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戦場の錬金術師  作者: 理智七結加
第1章 光の天使
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調査は思わぬところで難航した。

 調査は思わぬところで難航した。帰ってきた工房の隅でどんよりと丸くなっているロストファントムを見ながらファイは思う。まさか、まともな話すら聞かせてもらえないとはね。しかも、ロストファントムが原因で。


 時は、二人して寝坊しつつもやっと外に出た所まで遡る。晴れ渡る空。これから知ることができるであろう伝説。これほどまでに心踊る日は無いであろう、という感じだった。


「はじめは、どこに行くんだい?」


そう尋ねたファイにロストファントムは元気よく返事をした。


「教会でしょ!」


 フィランの町には、天使を信仰している教会がある。聖教会や異教徒のような大規模なものでは無い。どちらかと言うと先祖のお墓の様なもので、天使の伝説を語り継ぎ、日々感謝を捧げているちっぽけなものだ。だからこそ、聖教会はその教会を壊さず存在を容認している。


 ロストファントムの見立てでは、代々受け継がれる天使の伝説の正しいものと伝説を描いたと言う壁画を見ることが出来るはずだった。


「えっ?」


目を見開き間抜けな声を出して唖然としたロストファントム。そして、猫の姿にも関わらず前足を使って口を塞ぎ笑いを堪えるファイ。そして、そんな一人と一匹の前で微笑む女性。女性の立ち姿は、まるで子供の相手をしているときの様で……。


「あら? 分からなかったかしら? 暗〜くなってしまった町に光の天使様が舞い降りて、ピカ〜っとあたりを照らしてこの町を救ったのよ〜。今度こそ分かったかな? ぼうや。」


否。本当に子供の相手をしている時の立ち姿だった。


 女性がそうなっても無理はないと思う。ロストファントムは男性の中では勿論のこと、女性の中でも小柄な方に位置する。つまり、目の前の女性は、ロストファントムを男性と認識しているため、背の高さからして十歳前後だと判断。さらに、女性の中では大人っぽい顔も、男性の中ではかなりの童顔。目の前の女性は、成長の早かった少し背が高めの十歳以下の子供と、最終判断を下したのだ。


 天使の伝説について教えて欲しいと言った。そして、確かに教えてもらった。明らかに、馬鹿にしている様なものだったが。しかし、今までにも何度か子供に思われてきたロストファントムは挫けなかった。


「お姉さん。僕は、これでも聖教会に所属しているんだ。子供ではない。僕は真面目に天使の伝説について知りたいんだ。」

「まぁ、お父さんについてここまで来たの? 偉いわね。」

「いや、僕は聖教会所属だから聖騎士隊の後方支援としてこの町に来たんだよ。」

「ふふ。そっか〜。立派に聖騎士隊の中で生活して来たのね。将来の夢は聖騎士かしら?」


あぁ駄目だ。このお姉さん鉄壁過ぎる。ロストファントムの心が折れた。何を言っても「坊やの可愛らしい主張」もしくは「坊やの主観」、悪くて「坊やの褒めてアピール」にしかならないのだ。途中まで笑いを堪えていたファイも、流石にここまでとは思わなかったのか、頰が引きつり苦笑いになっていた。


 ロストファントムとしては何としても天使について知りたい。もうこの際、ほんの少しでいい。だから、ロストファントムは恥を忍んで、この状況を利用することにした。


「僕、偉かったんですよ。だから、天使の絵を見せてくれませんか? 父さんが言ってたんです。僕、とっても見てみたくて。」


必殺、偉かったからご褒美ちょうだい、である。子供にしか許されぬ特権であり、よっぽどのことでない限り願いが叶えられる魔法の言葉。そして、今のロストファントムは、少なくともお姉さんに対しては子供だ。これを使わない手はないだろう。代償は、ロストファントムの精神面への大打撃で済むのだから。


 お姉さんは、悩む様な仕草をして言った。


「うーん。ごめんね。坊や。あの絵は古くて、ちょっとでも何かあったら壊れちゃうの。坊やには見せられないかなぁ。」

「僕、何もしないよ。触らないし、あんまり近づかないし、騒がないよ。」

「それでも駄目よ。」

「どうしても?」

「どうしてもよ。大きくなったらおいでね。その時は見せてあげるから。それか、お父さんと一緒にね。」


お姉さんは破壊不可能な鉄壁だった。必殺技は効かず、逆にロストファントムが会心の一撃を食らってしまった。


 呆然とするロストファントムを見て「これはまずい」と思ったファイは、ロストファントムの足を黒い長ズボンの上から引っ掻き、一時撤退の合図を送った。


 工房に戻ったロストファントムは、ちょっとだけ回復していた。


「ファイは何がいけなかったと思う?」

「お姉さんが鉄壁。お姉さんが鋼の精神を持っていた。」

「はっきり言うと?」

「ロストファントムは、男性だと幼い少年にしか見えない。」


机に突っ伏すロストファントム。実を言うと、初対面で子供に見られることを気にしているのだ。かつての死神もこの調子では影も形もないではないか、と。ファイも思っていた。昔は大人びているね、と言われていたなぁ、と。そして、ひらめいた。


「ねぇ、男装やめて見たら?」

「それだっ!」


ロストファントムは勢いよく顔を上げた。


 子供に見られたのは、男性だったらという括りの中である。では、女性という括りだったら大丈夫なのではないか。


「けど、ロストファントムって女の姿はフェナだろう? フェナって行方不明っていうことになってたよね。」

「問題ない。目の色と髪の色を魔法を使って変える。服装も何かあったときのために持っている町娘っぽい物にする。さらに、フェナはツインテールだったから、今回は髪を魔法で軽く伸ばして結ばない。」


これでどうだ! とでも言うかのような剣幕のロストファントムに思わず、「うわぁガチだこの人」とファイは引いた。


 しばらくして部屋から出てきたロストファントムは、くすんだ金髪に青い目というこの辺でよく見る町娘に変化していた。完全な変身魔法を使える者は一握りしかいないので、これで限界である。ちなみに、ファイは変身魔法を使えるが、魔法の性質上、他の人間への変身はできないので、方法はこれしかなかった。


「いいと思うよ。よく見かける町娘って感じが出てる。これなら十歳以下の子供には見えないと思うよ。」

「それはよかった。やっと、調査ができるね。」

「で、また教会行くの?」

「……鉄壁で鋼なお姉さんは後にして、町の資料を管理してる書物室に行こう。伝説についての記述もある筈だ。」


ロストファントムついた精神の傷は思った以上に深かったらしい。


 町の役所の前で、またしてもロストファントムは撃沈していた。


「ですから、天使の伝説を調査する為に書物室にある資料を拝見させて頂きたいんです。」

「お前みたいな小娘がか?」


先程からほぼ同じ質問を繰り返す厳つい男性。ロストファントムの苛立ちは最高潮に達していた。思わずファイが「攻撃魔法は駄目だよ」「そのスカートの中に隠されたナイフは出しちゃ駄目だからね」と心の中で唱えるほどである。


「ぼ……私は聖教会聖騎士隊所属の錬金術師ロストファントム様の助手なんです。今回は、ロストファントム様からの言い付けで、天使の伝説を調査しなければならないんです。」

「お前みたいな小娘が、あの錬金術師の助手ぅ?」

「そうです。私は錬金術師見習いで、ロストファントム様に付かせていただいています。」

「見習いが聖戦の最前線で、しかもあの錬金術師に付いてるねぇ。」


完全に疑われている。と言うか、あの錬金術師ってなんだ。もう噂が広まっているのか、とロストファントムは思った。一方のファイは、「今度は小娘か」と若干諦めていた。


「ほら、ロストファントム様の飼い猫の黒猫もいますし。」


苦し紛れにファイを持ち上げて言ったロストファントム。それを、訝しげに見た厳つい男性は、それで誤魔化されるはずもない。


「ここは遊び場じゃなぇんだ。とっとと出てけっ!」


ロストファントムは、建物の外に放り出され、完全に戦意を喪失したロストファントムは撤退した。


 こうして、工房の隅で丸くなるロストファントムが完成したのである。


「何がいけなかったんだろう。」

「率直に言うと、胸。」


ロストファントムのよく見ればある膨らみは、よく見ないと無い。これもロストファントムが気にしているものの一つである。が故に。


「お望み通りに消し炭にしてあげるよ。」

「え、ちょ、まっ。」


ファイに向かって放たれる攻撃魔法の数々。それに対して、全力で解除魔法を使うファイ。


「解除。解除。解除ォオオオ。」

「……ッチ。」

「えっ。それはやめよう。ロストファントム。そんなの使ったら、俺どころか工房が消し炭だよ。」

「うるさい。」

「術式消滅!」


放たれる範囲攻撃魔法。焦るファイは、全力で解除の上位魔法である消滅を使ってこれを防ぐ。そんな攻防を続けること一時間。汗だくの二人は、一時休戦して話し合いを始めた。


 猫ではなく人間の姿のファイは、お茶を入れて椅子に座った。


「はい。お茶。」

「……ありがと。」

「で、どうする?」

「もうファイが行ってくればいいじゃん。」

「俺は指名手配犯だから無理。昨日見たけど、もう掲示板に貼ってあったよ。」


ロストファントムは子供に見られて調査出来ず、ファイは調査どころか人に話しかけられない。


「ネズミにでもなって盗み見てくれば?」

「それで一回、駆除されかけたの覚えてるよね。」

「はぁ。」


打てる手がない。この二人でのみ、という条件下ならであるが。


「アレクサンダー連れてくれば? きっと協力してくれるよ。」

「……嫌だ。なんか、負けた気がするから。」

「事情を話して爆笑されながら天使の伝説を調査するのと、天使の伝説を諦めるのどっちがいい?」


ロストファントムはしばらく唸ってから、言った。


「伝説、知りたい。」


アレクサンダーに協力をお願いすると、今日は忙しいので明日なら良い、という返事を貰った。ちなみに、その日の執務室は笑いが絶えなかったという。


「はははっ。幼い少年に小娘とかっ。くはっ。坊やって、ははっ。」

「……。」

「残念、だけど。くはっ。ユリエラ、隠せて、ないからねっ。体、震えてるし。ははははっ。けほっ。ははっ。」

「……ふはっ。あはははは。言わ、ないで、ください。ふははっ。せっかく、堪え、て、たんです、よ。あははっ。こほこほ。ふはっ。」

ロストファントムは十代後半という設定です。

小学生なのに背が高くて大人っぽいひとっているよね、と言う感じで十歳以下に見られてます。

……ちょっと無理があったような気がしなくもない。

まぁそこはファンタジーということで……。

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