないロストファントムを不審に思ってファイが振り向くと、ロストファントムは笑っていた。


「そうだよ。そう言う事だったんだよ!」

「何が?」

「ガラスだ。この町の天使はガラスなんだよ。」

「はぁ?」


もう訳がわからないファイを見ながらロストファントムは言った。


「僕の想定が間違っていなければ、ガラス職人が光の天使の要を知っているよ。」


ロストファントムの目には、雑貨屋に置かれた拡大ガラスを見ていた。

読んでくださりありがとうございました。

SFっぽくなりましたが、科学が発展しているわけでは無いのでSFではないはずです。

前人類がどこまで頑張ったかによりますが。

今後もよろしくお願いします。

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